第7話②
面談が始まり、最初の方は学校生活や進学についての質問をされた。
まだ最初の面談で、かつ俺は成績も悪くなかったので、陸斗のように小言を言われる事はなかった。
「そういえば、三井は彼女とかいるのか?」
10分ほど経ち、そろそろ終わりだと思っていた時に、先生から問題がありそうな質問をされる。
「先生、そういうの今は良くないですよ。」
「ん?そうなのか。すまない。つい聞いてしまった。それで?どうなんだ?」
謝る割には答えを待つのかと思ったが、俺は聞かれて困る事でもないので、本音で答える。
「彼女はいませんし、今は必要としてません。」
「本当か?冨永なんか、泣きながら欲しいって言ってたぞ。」
陸斗にも聞いたのかよと思うのと同時に、泣きながら必死に訴える陸斗が頭に浮かぶ。
「もちろん興味はありますよ。でも…」
「でも?」
「周りの人達がやっているような、軽い恋愛とかってしたくないんですよ。」
他の奴が聞けば、バカにされるだろうが、高校生の間の別れる前提のような恋愛はしたくない。
もちろん、高校時代から付き合って結婚する人も居るだろう。
けれど、そんなものはごく一部の人間だ。
大抵の人は高校時代の彼女と結婚まではいかない。
「軽い恋愛か。まあ、気持ちは分からなくはないが…。せっかくの高校生なんだ。何事も楽しめよ。」
先生の言いたい事も理解はできる。
彼女が居れば楽しい高校生活を送れるだろう。
けれど、俺は親父のようになりたくない。
誰にでも手を出し、何度もくっついては別れる。
そんな、節操のない男にはなりたくない。
それに、触れられるのはまだ怖い
その後は特に変な質問もなく、俺は教室を後にした。
冬咲を呼びに行こうと図書室に向かう道中で、冬咲とすれ違う。
どうやら、時間を予測して図書室を出ていたようだ。
「三井君が居るという事は、時間はピッタリですか?」
「そうだな。呼びに行く手間が省けた。じゃあな。」
長く話すこともないので、俺はさっさと帰ろうとする。
「あの、三井君。」
そんな俺を冬咲は引き止める。
しかし、それから何も言おうとしない。
「なんだ?」
一向に話さないので、少し催促すると、冬咲は覚悟を決めた顔をして言う。
「お義父さんは、節操がない人なんかじゃありませんよ。」
冬咲は、真剣な顔でそう言った。
俺をまっすぐ見ながら。
「そ、それじゃあ!」
冬咲は教室まで走って行った。
「・・・なんで、内容知ってんだよ。」
聞き耳でも立てていたのだろうか。
冬咲が俺の面談内容を知っていた事が少し恥ずかしい。
「それにしても…」
親父がろくでなしじゃないというのは、どういうことだろうか。
冬咲から見た親父は、良い人間だったのだろうか。
俺は首を横に振り、冬咲の言葉の意味を考えるのを辞める。
考えたところで変わらない。
親父が女たらしであることは、変わらない。
靴箱まで降りてくると、彩華がまだ学校にいた。
彩華の面談は終わっているはずなので、部活以外で残る理由はない。
やはり何かあったのだろう。
彩華は靴箱の中を虚ろな目で見ている。
そのまま靴箱を閉じて、彩華は外に走って行った。
彩華の背中が見えなくなったところで、俺は彩華の靴箱を開ける。
「・・・そういうことか。」
中には、土の塊と生ゴミのような物が詰められていた。
それは、隠しようがない、三井 彩華がいじめられている証拠だった。