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第5話②

 花野井がテストで8位をとった。

 これは中学の頃からすると考えられないような快挙である。

 中学の頃の彼女は、特別下という訳でもなく上という訳でもない。

 可もなく不可もなくの順位を取っていた。

 そんな彼女が高校最初のテストで、10位以内を取るというのは、とんでもない努力をしたか、カンニングか。

 後者でないことを願おう。

 そんな順位を見た誠は、「何をしたか問い詰めてやる」と意気込んでどこかへ走り去ってしまった。

 陸斗は他の友人に順位を聞きに行くと言ってその場を去ったので、俺も順位表の前を後にし、1人で購買に来ていた。

 食堂も考えたが、いつも同じ物ばかりでは飽きるので、気分転換だ。

 

 「惜しかったですね。三井君」


 おにぎりコーナーの所でおにぎりを選んでいると、冬咲が話しかけてきた。


 「1位に言われると嫌味にしか聞こえないな。」


 「ご心配なく。嫌味のつもりですから。」


 聖母のような優しい微笑みをしながら、酷い事を口にする。


 「そうかよ。でも、1位も大変だな。あんなに囲まれたら迷惑だろ?」


 「まあそうですけど、慣れてますから。」


 ファミレスでも言っていたが、慣れるほど視線を受けるというのはどんな生活なのだろう。

 冬咲は確かに整った容姿だが、視線を奪われるほどだろうか。


 「あ、あのー、三井君?何か?」


 気づいたら俺は、冬咲の顔をじっと近くで観察してしまっていた。


 「ああ、悪い。」


 「い、いえ。気にしてませんから。」

 

 冬咲は顔を赤くして恥じらっているように見える。

 その姿を見ると、確かに惹かれるものはあるが…


 「やっぱ、ちょっと違うよな。」


 昔を知っているからなのか。

 あまりそういう目で見ることができない。


 「・・・何が違うんですか。」


 つい口に出てしまった事に、冬咲が怒ったように反応する。


 「え?いや、大した事じゃないから。」


 何とも言えない圧を感じ、俺は目線をおにぎりの方へと逸らす。


 「どうして目を逸らすんですか?」


 当然、冬咲はそれを見逃さない。

 何故だろう。

 本人に言っても支障がないことのはずなのに、言いづらいのは。


 「おっと、もうこんな時間だ。さっさと飯食わねえと。じゃあな冬咲」


 「あ!話はまだ─」


 俺はおにぎりを2つ買い、走って購買を後にした。




 「冬咲のやつ、やっぱり変わったよな?」


 放課後、担任に頼まれ書類を職員室に運んだ帰り道俺は冬咲の事を考えていた。

 以前も思ったが、昔よりも話しやすくなったような気がする。

 あんなに柔らかく笑う奴じゃなかったんだが…

 

 「ん?あれって…」


 順位が貼り出されている廊下の前に、金髪ショートの見覚えのあるギャルが立っていた。

 そのギャル、花野井はこちらの視線に気づき、俺と目が合った。

 無視しても良かったが、何となく話す事を決める。

 俺は花野井の隣まで行き、順位表を見ながら言う。


 「8位おめでとう。」


 「2位に言われると、嫌味にしか聞こえないんだけど。」


 「安心しろ。嫌味のつもりで言った。」


 先程冬咲と行ったやり取りとほぼ同じような会話をする。


 「は?殴るよ?」


 どうやら花野井にはこのジョークは通じないらしい。


 「冗談だよ…。勉強したのか?」


 「まあ。中学の時よりは。」


 「何でいきなり?」


 中学の時は、家でも勉強などしていなかった。

 甲真に受かったということは、受験勉強はしたんだろうが、花野井がそれを続ける性格でないことを俺は知っている。


 「・・・あんたさ、早く家出るために色々と頑張ってるんでしょ。」


 何を言い出すかと思えば、俺の話だった。


 「誠が今日言ってた。なんかキモいくらい詰めてきたけど。」


 そういえばそんな事言ってたな。

 俺が家を出たいという話は、別に隠している訳では無いので、知られても構わない。

 そもそも、あの家に住んでいた花野井なら察していただろう。


 「誠の言った通りだよ。俺は家を出たい。あの家族から、離れたい。」


 家族と言ったが、本心では思っていない。

 彩華もその母親もつい1年前までは他人だった。

 それを家族だとは思えないし、親父のようなろくでなしを父親だとは思っていない。

 

 「・・・私も、そう思っただけ。」


 花野井は、どこか遠くを見る目をしていた。

 そんな花野井の気持ちは理解できる。

 あの母親と住み続けるのは地獄よりも地獄だ。


 「まだ、続いてんのか?」


 「まあね。昨日も知らない奴が家にいた。」


 どこか諦めたような声だった。

 それも理解出来た。

 俺が同じ立場でも、きっと家を出たいと思うだろう。

 俺は何となく花野井の頭を撫でる。

 優しくではなく、割とガサツに。


 「ちょ、何?ウザイんだけど。」


 「まあ、なんだ。何かあったら言ってくれ。相談くらいには乗る。」


 「何?急に。」


 「お前の母親のこと、分かってやれるのって、俺くらいだろ。」


 「・・・急に兄貴ぶるな。」


 そう言う花野井の頭を俺はしばらくガシガシと撫でてやった。

 思えば、花野井と喧嘩せずに話したのは初めてかもしれない。

 冬咲や彩華が変わったと思っていたが、俺にも変化があったのかもしれない。

 


 翌日、風紀委員の挨拶当番の日、皆が驚きと混乱でざわついていた。

 集合時間5分前に校門に行くと、花野井がそこにいた。

 委員の仕事をサボってばかりだった花野井が来たことに、先生も喜んでいる。

 

 「何?あんまジロジロ見ないでくれる?」


 理解が追いついていない俺に花野井は睨みながら話しかけてきた。


 「お前、何かあったの?」


 「別に。」


 そう一言言って花野井は目を逸らした。

 

 (・・・女子って、義妹って分からん。)


 最近の3人の義妹の変化に、俺は戸惑うばかりだった。

 

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