第10話②
他生徒達が登校してくる時間、朝練を終えた私は部室へと向かう際、目に映った光景に驚愕する。
門から入ってきたのは、金髪ロングの美少女。
そしてその隣に、私の兄であり想い人の絢士郎が居たのだ。
何度も目を擦って確認するが、間違いない。
「あ、あの子、どっかで…あ!」
どこかで見た事あると思ったら、いつも花野井 みゆうと一緒に居るギャルだ。
そして、昨日トイレでぶつかった女の子でもある。
「ま、まさか!絢士郎のか、彼女!?」
そう思い至ったが、ありえないと首を横に振る。
そんな素振りは今まで見た事がない。
絢士郎の全ての行動を知っているわけではないが、彼女が居る人間なら、休日に1人で運動着で出かけたりしないだろう。
けれど、彼女でないならなんだと言うのだ。
ただの友達にしては、距離が近い気がする…
「確かめなくては。」
そう決心した時、予鈴がなった。
どうやら、思っていた以上に立ち止まっていたらしい。
私は急いで部室に向かった。
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昼休み、昼食を買いに購買まで来たのだが、妙に視線を感じる。
今も購買部の入口付近からずっとこちらを睨みつけている。
気になって仕方が無いので、俺はその犯人に話しかける。
「何か用か?」
犯人である彩華は、びくっと肩を跳ねさせ、1歩下がる。
「き、気づいてたのね。やるじゃない。」
この女は一体何と戦っているのだろう。
そう思わせる程の気迫を感じる。
「・・・ちょっと、面貸しなさいよ。」
ヤンキー漫画のかませ犬のようなセリフを言った。
「今か?」
「今以外なら殺す。」
この歳で殺されたくはないので、俺は大人しく言うことを聞く。
さすがに購買の前で話すのは邪魔になるので、昼休みは人気がない渡り廊下に移動する。
「それで?要件は?」
「そ、そういえば、今日はいい天気よね。最近暑くなってきたし、絢士郎はちゃんと水分補給してる?」
催促するも、彩華は話を逸らす。
これ以上焦らせると、出るものも出ないので、雑談に乗る。
「まあ、もう夏だしな。塩分は摂ってるよ。ほら」
そう言って俺は、購買で買った塩おにぎり2個を彩華に見せる。
「・・・それ、昼ごはん?」
「ああ」
「・・・いつもそれだけなの?」
「食堂の時もあるが、購買で買う時はいつもこれだ。」
そう言って、もう一方の手に持っているメロンパンも見せる。
「何で?ママがいつも弁当作ってるでしょ?」
「断ってる。瞳さんだって働いてるんだ。負担になるだろ。」
「でも、私の分作ってるし、同じじゃない?」
「お前は娘だろ。」
「あんたも息子じゃない。」
「形式上はな。もう高校生なんだ。自分にできることは自分でやるさ。」
それに、母親ヅラされても困る。
瞳さんが嫌いという訳では無いが、特別好きという訳でもない。
親父の嫁。それが俺の認識だ。
「雑談はこのくらいにして。要件は?」
「そ、それよりさ、昨日のテレビの─」
「要件は?」
教室に誠と陸斗が待っているので、雑談を切り上げ催促する。
これ以上は無理だと思ったのか、彩華も観念して口を開く。
「今朝一緒に登校してきた子って?」
「今朝?ああ。笹川の事か?」
「そう、かな?金髪ロングの子」
俺が一緒に登校した金髪ロングと言えば笹川しか居ない。
しかし、何故彩華が笹川を気にするのだろうか?
「それで!どういう子なの?それと、どういう関係?」
詰め寄る形で聞いてくる彩華に俺は後ずさる。
「気さくな奴だよ。俺とはバイトが同じ友達だ!」
「本当に?本当にそれだけ?」
「それだけだって!あと、近い!」
あまりにも詰めてくるので、少し強めに言うと、彩華はハッとした表情を浮かべ、1歩下がる。
そして、顔を赤らめながら、深呼吸をしている。
「・・・その言葉、信じるから。」
そう言って教室の方へと歩いていく。
やっと解放されたと思ったら、彩華が振り返り言う。
「それと、もっとちゃんと食べた方がいいよ。」
その言葉を最後に、彩華の背中は見えなくなった。
何であんなに笹川の事を聞いてきたのか、どうして詰め寄ってきたのか、俺には分からなかった。
「・・・もしかしてあいつ、笹川の事好きなのか?」
それなら分からなくは無いが…
「・・・何か疲れた。もういいや。」
俺は考えるのをやめて、教室に戻った。