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第168配信 ぶいなろっ!!サーバー継続YES NO会議

◇久しぶりのワンユウ視点でお送り致します




「……あまり眠れなかったな」


 GTR三日目終了直後、安藤さんから知らされたGTR中止の可能性。ライバー達はGTRぶいなろっ!!サーバー継続を希望しているが、スタッフ側は今回の件を鑑みてライバーの身が危険と判断し中止を考えているようだ。

 冷静に考えてみればAIがエンタメを支配するとか言ってるヤバい状況にぶいなろっ!!メンバーを関わらせようとは思わないだろう。当然の判断と言える。

 同じ運営スタッフと言っても俺たちゲーム開発部はGTRの運営を担当しているのであって、ぶいなろっ!!メンバーに対して責任を持てる立場には無い。だから、ぶいなろっ!!スタッフ側がノーと言ったらそれまでだ。

 そんな事を考えていたら眠気が吹っ飛んでいた。

 

 本日予定されていたGTRは表向きはメンテナンスのため延期となったが、実際はその継続の有無を決めるため会議が開かれる事になっている。

 ぶいなろっ!!の最高責任者であるキャニオン社長が不在なので、代わりにマネージャー十名が話し合いの為ここにやってくるらしい。

 その結果、ぶいなろっ!!サーバーが危険と見なされればサーバー内データの全消去が行われGTRは中止となる。

 彼女たちの安全を第一に考えればGTRは中止にした方が良いのかもしれない。それでも続けたいと思うのは俺たちのエゴなのだろうか?


「そろそろ起きるか。会議は二時間後……安藤さん達と打ち合わせをしておかないと。マネージャー達を説得する秘策があると言っていたけど……」


 ぶいなろっ!!のマネージャーは相良さんしか知らないが、他にはどんな人が居るんだろう? 噂では全員女性で優秀な人ばかりだと聞いている。

 俺たちにそんな才女たちを納得させる事が出来るのか? それ以前に女性とまともに話せるリア充が俺の職場に居るのか? アンポンタンは妻帯者なので彼等が頼りだ。やはり例の秘策とやらに賭けるしかない。


 ゲーム開発部からは俺と安藤さんの他に数名が会議に出席する。本田さんと丹波さんはぶいなろっ!!サーバーのメンテナンスを行っている。皆、GTRを続ける為に行動しているんだ。だから俺も腹をくくらなければならない。その覚悟はある。


 起床しシャワーを浴びるとクリーニングから戻ってきたスーツを着用する。大事な会議だし相手は女性陣だ。このような場合は第一印象が重要。清潔感や仕事が出来そうな雰囲気を装うんだ。昔買ったビジネス本にそう書いてあった気がする。


「おはようございます! 安藤さん、マネージャー達を説得する秘策を教えて貰っても良いで……えっ?」


 俺は息を呑んだ。オフィスには疲れ切った仲間たちの姿があった。皆ワイシャツはクシャクシャで髪はボサボサ、肌は青白く目の下にはクマが目立つ。体調が悪そうで今にも倒れてしまうのではないかと心配になってしまう。


「ちょ、皆大丈夫ですか!? 俺が寝ている間に何があったんですか? いや、そんな事より早く休んで……それとも病院に連れてった方が良いのか?」


 こういう場合どう対処するのが正解なのか分からず戸惑っていると安藤さんが虚ろな表情で近づいてくる。そして――。


「たったらー、ドッキリ大成功!」


「……は? ドッキリ?」


「そうそう、ドッキリ」


 不健康そうな見た目とは裏腹に安藤さんは満面の笑みで「ドッキリ成功!」と書かれたプレートを掲げていた。


「それじゃあ、そのボロボロの姿は……もしかしてメイク?」


「その通り! 去年家族でハロウィンパーティーをやってね。その時に皆でゾンビメイクをしたんだよ。その応用で病みメイクをしてみたのさ」


 嬉々としてスマホでハロウィンホームパーティーの画像を見せてくれる。そこには奥さんと二人のお子さんと一緒にゾンビコスをしている安藤さんが映っていた。


「信じられない。こんな変態オタクがここまでアットホームな家庭を築くなんて……信じられない」


「ワンユウ君って時々かなり辛辣な言葉を僕たちに投げかけるけれどセシリーの影響受けすぎてない? それに信じられないって二回言ったよね」


「大事だから二回言ったんですよ! それにゾンビメイクしていても分かるほど奥さんキレイな人じゃないですか。一体いくらで契約したんですか?」


「いや、うちの妻レンタル彼女じゃないからね! 元々はメイド喫茶で知り合ってアニメの話で盛り上がってさ。それで付き合う事になって、しばらくして結婚したんだよ。それまで彼女どころか女友達も居なかった僕にとっては奇跡の巡り合わせだよ」


