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第161配信 GTR 3日目 電マ

 ぶいなろっ!!サーバー内の時間帯は現在夜であり、オーロラブリッジはその名の通りオーロラ色の照明でライトアップされていた。

 その道路上を<ポチョムキン>は『ナロンゼルス』に向けて移動中。コックピットではデルタが上機嫌に鼻歌を歌っていた。


『ふんふんふふ~ん、ふふんふフ~。橋がオーロラ色に彩られて良いムードダワ。彼ピがいたら雰囲気に酔ってイチャイチャしちゃいソウ。それにしてもちょっと時間を掛けすぎちゃったワネ。急がないとメンテが始まっちゃうワ。シンデレラもこんな気持ちで舞踏会を後にしたのカシラ。……アラ?』


 上空に一機の大型ヘリが飛んでいるのに気が付くとデルタはロマンチックな妄想に耽り始めた。


『空から今のオーロラブリッジを見下ろしたらとてもロマンチックでしょうネェ。ヘリの中で彼ピと一緒にオーロラを見ながら指を絡めてそのまま……うふふ、最高のシチュエーション……ブベラッッッ!?』


 デルタが文章化するのもはばかれる妄想をしていると突然コックピットに衝撃が走った。驚いて機体の状況を確認するとダメージは無いものの<ポチョムキン>の頭部に何かが高速で撃ち込まれたと表示されていた。

 

 


 場面は変わり<ポチョムキン>の上空を飛んでいる大型ヘリ。これは警察所属のロボット輸送用の特別仕様であり、その下部に<ガンライバー>一機が搭載されていた。手にはスナイパーライフルが装備され弾丸が発射されたばかりの銃口から煙が出ている。


『初撃は頭部に命中したけど情報の通りダメージは無いみたいだね。それなら――』


 <ガンライバー>のコックピットでは四期生エルルが状況を冷静に分析していた。

 上空からスナイパーライフルで<ポチョムキン>を狙撃。頭部に命中したもののダメージは皆無。状況確認を瞬時に終わらせると機体をヘリからパージし自由落下を開始する。


 落下中もスナイパーライフルから次々に弾丸を発射、不安定な状況でブレる照準を補正しつつその全てを真下に居る<ポチョムキン>に直撃させていく。

 そのまま落下地点に居た<ポチョムキン>に蹴りを入れて道路に仰向けに倒すと上に乗った状態でスナイパーライフルの銃口を相手のコックピット部に密着させる。


『ワオ! 落下しながら全弾命中させるなんて凄いエイム技術ネ。おまけにワタシを力ずくで押し倒すなんてドキドキしちゃうわ、エルルちゃン』


『そういうみのけがよだつ台詞は控えて欲しいな。一緒に犯人逮捕をした仲間に銃を向けるのは気が引けるよ』


『そう言いながら容赦ない連続スナイプだったじゃねーノヨ。さすがにコックピットに衝撃が来てちょこっとクラクラしちゃったワ』


『とても手加減できる相手じゃないからね。本気を出さないで負けたら馬鹿でしょ。だから……ごめん』


 エルルはゼロ距離で<ポチョムキン>のコックピットブロックを撃った。凄まじい衝撃と轟音が鳴り響く。普通であれば撃たれた側がジエンドとなるのは必至。しかし、この相手は普通ではなかった。


『――っ!』


 エルルは反射的に<ガンライバー>をバックステップさせた。その直後<ポチョムキン>の豪腕と衝撃波が空に放たれる。

 攻撃が不発に終わった<ポチョムキン>は何事も無かったかの様に起き上がり、装甲には傷一つ付いていない。その異様な光景をエルルは目を細めて観察し感嘆していた。


『危ない、危ない。もうちょっと逃げるのが遅れていたらやられてたね。それにしてもこれは驚いた。スナイパーライフルに装填していたのは対重装甲の徹甲弾だったんだけど、これを何発も受けてノーダメージ……しかも最後はコックピットに直接撃ち込んだんだけどなぁ。どうやら姫たちから送られてきた情報通り本当に無敵みたいだね。打撃、斬撃、銃撃……これらを何度受けても装甲には全く損傷が無い。装甲の頑丈さの話じゃなく、システム上の無敵という訳か。これじゃあ、どんな攻撃をしても無意味になるね』


『普段は口数が少ないのにやたらと饒舌じゃナイ。エルルちゃん、あなた今結構ワクワクしてるデショ』


『うん、凄く楽しいよ。こんな攻略し甲斐のある相手にはそうそうお目にかかれないからね。それに例え倒せないにしても戦い方はいくらでもあるし。やっぱりGTRは神ゲーだ。ここまで楽しくなるなんて思ってなかったよ』


『ふふふ、楽しんで貰えて嬉しいワ。でもね、スナイパーが敵の目の前に姿を晒すのは悪手あくしゅじゃないノ? この距離はワタシが有利なのヨネ』


『そうだね、一対一だったらその通りだ。けれど、こっちには優秀な近距離アタッカーが居るんだよ』


 睨み合いをしていると『ネオ出島』側から二機のロボット――<パトライバー>ガブリエール機と<ギャングバトラーⅣ>が駆けつけた。これにより<ポチョムキン>は挟み撃ちされる形となる。


