第164配信 GTR 3日目 オカマとネカマのワルツ①
『二番コンテナ! まずは牽制する!!』
『了解、二番コンテナ――マシンガン出しマス』
<ポチョムキン>との本格的な戦いが始まった。<Vリスナー>はアームドベースを稼働させると地面から兵装コンテナが出現、外装側面部が開くと収納されていたマシンガンが露出、すぐさま手に取り撃ち始めた。
『いーい、ワンジ君? 射撃は敵をセンターに入れてスイッチが基本ヨ!』
『ワンジって誰!? ったく、ちゃんと練習通りに当ててるっちゅーの!』
マシンガンから発射された無数の弾丸は<ポチョムキン>に直撃するが傷一つ付けられない。それでもワンジもといワンユウは攻撃の手を緩める事はない。敵機の周囲を駆け回りながら全身を蜂の巣にする勢いで撃ちまくる。
『ワンジくぅ~ん、敵にダメージ与えられていないじゃナイ。そんなザマじゃ大人のキスにはありつけないワヨ~!』
『さっきからうるさいぞ、セシリー! あのチート装甲はあらゆる攻撃を無効化するんだからしょうがないだろ』
『あれはDTフィールドダワ! 突破できるのは魔法使いの条件を満たした大人の男ダケ。DTを卒業しYTになったワンジ君では歯が立たないワ』
『YTって一体な……いや、やっぱ言わなくていいわ』
『そんなのヤリ◯ンに決まってるでしょうヨ』
『そうだと思ったから言うなって言ったんだよ!! それに俺ヤ◯チンじゃねーから! それはパリピな連中の代名詞だろ。俺は生粋の陰キャやぞ! 舐めんな!!』
『本当に仲が良いわね、あーた達。でもね、そんな豆鉄砲じゃワタシは倒せねーワヨ!』
攻撃をしながら口げんかをしていると正面から<ポチョムキン>がスラスター全開で突撃してきた。ワンユウは咄嗟にマシンガンを投げつけバックステップする。
マシンガンはパンチで粉砕され衝撃波が<Vリスナー>を襲う。咄嗟に腕を十字にクロスし防御の姿勢を取る。そのまま後方に数メートル吹き飛ばされたが踏み止まっていた。
『よしっ、狙い通りだな』
『デスネ。衝撃波の直撃を受けましたが<Vリスナー>はほぼ無傷。戦闘続行に支障はありまセン』
『ノーダメージですっテ?』
『その機体のパンチと衝撃波だけどさ、衝撃波が殺傷力を持つのはせいぜい五メートル前後だろ。ここに来る時に戦闘記録を見たんだが気になった場面があってさ。<ギャングバトラーⅣ>の左腕は一撃で吹き飛ばしたのに<ガンライバー>は五体満足の状態だった。その状況の差は距離! ちょっと離れれば衝撃波は威力を失う。それさえ分かればこっちのもんだ。――五番コンテナを使うぞ!』
『ガッテン承知。五番コンテナ――チェーンソーブレードをドウゾ』
兵装コンテナからチェ-ンソーブレードを取り出し装備すると間もなく一帯にチェーンソー刃の駆動音が響き渡る。
GTR二日目に猛威を振るったメイン兵装の登場にコメント欄では「これならもしかしたら勝てるのでは?」という期待に満ちた内容が綴られていった。
『チェーンソーブレード……昨日はそれで量産型を撃破していたワネ。リスナーはそれなら<ポチョムキン>を倒せるかもしれないと期待しているようだけれど、試してミル?』
デルタは余裕を崩すこと無くノーガードで待ち構えていた。その態度に若干の苛つきを覚え操縦桿を握る手に力が入る。
『打ち込んで来いってか。そういう舐めプは身を滅ぼすとさっき言ったばかりなんだけどな。取りあえず遠慮なく斬らせて頂きます!』
<Vリスナー>は地面を勢いよく蹴り込み猛スピードで接近、チェーンソーブレードで何度も斬撃を打ち込んでいく。
『一撃だけかと思ったら何回も斬って草。本当に遠慮無しデスネ』
高速回転するチェーンソー刃と装甲の接触面から火花が散る。その派手な見た目とは裏腹に斬られたハズの装甲は無傷であった。
一縷の望みが絶たれた事で皆に諦めムードが広がる中、ワンユウの怒濤の攻撃は続く。必死に食らいつく姿を見てデルタは悲しそうな表情をしていた。
『ワンユウちゃん、もう止めまショウ。おメスちゃん達もそうだったけれど、どんなにあがいたところで結果は変わらないワ。あれだけ頑張っても<ポチョムキン>は無傷。ワタシとあなた達の間には絶対的な実力差があるノヨ。そろそろ諦めて頂戴ナ』
<ポチョムキン>のパンチを回避して剣を構える<Vリスナー>。ワンユウは即座に攻撃を再開した。
『さっきから勝手に悲壮感を漂わせてるけどさ、こんなに面白いゲームをプレイしてるんだから楽しんだらどうだ? GTRは色んなストリーマーが夢中になってこぞって配信までしてる神ゲーなんだぞ。楽しまなきゃ損だろ。それに俺、勝つし』
