第162配信 GTR 3日目 オーロラにかかる霧
電マの正式名称と正しい使い方を学び少しだけ賢くなったダブル天使は攻撃を再開した。しかし電マの使い方を覚えたからといってダメージを与えられるようになった訳ではない。
それでも、もしかしたら次は違う結果が出るかもしれない。その思いが彼女たちを無敵の敵に立ち向かわせる原動力となっていた。
『ルーシー、こうニャったらアレを使うニャ。ナパームより威力は低いけど同じ箇所に攻撃し続けるという点ではアレの方が上だニャ』
『了~解! ノーム先輩、ホイールの回転出力調整お願いしますよ~』
『任せとけ! 最大回転にすっから当ててけよ、ルーシー!!』
<ギャングバトラーⅣ>はローラーダッシュによる高速走行で<ポチョムキン>に肉薄、機体各部に装備されているタイヤを高速回転させながら体当たりをぶちかました。
『これが<Vリスナー>のチェーンソーをヒントにユニ先輩が考えた超ギャングホイールおろしでーす! 高速回転のタイヤで削られたらさすがに痛いっしょ!』
高速回転タイヤと装甲の接触部から激しく火花が散り、二機の間では小型花火が噴射されている様な状況になる。
タイヤで同じ部分を執拗に攻め続ける<ギャングバトラーⅣ>であったが相手の装甲はビクともせず、逆にタイヤの方がボロボロになってしまった。
攻撃力が低下した隙を突かれて<ポチョムキン>の豪腕が打ちこまれ<ギャングバトラーⅣ>の左腕が破壊された。
すかさず<パトライバー>と<ガンライバー>が援護に入り、<ギャングバトラーⅣ>も片手でジュラルミンケースを持って殴りまくる。
<パトライバー>はハイボルトスティックを何度も関節部に突き刺し電撃を打ち込むものの耐久限界がきて壊れてしまった。するとすぐに格闘戦に持ち込みパンチとキックを何発も入れる。その度に<パトライバー>の腕部と脚部は傷ついていった。
『ごめんね、<パトライバー>。でも、今だけは私に付き合って! せめて何か攻略の糸口が掴めれば……』
『そうね。このままメンテまで粘るのも有りだけど、ここまで来たらきっちり倒して終わりたいしねぇ』
『六期生たちは血気盛んで良いね。これはエルも負けてられないな』
奮闘するガブリエールとルーシーに触発されて時間経過を狙っていたエルルも敵機撃破の為に意欲を燃やす。前衛の攻撃の合間に敵機にヘッドショットを何発もお見舞いする。
『ウッフフフフフフ! 素敵……素敵だわ、あなた達。ここまでがむしゃらに掛かってくるなんて、まるで初恋に燃える一途な乙女の様。それならワタシも本気で応えるのが礼儀ってものヨネ!』
<ポチョムキン>は両腕のシールドを前面に展開、全スラスターを噴射し最大スピードで突撃を開始。すぐ近くにいた<パトライバー>と<ギャングバトラーⅣ>はシールドに弾かれ道路を転がっていき中破、自力で起き上がれない状態に陥っていた。
<ポチョムキン>は離れた場所にいた<ガンライバー>の目の前まで来ると急制動をかけ、地面を滑るようにしながらパンチのモーションに入る。
『これはまずいね』
回避が間に合わないと判断したエルルはスナイパーライフルを盾にして防御態勢に移る。そこに豪腕が撃ち込まれスナイパーライフルは粉々に粉砕され、衝撃波の直撃を受けた<ガンライバー>は後方に吹き飛び防護柵にぶつかって停止した。
奮闘していた三機は一瞬のうちに行動不能となるダメージを負い勝敗が決した。
『素晴らしいガッツだったわ、おメスちゃん達。いつの間にかメンテ開始まで十五分を切ってしまったワ。ここまで頑張ったあなた達にはご褒美にプレゼントを贈呈しようと思いマス。それは――ワタシとおそろの全身タイツデーーーーーーース!!』
『え~、そんな恥ずかしいの要らないよぉ~』
