プロローグ 冷めた男と3人の義妹
私立甲真学園
スポーツの強豪校として有名で、卒業後プロとして活躍する人材を多く輩出し、勉学においても有名大学への進学率が高い高校である。
今年で創立100年の歴史を持つが、それを感じさせないほどに綺麗な校舎で、前時代にとらわれない考え方を持つため、校則も緩めで人気校である。
そんな名門校に俺三井 絢士郎は通っている。
朝早く起き、洗面台で身だしなみを整える。
せめて寝癖くらいは直そうと思っての行動だ。
「ねえ。邪魔なんだけど」
横から話しかけてきたのは、俺の妹の三井 彩華。
妹と言っても、1年前に妹になったばかりの他人で、歳も同い年である。
誕生日の順番で妹と言っているだけだ。
「何気合い入れちゃってんの?キッモ。」
こんな風に、毎朝俺に罵声を浴びせてくる義妹だ。
出会った頃からこの調子である。
「悪かったな。キモくて。」
言い合いするのも時間の無駄なので、俺は洗面所を後にする。
また突っかかられても面倒なので、さっさと家を出る。
入学式の時は咲いていた家の前の桜も全て散ってしまった。
駅までは歩いてもすぐだが、1本早い電車に乗るために自転車で向かう。
ほんの数分で到着し、駅のホームで電車を待つ。
電車が来たところで乗り込むと、金髪のギャルと目が合う。
「げっ。」
ギャルが思わず声に出してしまったようだ。
「何?どうしたのみゆう。」
「何?キモイやつでも見つけた?」
「別に、何でもない。」
ギャルは俺から目を逸らし、友人達との会話に戻る。
俺もギャルとは顔を合わせたくないので、別の車両に移る。
同じ学校なので降りる駅は同じだが、できるだけ同じ空間に居たくない。
高校の最寄り駅に到着し、学校までは歩いて5分程度で到着する。
教室に入ると、1人の黒髪の少女に目がいく。
その少女は冬咲 麗奈
俺のクラスで1番人気の清楚系美女だ。
今も男女問わず、クラスメイトに話しかけられていてその人気っぷりが伺える。
一瞬俺と目が合ったが、すぐにそらされる。
まあ、彼女が俺を見るはずがないのだが。
それから席について本を読んでいると、登校時間ギリギリに彩華が登校してくるのが見えた。
髪をツインテールにしている所を見るに、そこに時間がかかったのだろう。
「気合い入れてんのはどっちだよ。」
そんなことを1人呟いた。
その後はいつも通り授業を受け、友人と昼食を取り、午後の授業が終われば帰宅する。
俺も帰り支度をして教室を出ると、今朝会った金髪のギャルが居た。
「ちょっと、面貸しなさいよ。」
「俺となんて話したくないだろ花野井」
「当然でしょ。でも、お母さんが呼んで来いって…」
金髪ギャルの名前は花野井みゆう。
見た目通り不真面目な1面はあるが、根は俺以外には優しい奴だ。
「だったら、適当な理由でもつけて断られたって言っとけ。じゃあな。」
「ちょ、ちょっと!待ちなさいよ!」
そう言って俺の腕を花野井が掴む。
「はぁ。いい加減にしろよ。会いたくねえの。」
「私だって、あんたに話しかけたくないわよ。」
「だったらもうこの話は終わりだろ。」
「でも…それじゃ─」
「三井君、先生が職員室に来いって言ってましたよ。」
花野井が言いかけた時、冬咲がそんなことを言って乱入してきた。
「分かった。」
それを好機と捉えて、俺は花野井の手を払って職員室に向かう。
階段を降りるために角を曲がると、彩華とぶつかりかけた。
「どこ見てんのよ。このクズ!」
「はいはい。悪かったよ。」
相手にするのも面倒なので、俺は無視して職員室に向かった。
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絢士郎が立ち去った後、教室の前に冬咲 麗奈、花野井 みゆう、三井 彩華の3人が集まる。
「あんた、何で邪魔したの?」
「何でも何も、三井君が先生に呼ばれてたからそれを教えただけ。」
「はあ?どうせ私の邪魔したかっただけでしょ。」
「ねえ、ここで何してたの?」
「あんたこそ、部活中のはずでしょ?」
「別に、休憩中だし。」
「外から廊下で言い合ってるのが見えたんでしょ?大好きなお兄ちゃんが。それで慌てて来たんでしょ?」
「・・・はあ?」
「何?あんたブラコンなの?キモ。」
「違うけど?てか、花野井さんこそ、あのクズの手握ってたけど、あんなのがタイプなの?」
「はあ?誰があんなクズ」
「お兄さんの事をそんなふうに言うなんて、2人とも妹失格ね。」
「「はあ?」」
「やっぱり、お兄ちゃんの妹は私だけ。」
「あんた、さっきから何言ってんの?」
「優等生気取りが。お前は元妹だろうが。」
「いいえ、彼は今も私の─」
「あいつは私の─」
「あのクズは私の─」
3人が同時に口にする。
「「「お兄ちゃん(兄貴)なんだから(なんだよ)」」」
冬咲 麗奈
花野井 みゆう
三井 彩華の3名は、ろくでなしの父親によってできた、三井 絢士郎の義妹である。