「元メイド……だと!? あんたメイドさんに手を出したのか!! くそっ、何てヤツだ。裏山けしからん」


「そういう君は人気VTuber二人と付き合ってるでしょ。しかも公式発表までして。その方がよっぽどミラクルだからね。とにかくこの病みメイク作戦ならマネージャー達は同情してくれるハズ。なんてったって女性は優しいから僕たちの苦労を労ってくれるよ。大船に乗ったつもりで僕に任せて!」


 安藤さんが言った奇跡の巡り合わせという言葉に強く共感した。陽菜とルナとの巡り合わせは俺にとって本当に奇跡と言えるものだ。そう思ったらますます二人に会いたくなってきた。GTRで毎日会ってはいるものの、周りの目がある状況だし俺は仕事中なのでプライベートな関わりはしていない。

 あーーーーーーー、陽菜と月が不足している。それはもう本当に深刻に不足しまくっている! 二人とお茶の間に流せないようなスキンシップをしたくて堪らない。急に我慢の限界が来た。自分がこんな忍耐力の無い人間だったなんて情けなく思うが、そんな事どうでも良くなるぐらい二人に会いたい。

 よし! 今日の会議を病みメイク作戦で乗り切ったら連絡してみよう。GTR継続の許可を貰って二人に会うんだ! 




「――で、その変なメイクは何ですか? まさかこちらの同情を誘うためのものとか?」


 会議開始早々、相良さんは冷たい視線を向けながらこれまた冷たい声で言い放った。俺たちの病みメイクで同情誘ってGTR継続許可貰おう作戦は数秒で頓挫した。ちなみに俺は既に着替えていたので病みメイクはしていない。


「え、いやこれはそのぅ……」


 作戦が瞬殺され為す術を失った俺たちは冷静になった。変なテンションでのぼせ上がった脳みそに直接冷水をぶっかけられた気分だ。

 何だか自分のアホさ加減に恥ずかしくなってくる。こんなメイクで全てが上手くいくとどうして思ったのだろう? 今となっては分からない。


 会議室の中ではしどろもどろな安藤さんの声が聞こえるのみでその他の男共は下を向いたまま黙ってしまう。

 そうしているとポタッポタッという音が聞こえてきた。その出所を探っているとテーブルの上に濁った水滴がいくつも落ちている事に気が付く。

 視線を上の方に向けると安藤さんの顔面病みメイクが汗で落ち始めていた。メイクによって青白かった肌の塗装が剥げて中から健康そうな肌色が見えている。

 奥さん健康を考えたご飯を作ってくれているんだろうなー。

 

「これではまともな話が出来るとは思えません。まずはそのメイクを落として……それに服装もちゃんとしたものに着替えてください。社内のシャワールームを使って全身を清めて来てください。三十分もあれば良いでしょう。――はい、それではスタート!」


 相良さんの掛け声でゲーム開発部の男連中は一斉に会議室から出て行きシャワールームの方へ走って行った。

 まずい。モノローグに耽っていたら出遅れた。俺も一旦外に出てメンタルの立て直しをしてこよう。

 急いで席から立とうとすると相良さんが声を掛けてきた。


「あら、犬飼さん何処に行くんですか?」


「や、その俺……私も身を清めて来ようかと……」


「犬飼さんはメイクしていませんし服装も問題ありませんよね? あたし達とここで待っていましょう」


「え、あ、はい、分かりました……」


 エスケープ失敗! 何てこった。女性マネージャー軍団十名に対して弱小男一人になっちゃったよ。圧が凄いよ、怖いよ、家に帰りたいよ。

 こうなるんだったら俺も病みメイクしとけばよかっ……ん? あれ? いや、嘘だろおい!!


「な……! ひ……る……へぇっ!?」


 ふと目の前に居る女性を見てみると見知った人物であることに気が付く。それはスーツ姿の陽菜と月だった。二人共すまし顔をして俺をジッと見つめている。


「変な声を上げてどうかしましたか犬飼さん?」


「まるで自分と付き合っている彼女が何故かスーツ姿になって目の前に居たから驚いた、みたいな表情をしていますねぇ」


 二人はしれっと俺に話しかけてきた。これはぶいなろっ!!サーバーの今後を決める大事な会議のハズ。そんな場所にどうして二人が居るんだ?

 それはそれとして、思いがけない場面ではあったが陽菜と月に逢えて凄く嬉しい。それにスーツ姿の二人は色気がハンパない。何だか新しい扉が開かれた感じがするぞぉ。

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