『エルルせんぱ~い、お待たせしました~。ギャングチームにガブを添えてお届けします』


『作戦通り私たちが近距離を担当しますから、援護をよろしくお願いします!』


『ナイスタイミングだね。それじゃ前衛を頼んだよ。これで何とかなりそうだ』


『……ナルホド。エルルちゃんは最初から足止めをするつもりで空を飛んでやってきたのネ。この状況を作り出すのが目的だったト』


『全員でやれる事をやっているだけだよ。せっかくぶいなろっ!!でGTRを遊び始めたのにメチャクチャにされて終わるのは嫌だからね。――皆、いくよ』


 エルルの掛け声を合図に<パトライバー>と<ギャングバトラーⅣ>が<ポチョムキン>に向かっていき、<ガンライバー>は距離を取って遠距離から援護を開始した。

 

『デルタさん、私もエルル先輩と同じでGTRで皆ともっと遊んで配信をやりたいんです! だから本気でいきます!』


『デルタさんが手伝ってくれたお陰で今日の銀行強盗は成功率が高かったんだよね~。それで<ギャングバトラーⅣ>に色々と武器が追加できた。それをこんな形で披露するのは残念だよ~』


『ルーシーちゃん、あなたメスガキぶってるけど案外情が深いワネ。でも遠慮は要らないワ。ギャングとして一緒に行動したのもこのロボバトルもワタシの望むエンタメバトルである事には変わらないんだモノ。さあ、皆でバトルを楽しもうじゃねーノヨ!!』


 <パトライバー>はハイボルトスティックで関節を狙って電撃刺突攻撃を繰り出し、<ギャングバトラーⅣ>はジュラルミンケースを広げた。


『ガブ、離れて! 超ギャングナパームを使うわ!!』


『はい!』


 ルーシーの呼びかけに反応して<パトライバー>が飛び退く。

 ジュラルミンケースの中から何発ものナパーム弾が飛び出し<ポチョムキン>に命中すると連続で爆発を起こす。間もなく爆煙の中から無傷の状態で姿を現わしギャングチームは身を引き締めた。


『メルア達から話は聞いていたし情報も貰っていたけど、実際に体験すると中々堪えるものがあるニャ』


『そうだな。超ギャングナパームは今の武装の中で一番威力があるのに全然効いてねーんだものな。心が折れそうになるわ』


『この光景に既視感あると思ったらダンプ事故の時と同じ状況じゃん! こんな目に二回遭うなんて、今日は何て日だよー!』


『シャロン先輩の心が早速折れてますね~。あはは、本当にこんなの足止めするだけでも難易度ベリーハードじゃん』


 すかさずガブリエール機が前に出ると態勢を低くして足払いを掛ける。体勢を崩され倒れそうになった<ポチョムキン>に<パトライバー>の打撃が次々に入り、止めと言わんばかりに首元にハイボルトスティックを突き刺し電撃を送り込む。

 格ゲーばりの流れる様なコンボ攻撃を披露するも、これまでの結果を覆すことは出来なかった。エルルの射撃援護により<パトライバー>が一旦下がる。


『うーん、今のは中々刺激的だったワネ~。電マで気持ちよくなった感覚ダワネ。良い感じにほぐれたワ』


『ちょ、デルタさん! そういう言動は配信の場では良くないと思います!! その……電マとかほぐれるとか……BANされますよ?』


『そうね、いくら何でもちょっとアウトでしょ』


 デルタが首を鳴らしながら言うとガブリエールとルーシーが顔を真っ赤にして抗議を始める。二人の様子がおかしいと思ったメンバー達に嫌な予感が走る。


『……一応確認したいんだけど、ガブリエールちゃんにルーシーちゃン。あーた達、電マを何だと思ってるノ? いや、それ以前に電マが何の略だか知ってル?』


『え……や……そ、それは……その……で、電気で……お……おマメさん……を、気持ち……よくするから……で、電マ……ですよね?』


『チゲーワヨ!!!』


『そうよ、ガブ。電マはね、電気で……マ……マ……マン……ン……マン……くっ……デリケートな部分を気持ちよくするから電マなのよ!』


『それもチゲーワヨ!!! あーた達いったい何ナノ? どこまで頭ん中がどピンクなのヨ!! 電マはね、電気マッサージ器の略ヨ!』


『ふぁっ!? マッサージ器? や、だって私が観た動画だといつもいやらしい使われ方してましたよ! 肩こりをほぐすシーンなんて観たことありません』


『ルーもガブと同じ! 前準備の最終段階あたりで使って、良い感じになって……そしたら……そしたら、今度は相手の準備を整えて本番開始の流れでしょ!?』


 ガブリエールとルーシーの発言にデルタは勿論、一緒に戦っているぶいなろっ!!メンバーも絶句していた。コメント欄もリスナー達の困惑が見て取れる内容が打たれていく。

 

『……それは、あーた達がそういうエロい動画でしか電マを見た事がないからでしょうガ!! 本来の用途はマッサージ器だからちゃんと覚えておきなサイ。本ッ当にどうしようもないどスケベ天使共ネ。ワンユウちゃんが苦労する訳ダワ』


『本当にうちの後輩たちがすみません』


 全員を代表してデルタが呆れ顔で二人を諭し、ノームは何度も後輩の失言を謝っていた。

 この日ガブリエールとルーシーは生まれて初めて電マの正式名称と正しい使い方を学んだ。それと同時に皆からスケベ認定された事に反論できず羞恥心がこみ上げてくるのであった。

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