第10話①
「それじゃあ、自己紹介でもしようよ。私は笹川 薫。みゆうの親友でーす。」
「同じく親友の和道 黄名子です!」
「俺は唐沢 誠。みゆうとは中学から一緒だ。よろしくな。笹川、和道。」
「自分は冨永 陸斗っす!誠とケンの友達っす!よろしくっす!」
各々が自己紹介をしていく中、俺は考えを巡らせる。
どうすれば笹川を誤魔化せるかどうか。
幸い、まだ俺だとバレていない。
偽名を使うか。いや、花野井が居る時点でダメだ。
「ケン?ケンってそっちの子の事?」
「そうっす。ほら、ケンも自己紹介しとけ。」
考えがまとまらない中、陸斗の催促によって時間切れとなる。
「・・・三井 絢士郎です…。」
結局、正直に名乗るしかなかった。
名前を言った瞬間、笹川の顔が変わる。
「えっと、3組の三井君?」
「いやいや、こいつ1組っすよ。俺と同じで。」
何も知らない陸斗は全て正直に答える。
俺は笹川の顔をできるだけ見ないようにテーブルの上のポテトを食べる。
「・・・そっかー。三井 絢士郎君って言うんだー。実は私のバイト先にも同姓同名の子がいるんだよねー」
笹川は笑顔で言う。
後ろには黒いオーラがあるように見える。
「へ、へぇ〜、偶然ってあるんですね~」
「しかも、その子も甲真で、3組って聞いてたんだよね~」
笹川の顔は笑っているのに、目が笑っていなかった。
俺はただひたすらポテトを食べる。
周りは状況をあまり理解していない。
「自己紹介は終わった?じゃあ、勉強始めよ。」
そこで、花野井が無自覚の助け舟を出してくれた。
その言葉に、誠が反応し、そこからは6人での勉強会が始まった。
終始、笹川は俺を睨んでいた。
「それで?何で騙してたの?」
翌日の昼休み、教室に居ると「ケンティー、ご飯一緒に食べよ~」と黒い目をしながら1組の教室に来た笹川と空き教室に移動してきた。
断れるはずがなく、言われるがままに俺はついてきた。
「いや、何の話か俺には─」
「そういうのもういいから。」
少しキツめに言われて、俺はとぼけるのをやめた。
「別に、騙す気はなかったよ。ただ、花野井にバイト先知られたくないから。それで…」
「私がみゆうに言うと思ったの?」
「まあ、そうです。」
正直に話すと、笹川は長いため息をこぼす。
「なんだ~そんなことか~」
そして心底ほっとしたように言った。
「そんなことって…。俺にとっては、結構大事な事なんだよ。」
「別にいいじゃんそれくらい。同級生のバイト先なんて、そこまで興味無いよ~」
ただの同級生ならそうだろうが、花野井は元妹だ。
そんな奴に自分が働いている姿を見せるのは、恥ずかしい。
まあ、笹川は知らないようなので仕方がないけど。
「てっきり、私と仲良くしたくないのかと思った~」
「いや、それは誤解だ。嫌な気持ちにさせたなら悪かった。」
確かに、そう思われてもおかしくない嘘だった。
そんなつもりは無かったけれど、笹川は不安になっていたのかもしれない。
「良いよ。許してあげる。その代わり、今日からちゃんと友達ね。」
そう言って、笹川は小指を突き出してくる。
意味は分からないが、とりあえず俺も小指を突き出すと、笹川の小指が俺の小指と交わり、笹川が言った。
「もう嘘は無しね。」
その時の笹川の笑顔は、大人びた容姿に対して、子供のような可愛らしい笑顔だった。
「おはよう。ケンティー」
さらに翌朝、電車に乗ると、目の前に笹川が居た。
「何で居んの?」
「そりゃー、ケンティーの乗ってくる駅の隣の駅が私の家から1番近いからだよ。」
そういえば、花野井と登校している時もあった気がする。
それに、俺と同じバイト先なら近くてもおかしくないか。
「ほら、席温めといたよ。」
そう言って、隣の席をぽんぽんと叩く。
俺はお言葉に甘えて笹川の隣に座る。
「そういえば、RINE交換しようよ。友達記念に。」
「まあ、いいけど。」
俺は笹川とRINEを交換した。
「そうだ!昨日のテレビ見た?めっちゃ面白くてさー」
その後は、笹川と何気ない会話をしながら学校に向かった。
初めて出来た女友達との登校に少し緊張したことは内緒である。