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第165配信 GTR 3日目 オカマとネカマのワルツ②

 <ポチョムキン>へ攻撃が通るようになり、戦いは一方的なものになりつつあった。


『動きが速過ぎル! このワタシが翻弄されているというノ?』


 <Vリスナー>の圧倒的な機動性にデルタは舌を巻く。繰り出される攻撃の勢いは激しさを増していった。

 <ポチョムキン>のパンチと衝撃波は全て回避され、その都度チェ-ンソーブレードでカウンターを叩き込まれていく。

 数分前までは傷一つ付く事の無かった装甲に斬撃の痕が幾重にも刻まれ、時には蹴りやバスターナックルによる打撃も織り交ぜられ追い詰められていく。

 眼前で暴れ回る灰色のロボットからは異常なまでの勝利への渇望と執念が発せられている。ぶいなろっ!!メンバー戦では経験する事の無かった狩られる側の気分をデルタは存分に味わっていた。


『チートのメッキに頼っていた弊害が出ているようデスネ。パンチも衝撃波も一発も当たりませんし、このまま楽勝に終わりそうデス。やーい、ザァコザァコ~。ねえ今どんな気持チ? さっきまで自分の方が圧倒的に強いってイキッていたのに、逆にボコボコにされてどんな気持チィ~? アハッ、罵倒するの楽シィ~。これは中々クセになりそうデスネ。今度配信でやってみまショウカ』


『こ……の、酒カスが言ってくれるじゃないノヨォォォォォォォォォ!!』

 

 ブチ切れたデルタはスラスターを噴射して突進してきた。その勢いのままパンチを繰り出すと切り払われ、腕を上に向けた状態で衝撃波が放たれる。それにより自機に衝撃波の反動をもろに受けて硬直してしまう。


『今のタイミングでパリィされタ!? どういう反射神経してるノヨ!』


『俺のゲームスキルなんてゲーム配信ガチ勢からしたらたかが知れてるさ。普通にガブの方がゲーム上手いしな。俺が戦えてるのは、メチャクチャやり込んだスラッシュ&マジックの経験を活かせてるってだけよ』


『ワンユウ様はMMORPGの感覚でロボットを動かしていますからネェ。そのお陰で接近戦は得意ですが射撃が絶望的に下手クソなんデス。エルル様のような精密射撃はまず無理デスネ。せいぜいマシンガンで撃ちまくり天国するのがやっとデス』


『悪かったな、射撃が不得意で!』


 ワンユウはスラッシュ&マジックの経験をGTRのロボ戦で発揮し、デルタの動きを読んでパンチをパリィすると乱れ斬りをお見舞いする。

 攻撃がいなされた上に反撃でフルボッコにされた事でデルタは戦闘スタイルを変える事を余儀なくされた。両腕のシールドを前面に展開しチェーンソーブレードの攻撃を防ぎ始める。


『さすがだわ、ワンユウちゃン。ワタシに<ポチョムキン>のシールドを防御モードで使わせたのはあなたが初めてヨ。こうなったら攻撃を防いで息切れした瞬間を狙わせて貰うワ。ここからは我慢比べって事かしらネ!』


 <ポチョムキン>は全ての攻撃をシールドで受け止める。その防御力は強固でありシールド表面はダメージを受けるも壊れる兆しは一向に見られない。

 その一方で酷使されていたチェーンソーブレードには限界が近づいていた。


『チェーンソーブレード耐久値低下、あと数回斬りつけたら破損シマス』


『チェーンソー系統はGTRの武器の中でも威力はあるけど耐久値が低いロマン兵装だからなぁ、しょうが無いさ。セシリー、七番コンテナ二つを後方二百メートルの位置に設置よろしく』


『おけマル。七番コンテナをセットで待機させマス』


 <Vリスナー>の後方に二つのコンテナが並ぶように地面から生えると側面部が開き自分の出番を待つように鎮座する。

 戦闘場所では限界を迎えたチェーンソーブレードが破損し刀身が真っ二つに折れてしまった。手元に残った部分を投げつけシールドで防御させると蹴りをいれ、その反動を利用して後方に大きく飛び退き設置しておいたコンテナ付近へ着地した。


挿入インサート!』


『七番コンテナ最奥さいおう部への前腕挿入を確認。アタッチメント接続、作業開始。完了まで五秒を要しマス。カウント開始、五……』


 <Vリスナー>が両腕をそれぞれのコンテナに突っ込みカウントが開始される。その様子をデルタは笑みを浮かべて見ていた。


『ワタシを踏み台にするなんて味な真似をしてくれるじゃナイ。今は身動きが取れないみたいだし、悪いけどこの隙を突かせて貰うワヨン!』


 動きが止まっている<Vリスナー>目がけて<ポチョムキン>が勢いよく突撃してくる。二百メートルの距離は生身で全力疾走すると結構疲れるが身長十五メートルのロボットにとっては一瞬で楽々駆け抜けられる距離であった。