『ンマッ! 何て事を言うのかしら、ルーシーちゃン。あーた達が今着ている無駄に露出の多い下品な衣装なんかよりも、このタイツはずっと良い物ナノヨ。伸縮性抜群、触り心地はシルクの様な最高品質で着用感はベリーグッド! それにちゃ~んとそれぞれに合う色をチョイスしておいたワ。――ノームちゃんはレッド、サターナちゃんはブラック、シャロンちゃんはグリーン、ルーシーちゃんはパープル、ガブリエールちゃんはピンク、エルルちゃんはブルー。ん~、良い感じダワ!』
『……何か戦隊ものみたいな色分けだな』
『我にもタイツがあるのニャ!? 元々黒猫みたいな外見ニャから全身黒タイツなんて着たら表面がツルッとした黒猫になるだけニャ! 微妙なイメチェン!!』
全員からタイツ要らねえと言われたデルタは頭にきて<パトライバー>に近づいていく。機体が動かないガブリエールは半泣きになりながら絶叫した。
『ぎゃ~! いや~! 犯されるぅ~!! 助けてぇ、ワンユウさーーーーーーーん!!!』
『人聞きの悪いことを言うんじゃないワヨ! ワタシはおメスちゃんの身体に興味なんてないワ。屈強で筋肉モリモリのプリティフェイスボーイが大好物なのヨウッ!』
『そんな男性は地球には居ませんよぉ!! ……はっ!? 野菜みたいな名前の宇宙人ならイケるかも?』
『……その戦闘民族は既に絶滅してんじゃねーノヨ!! 宇宙規模でもワタシの相手は居ないっテカ? とんだ毒舌天使だわね、ガブリエールちゃン。……決めタ。あーただけは絶対ピンクのタイツガールにしてみせるワ。頭の中だけじゃなく外見もピンクになるノ。全身全内パーフェクトピンクガブリエールになるのヨ!!』
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ!! ピンクなのは頭ん中だけで十分ですぅ~!』
誰もが「思考がピンクなのは良いのか?」と思っていた時、戦場に変化があった。
オーロラブリッジの周囲に突然霧が発生し視界を遮る。一方でオーロラ色のライトと霧の組み合わせは幻想的な雰囲気を作りデルタはホウッとため息を漏らした。
『あら~、素敵なシチュエーションじゃないノヨ~。霧が立ち込め夜のライトアップされた橋の上、恋人同士が頬を赤く染め見つめ合い近づく二人の顔。そして触れ合う唇。……アァーーーーーーー!! 胸がキュンキュンしちゃうワァ。おメスちゃん達もそう思わナイ?』
『あ……確……に……すて……です。わ……しも……ユウさ……チュー……たいなぁ』
『ガブリエールちゃン? 何だか通信状態があまり良くないみたイ。……ン? レーダーに皆のロボットの反応が表示されなくなっタ。……ちょっと待って、ここまで同時にイレギュラーが起こるなんておかしいワ』
デルタが機体不調の原因を考えていると思考が突如発生した霧に行き着いた。
そもそも霧は何故発生したのか? それもいきなり巨大な橋を包み込むほどの規模で広範囲に厚く広がっている。まるで何層ものカーテンで閉めきられたかのような閉塞感を覚えるものだった。
『この霧……ただの自然現象じゃないワ! ゲーム開発部の仕業? そうだとして通信やレーダーに影響を与えるジャミング機能があるなんて戦略兵器じゃないノヨ。これにいったい何の意味ガ……』
疑問が疑問を呼び自問自答が終わらない中、離れた場所からドンッと何かが爆ぜた様な音が聞こえてきた。
無意識にその方向に視線を向けると、霧のカーテンを突き破り凄まじいスピードで突っ込んでくる灰色のロボットの姿があった。
『こいつはVリス――』
『ワンユウ様、右腕ナックルガード展開完了。ぶん殴れマス』
『こんのオカマがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
<Vリスナー>の右腕のバスターナックルが<ポチョムキン>の頭部に命中、打撃と爆発のマリアージュが炸裂し十五メートルの巨大をぶっ飛ばした。
『ふぅー、まずは一発。ここからお礼参りの始まりだ』
『このグラサンどうしてくれましょうカ。取りあえず処ス? 処ス?』