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第9配信 あれから2ヶ月

 太陽の卒業配信から二ヶ月が経過していた。

 あれから間もなく太陽はSNSのZの登録を削除し俺のフォロワーから消えた。太陽の痕跡が残っているのはヨウツベに残っている彼女の配信のアーカイブだけだ。

 こうなってみて俺は空野太陽というVTuberに関して何も知らなかったのだと思い知らされる。

 彼女の年齢も住んでいる場所も本名すらも知らない。ライバーの素性を詮索するのはリスナーとしてタブーだと思うが、もう少しそう言った話もすれば良かったかなと後悔している。


 それに俺個人としてもこの二ヶ月間は大変だった。

 仕事が急に忙しくなり馬車馬のように働いていた。それも何とか落ち着いてきて、最近になって徐々に自分の時間を持てるようになってきた。

 こうして仕事から帰ってきて夕飯を食べてからゴロゴロするのは至福の時間だ。


「はぁ~、苦しい二ヶ月だった。そういや、最近はヨウツベで配信を観る時間があまり無かったなぁ。明日と明後日は休みだし……観て……ぐぅ……」




 不思議な夢を見た――。

 俺は巨大な木が立っている大草原に寝そべっていて何かを待っていた。そこに空から白い翼を持った天使が舞い降りてきて一緒に木の下で話し始める。

 どうやら俺はその天使と待ち合わせをしていたらしい。


 俺の他愛もない話に耳を傾け楽しそうに笑う天使。俺にとってもその時間はとても楽しくて幸福なものだった。

 気が付くと俺たちの周りには沢山の人々がいて皆で笑い合いながら雑談をしていた。




「……んぁ?」


 寝ぼけ眼で周りを見回すと草原ではなく俺の部屋だった。既に外は明るくなっていて時計を確認すると午前九時過ぎ。


「あー、あのまま寝ちゃったのか。風呂にも入らず……ふぁぁぁぁ!」


 背伸びして頭の中を整理していると夢の内容を思い出す。いつもなら夢の出来事なんてすぐに忘れてしまうのに今回は鮮明に覚えていた。

 実に不思議な夢だった。幻想的でありながら妙に現実味があるような。そう言えば、あれは生配信を視聴している時の感覚に近かったような気がする。

 

「あれからもう二ヶ月か……」


 太陽のリスナー仲間の中には個人的に連絡を取り合っている者もいるが最近は忙しかったのでそれもあまり出来ていない。

 太陽の件に関しても特に情報が入ってくる訳でも無く俺の周囲は静かなものだった。

 

 スマホを手に取って何気なくニュースに目を通すと気になる記事を見つけた。


「ぶいなろっ!!の六期生いよいよ今夜デビュー開始。……そう言えば最近そんなこと言ってたな。なになに……六期生のコンセプトは神族と悪魔でユニット名は『ゴッド&デビル』……何か必殺技みたいな名前だな」


 ぶいなろっ!!のメンバーは異世界の住人をイメージしているけど、出てくる種族がどんどん強力なものになってきた。

 一期生は王国の人々だったが五期生にもなるとフェンリル、ユニコーン、ドラゴン、フェニックスと言う伝説級の生物だからなぁ。厳密にはそれら伝説獣を女性擬人化したメンバーだけど。

 その次に来るのなら神とか悪魔が妥当って訳か。インフレが凄い。


「六期生メンバーは、悪魔【ベルフェ・ナハト】、女神【アマテラス・ソル】、堕天使【ルーシー・ニュイ】、天使【ガブリエール・ソレイユ】の四名か……アバターの容姿が解禁って書いてある」


 記載されているアバター画像に目を通すと、ベルフェは角が生えている白髪ロリッ娘、アマテラスはセクシーな巫女さん、ルーシーは黒い翼と天使の輪がある小悪魔系女子と言った感じだ。


「これはまた皆人気が出そうな外見してるな。えーと……ガブリエールは……えっ……?」

 

 ガブリエールの姿を見た瞬間、驚きの余りに心臓が飛び出すかと思った。

 銀色にピンクがかったロングヘア、純白のワンピース、白い翼と天使の輪。顔だけは思い出せなかったが夢に出てきた天使そのものだ。


「何だこれ……まさかあれは正夢? それとも只の偶然なのか? それにしてもここまで似てるなんて……」


 六期生は日にちをずらして一人ずつ初配信をしていく。それが始まるのが今日の十八時から。

 本日初配信をする六期生の一番手は――ガブリエール・ソレイユ。


 何だろうこの感じは? この二ヶ月間ずっと止まっていた自分の時間が動き出したような感覚は――。

 

 それから俺はガブリエールの初配信視聴に向けて行動を開始した。まず風呂に入って朝食兼昼食を済ませると何故か部屋の掃除を始めた。

 何かデジャブを感じるが最近掃除をさぼっていたのでやる気がある時にやってしまう。

 そしてインスタント食品を始め、大量の食料品や飲み物を買って巣ごもりの準備を整え帰宅した。


「ふぅ、調子に乗っていっぱい買いすぎたな」


 時計を見ると十七時を回っていた。配信まで一時間を切っている。早めの夕食を済ませるとパソコンを起動させてヨウツベにアクセスする。

 ふと、太陽の配信を観ていた時の頃を思い出して自然と笑みがこぼれる。彼女の最後の配信からそんなに経っていないのにずっと前の出来事のように感じる。

 あの約束を忘れた日はない。今、俺を突き動かしている衝動もその約束が大いに関係している。

 もしかしたら――。そんな希望を抱いてガブリエールの初配信を待ち、間もなくその瞬間が訪れた。


 画面が切り替わり準備中の文字と共にガブリエールをデフォルメした可愛いキャラクターが空を飛んでいる映像が流れ始め、恐らく彼女のオリジナル曲であろう歌声が聞こえてくる。


「この歌声は……」


 歌を聞いた瞬間、心臓が早鐘を打ち始める。知っている声だ。何回も何十回も何百回も聞いてきたんだ間違いない。この声は――。

 思考が答えに辿り着く前に早々にオープニングが開け、ギリシャのパルテノン神殿みたいな建物が背景として映る。

 そこには肝心のガブリエール本人の姿が見えなかったが、間もなく画面の上側から一人の天使が翼を羽ばたかせながら降りてきた。

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