 皆が固唾かたずを呑んで見守る中、二機の距離は瞬く間に縮まり接触寸前。


『このままシールドでぶっ飛ばしたげるワ!!』


『……三、二、一、作業完了』


『カウント早くネ!?』


『今流行(はやり)のスキップデス』


『このまま作動させる!!』


 甲高い爆音が響き渡り二つのコンテナがバラバラに弾け飛ぶ。その直後、二機は衝突した。

 シールド特急にぶっ飛ばされると思っていた<Vリスナー>は多少後退するのみに留まり持ち堪える。その両腕にはチェーンソーの刃が直接取り付けられ<ポチョムキン>のシールド突撃を防いでいた。


『ナッ……! 今度は両腕にチェーンソーですっテ!?』


『チェーンソートンファー稼働開始。ギリギリセーフでしたネ』


『チェーンソー一本じゃ満足出来なそうだったからなぁ。今度は二本同時にぶっ込んだるわ!!』


 二本のチェーンソートンファーによる連撃が開始された。<ポチョムキン>は両腕のシールドをピッタリと合わせて鉄壁態勢を取り、ワンユウに隙が出来るのを待つ。

 ――が、そのような瞬間が訪れることは無かった。二本のチェーンソーが凄まじい勢いで襲いかかり一瞬でも気を緩めれば防御を崩されそうになる。

 攻撃全振りネカマと防御最大オカマの終わりのない攻防が続く。


『なんつうドSな攻めをしてくるノヨ。これがあーたの本性って訳かしら、ワンユウちゃン!』


『こっちはメンテ終了までにお前を倒すタイムアタックに挑戦中だからな。攻撃力増し増しのゴリゴリのザクザクで、そのご自慢のシールドごとぶった斬る!!』


『先程まではエロゲーのタイムアタック。今はロボバトルでタイムアタック。本日の私たちは時間に追われていますネ。残業は嫌なので定時までにしっかり終わらせてくださいネ』


『分かっとるわい!』


 絶対的防御力を誇る<ポチョムキン>のシールドはチェーンソーで徐々に削り斬られ表面は既にズタズタ。デルタの余裕も同様にズタズタになっていた。


『何故こんなにも必死に食らいついてくるノ? ワンユウちゃんは配信者じゃないでショウ? あなたがどんなに頑張ったってエンタメの女神は微笑まないのヨ!?』


『そんな見ず知らずの女性がいきなり笑いかけてきたら怖いっつーの。このGTRをライバーが楽しくプレイして、その様子をリスナーが楽しく視聴する。その配信を守るのが今の俺の役目。そんでもってGTRのアーカイブを後でゆっくり鑑賞するのが俺の目下の楽しみって訳ですよ!!』


『ぶっちゃけワンユウ様は自分のお楽しみの為に仕事を頑張っている訳デス。もしもあなたの言うようにエンタメの女神が居たとして微笑んで貰おうなんて微塵も思っていまセン。どちらかというと女神を笑わせる勢いでプレイしてイマス』


『女神を笑わせル? そんなこと考えもしなかったワ……』


 自分の物差しでは到底測れないワンユウに驚きと感嘆の感情を抱くデルタ。その瞬間、戦いへの集中力が僅かに削がれ守備にほころびが生じる。散々攻撃をしまくっていたワンユウがその隙を逃すハズもなく勝負に出る。


『見えたっ! 山のてっぺん――いただきぃぃぃぃぃぃ!!』


『ダジャレで草』


『俺の知ってる女神はさぁ、二人とも笑いの沸点が低くてね。こういうのでも笑ってくれんの!』


 二枚のシールドの間の僅かな隙間にチェーンソーを滑り込ませて左右に斬り込む。<ポチョムキン>の両腕はシールドごと左右に押し開かれ、二機は視線を絡ませた。


『やあ、久しぶりにツラを拝ませて貰ったけど傷が増えて随分と男前になったじゃんか』


『乙女の玉の肌に何て事してくれてんのヨ。タダじゃ済まさないわよ、ワンユウちゃン!』


『その言葉そっくりそのまま返す! チェーンソー最大稼働……必殺ファ◯クション!!』


『アタックファン◯ション、狂犬乱舞』


 赤熱化したチェーンソーの刃が最大回転で稼働し始める。

 <Vリスナー>の嵐のような斬撃が<ポチョムキン>を飲み込みシールド防御のいとまを与えずメッタ斬りにしていく。

 ワンユウとデルタのロボットエンタメバトルが終局を迎えようとしていた。

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