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第9話①

 いじめの件から2週間が過ぎた。

 あの日以降、彩華は無理をしているようには見えず、瞳さんも安堵していた。

 ただひとつ、問題がある。


 「おはよう。絢士郎」


 「・・・ああ。おはよう。」


 何故か毎朝彩華が俺の部屋に挨拶をしに来るのだ。

 俺達の部屋は2階で、リビングと両親の部屋は1階にある。

 彩華は朝練がある日は俺よりも早く起きるのだが、その日ですらわざわざ俺が起きるタイミングで2階に上がってきて挨拶をしてくる。

 さらに言うと、朝練がない日は、俺が何も言わずに玄関を出ると…


 「ちょっと、先に行かないでよ。」


 そう言って、何故か一緒に登校するのだ。

 そして今日も2人で電車に乗っている。

 傍から見れば、仲良し兄妹に見えるだろうが、俺からすれば恐怖だった。

 極めつけは…


 「・・・お前、頭でも打ったのか?」


 「話しかけないでくれる?ウザイから。」


 これである。

 一緒に登校するくせに、話しかければ今までのように暴言が飛んでくる。

 俺はそろそろ怒ってもいいだろうか。

 けれど、慣れとは恐ろしいもので、ムカついたとしても、怒りよりも面倒という思いが先行し、怒る気にならない。

 どうやら俺の感情は少しバグってしまったらしい。


 「それじゃあ。また家で。」


 学校に着くと、そのまま彩華は教室に向かう。

 こんなやり取りが、この2週間続いていた。



 「今日も仲良く妹と登校ですか~?いいご身分ですね~」


 教室に入ると、陸斗が涙を流しながら詰め寄ってきた。

 

 「朝から兄妹でイチャイチャと。全くもってけしからん!」


 「誰がイチャイチャだ。俺だって困惑してるし、なんならちょっと怖ぇんだよ。何考えてんのか分からねえし。」


 「そんな事どうでも良いだろうが!あんな可愛い妹と朝から一緒に歩けるならなんだってやるさ!」


 拳を掲げて高らかに叫ぶ陸斗を無視して、席に荷物を置いて誠に借りていた漫画を返す事にした。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 教室に鞄を置き、トイレに向かう。

 個室の鍵を閉めて、1度深呼吸をする。


 (またやっちまったーーー!!)


 兄である絢士郎に、恋をしているという自覚をした日から、勇気を出して距離を縮めようとしているのに…


 (なんであんなこと言っちゃうんだ私はーー!!)


 出てくる言葉は悪態ばかりだった。

 これでは情緒不安定なヤバい奴である。

 クラスの男子にはできるのに、絢士郎の前だとどうしても暴言しか出ない。

 慣れとは恐ろしいものだ。

 今更あんな甘い声を絢士郎相手にできない。

 もし聞かれたら恥ずかしすぎて死ねる。

 

 「絢士郎もずっと変な顔してるし、てか、絶対嫌われてるし!そもそも、既にマイナススタートだし!」


 心の声が漏れて、次第に大きくなる。

 周りにも生徒はいるだろうが、今の彩華には気にする余裕がなかった。


 「てか、私自分からアプローチしたことないし!何すればいいか分からないし!それに、それに!」


 それから一通りネガティブ発言を1人で繰り返し、落ち着いたらところで冷静に考える。


 (いけないいけない。弱気になってた。)


 既に嫌われているなどというのは、分かっていた事だ。

 それを今更嘆いたところで意味は無い。


 「大丈夫大丈夫。今の所ライバルはいないでしょ。冬咲も花野井も恋愛感情では無いはずだし。うん。焦る必要なんてない。」


 絢士郎は目立つのが嫌いで、髪で素顔も見せないようにしている。

 空気に徹している人間なのだ。

 絢士郎を好きだと思っている人はいないだろう。

 仮に居たとしても、あの2人でないなら敵では無い。

 そうやって気持ちを前向きにして、トイレを出る。

 

 「わっ!」


 「あ!ごめんなさい!」


 トイレから出るところで、金髪のギャルとぶつかってしまう。


 「大丈夫大丈夫。こっちもごめんね。」


 見た目とは裏腹に気さくな感じのギャルは私と入れ違いでトイレに入っていった。

 

 (どこかで見たような?)


 そう思ったところで予鈴がなり、彩華は教室まで走った。

 ギャルの事は、頭から抜けていた。


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