第7話①
朝いつものように学校に登校すると、3組の教室前で女子2人が中を覗いて何かを探している。
言うまでもなく、笹川である。
彼女がバイトを始めて1週間。
あの日から毎日のように3組を覗く姿を見かけている。
俺はそんな彼女の後ろを何気ない顔で通り過ぎ、自分のクラスである1組の教室に入る。
「おーっすケン。今日は天気いいな~」
机に座ると、陸斗が話しかけてくる。
朝練終わりなのか、汗ふきシートの匂いがする。
「まあ、夏も近いしな。ていうか、最近はもう夏と冬しか無いだろ。」
「それには同感だわ。てか、聞いてくれよ。昨日面談でさー」
どうやら陸斗は、二者面談で担任から色々と言われたらしい。
部活の頑張りだけじゃダメだとか。
次のテストは何点取れだとか、そんな小言ばかりだったようで、1夜明けた今日もぐったりとした顔をしている。
「ケンも気をつけろー。先生に慈悲はねえぞ。」
俺の順番は、ちょうど今日なので、陸斗の意見を頭の片隅に置いておくことにしよう。
放課後、俺は小腹が空いたので、面談までの間にパンを買いに購買まで行った。
購買から教室までの帰り道で、彩華を見かける。
部活の時間のはずだが制服のままで、何かを必死に探しているように見える。
「何か捜し物か?」
気になった俺は彩華に話しかける。
彩華は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにいつもの睨みつけてくる顔に戻る。
「別に。何も無いけど。」
「何も無いのに、部活に行かないのか?」
俺に対してはこんな態度の彩華だが、外面は良い。
部活をサボるような奴では無い。
「あんたには関係ないでしょ。ほっといてよ。」
「べー」と舌を出して、彩華は走り去って行った。
確実に何かあるんだろうが、本人が気にするなと言うなら追いかける必要は無い。
(俺が助けてやる義理もないか。)
俺はその場を後にし、教室に向かった。
図書室で勉強しながら面談までの時間を潰していると、俺の前の順番の子が俺を呼びに来た。
「では、いってらっしゃい。三井君」
向かい側に座る冬咲がそう言って俺を見送る。
なぜ、冬咲がいるかというと、彼女の順番が俺の次だからである。
「なんで楽しそうなんだよ。お前は」
「さあ?何故でしょうね。」
「うふふ」と笑っている冬咲を無視して、俺は図書室を出て、教室に向かう。
途中で、6組の教室から花野井が出てくる。
どうやら、今面談が終わったようだ。
俺に気づいた花野井が話しかけてくる。
「今から?」
「ああ。お前は終わったのか?」
「まあ。一応進路は未定にしといた。」
「進学じゃないのか?」
「別に進学じゃなくても、家は出れるし。」
「それもそうだな。じゃあな。気をつけて帰れよ。」
「何それ。」
何となく言った言葉に、花野井は笑っていた。
他のクラスから誰かが出てくる素振りはなく、俺は1組の教室前まで来る。
意味は無いが、深呼吸を1度して、俺は扉を開けた。