『あらまあ、まるで反抗期の少年のような口ぶりネ。可愛いワァ。ワンユウちゃんには白の全身タイツを贈呈しましょうカ』
『要らないし貰ってもすぐにクーリングオフするからね!』
『お話中失礼シマス。ワンユウ様、クック◯ッドから返信がありマシタ。レシピのたたき台が出来たので試してクレメンス、だそうデス。それと一緒にアンポンタン一同から伝言デス。「推しの為にぶっ倒せ!」との事デシタ。以上』
セシリーを通しゲーム開発部の返信を聞いたデルタは意味が分からず怪訝な表情をする。その一方でワンユウはニヤリと笑みを浮かべた。
『分かっとるわい! へへっ、皆考えてる事は一緒だな。そうさ、推しの頑張りを無駄にしない為にも、この戦い絶対に勝たないとなぁっ!!』
「この期に及んで元気一杯とは恐れ入ったワ。けどね、気合いだけでどうにかなるご都合主義なんて起きはしねーノヨッ!!」
二機は同時に突撃を開始した。<Vリスナー>はチェーンソーブレードを大きく振りかぶって全力の一太刀を放ち、<ポチョムキン>はカウンターを叩き込むべくパンチの構えを取った。
その直後、甲高い金属音と共に装甲の一部が飛散するとオーロラ色の照明に照らされキラキラと輝きながら海に落ちていった。
これまで何度も繰り返された無敵装甲のイメージから誰もが<Vリスナー>の損傷を疑わなかった。しかしここに来て、その常識は覆された。
『<ポチョムキン>のダメージを確認。僅かですが装甲に損傷を与えていマス』
『なっ……んデ? <ポチョムキン>がダメージを受けタ? 何がどうなっテ……?』
自機がダメージを受けるという事態を受けてデルタはパニックに陥り動きが止まる。その隙を逃さないとばかりにチェーンソーブレードの連撃が打ち込まれる。
『よしきたこれっ! ここからは俺たちのターンだ。無敵時間の終わりだな、デルタ。ボコらせて貰うからよろしく!!』
『ぐっ……一体ワタシに何をしたノ!? どうやってダメージが通るようになったっていうノヨ?』
攻撃を続けながらワンユウはデルタの問いに答え始める。
『その機体は攻撃を受けた際にダメージ判定をバグで書き換えていた。そりゃ無敵な訳だ、どんな攻撃もフェザータッチみたいな状態にしていたんだからな! でもな、しっかり攻撃判定のログは残ってた。俺はそのデータをチェーンソーで回収してゲーム開発部に送っていたって訳ですわ!』
『補足しますと転送したログのバグデータをゲーム開発部で解析しワクチンプログラムを作成、それを<Vリスナー>に再転送し攻撃に反映させた訳デス。その結果は見ての通リ。しかもこちらがダメージを与える度にデータ解析は進んで、より大ダメージを与えられるようになりマス。今は装甲が少し削れる程度でしょうが、数分後にはチェーンソーでワンパン可能になりマス』
『ナッ……! だとしてもワクチンを作る為には膨大なデータが必要になるハズヨ。ワンユウちゃんの攻撃だけでは、まだ十分なデータは確保できないでショ。それなのにこんな短時間でどうやっテ……』
『攻撃ログなら俺たちが到着する前に大量に刻まれていただろうが』
『大量に……ハッ! おメスちゃん達の攻撃ログを使ったノ!?』
『その通りデス。その機体の全身に大量のログが残っていたので驚きマシタ。お陰で我々はデータを転送可能な状態に塗り替えてチェーンソーで回収するだけで済んだのデス』
『あのマシンガンはデータ転送を可能にするための布石だったノネ』
チェーンソーブレードの斬撃による損傷は次第に威力を増していき、最初は装甲表面を削るだけのものが今やハッキリ刃の痕を残すものになっていた。
『五百秒で倒すと言っただろ。無駄な行動してる暇なんて俺たちには無いからな! 無敵で俺スゲープレイはいい加減飽き飽きしてたんだろ? ここからは俺がGTRの楽しさをこれでもかっていうくらい刻み込んでやるから覚悟しろ』
『ふ……フハハハハハハハハッ!! いいっ、いいわぁ、実にイイッ! これこそワタシが待ち望んでいたエンタメバトルなのヨッ! それが今分かったワ。こんなチート装甲なんて無粋だったみたいネ。さあっ、ワンユウちゃん、心の奥底までバトルを楽しみまショウ。ワタシをゾクゾクさせて頂戴!!!』
『言われなくてもそのつもりだ! 行くぞ、セシリー!!』
『オカマとネカマが暑苦しくなっていますネェ。あのグラサン叩き潰した後のお酒は格別になりそうですし、徹底的にヤってやりまショウカ』
GTR三日目も残り時間はあと僅か。オーロラブリッジの死闘はオカマとネカマのガチンコ勝負によって終局を迎えようとしていた。