第160配信 GTR 3日目 ここにはケダモノしか居ねえ
コメント欄がワンユウのエロゲプレイの話題で盛り上がる一方でロボバトルは膠着状態に陥っていた。
『ネプ達の美脚を何回も当ててるのに効いてないよぉ!』
『うーん、攻撃が効かないんだったらメンテまで時間を稼げばいいんじゃない? デルタさんを『ナロンゼルス』に行かせなければこっちの勝ちな訳だしー』
『その通りですわ! アレを使いましょう。セリーヌちゃん、説明を頼みますわ』
メルアは<パピヨンロボ>を一旦下がらせ<ポチョムキン>から距離を取った。
機体の下半身を開脚させると中央部が開かれ内部からベルトコンベアが地上に向けて引き出される。その上をデフォルメタイプの戦車が何台も通っていき、あっという間に戦車部隊が展開された。
『本日のドッキリパックリメカはリスナーアータさんのアイデアでーす。ガブリスのリアル男子高校生ね。えーと、説明文そのままに読みますねー。――これは元旦に家族でお雑煮を食べていた時の話です。俺には姉がいるんですが、その胸の谷間に餅が落ちてしまいました。姉は必死に餅を取り出そうとしたんですが、努力むなしく餅は左右の胸に押しつぶされ原型を留めない状態になってしまいました。そして姉は俺にこう言ったんです。「あー君これ取ってー! ベトベトしてて取れないの。お願い!」って取れるかーい!! 実の姉の谷間に手を突っ込むなんてリアルにやれる訳ないだろ。あーあ、これが彼女だったらなー。彼女から同じこと頼まれたら手なんかじゃなく、口を使って取ったのになー。あー彼女欲しいなぁーーーーーーーー!! 以上でーす』
『『『アータさん、アイデアありがとうございまーす。でも、こんなハレンチプレイを高校生の頃から思いつくなんてお姉さん達は君の将来が凄く心配でーす!』』』
『いや、ちょっと待っテ! 今の話の中にドッキリパックリメカの説明無かったわよネ!? ただ、巨乳の実姉が居ることと彼女が欲しいという男子高校生の訴えがあっただけよネ? あ、もしかして巨乳の実姉が居ることも妄想の可能性があるってことカシラ?』
コメント
アータ:居るよ!! 十九歳の実姉が俺には居るんだよ。確かに俺はスケベかもしれないけど、妄想の姉を作り出して語るほど落ちぶれちゃいないよ!!
:ふむ、アータ君。お義兄さんが欲しくないかい?
:おいおい、割り込みとはマナーが悪いな。僕が先にアータ君のお義兄さんに立候補したんだが
:ところでアータ君、お姉さんが巨乳なのは間違いないかね? さっきのエピソードは本当の話なのかね? そこんとこ重要だから教えてクレメンス!!
:アータ君、現在三時半を過ぎた頃だよ。こんな早朝に高校生が起きてちゃダメだぞ
:そういうお前は何故起きている。仕事は?
:答えはお前と同じ。それ以上でもそれ以下でもない
:納得した
:コメント欄をリスナー同士の会話の場にすな! こんな連中より常識的なオレこそアータ君のお姉さんに相応しい。そうは思わんかね?
:どいつもこいつも十九歳巨乳女子目当てで草
:そんなん当たり前やろがい!! こんな超優良物件そうそうないぞ。飢えたハイエナ共にボリュームたっぷり雌牛の情報をくれてやったようなもんだ
:オレも彼女が欲しいなー
:皆彼女が欲しいとは言っているが恋愛したいとは言っていないな。身体目当てなのを隠そうともしない。純粋な変態共しかいないぞwww
:純粋な変態というワードでワロタ。不純であろう変態が純粋って超不純ってことだろw
:そもそも、そんな巨乳女子がフリーな訳ないだろ。彼氏が居るに決まってんだろが(泣)
アータ:彼氏ができた事は無いらしい。でもお前等みたいなハイエナ共にくれてやろうとは思わん。姉にはちゃんとした彼氏が出来て欲しい
:それじゃあ、オレ達がちゃんとしていないみたいじゃないですか!! シツレイシチャウナー
:よろしい、ならば戦争だ
:勝者は十九歳巨乳女子の彼氏候補の権利を得る。そう理解してよろしいか?
:配信の場だけではなくコメント欄でも戦いが始まるようですな
:ここにはケダモノしか居ねえ
今度はコメント欄で場外乱闘が始まる中、ロボバトルではキャバ嬢たちの反撃が始まろうとしていた。戦車部隊が扇状に並び砲口を<ポチョムキン>に向ける。
『一斉発射ーーーーーーーー!』
一斉に砲撃が始まり直撃すると爆発の代わりに白いネバネバした物体が<ポチョムキン>に付着した。それは粘着性もあり地面にもくっ付きロボットの動きを鈍らせていた。
『これは……餅!? お姉さんの谷間に入った餅が今回のドッキリパックリメカのネタだったノネ』
『その通りぃ! ダメージは与えられなくてもこれなら動きを止められるでしょお。時間稼ぎにピッタリ。名付けてトリモチ戦車だお!』
『なるほど確かにこれは厄介ダワ。でもネ――』
<ポチョムキン>の背部と脚部の推進装置が噴射されると餅は膨張して弾け飛び、続いて腕部から衝撃波が放たれ腕周りの餅が吹き飛ばされた。この一瞬の出来事にキャバ嬢たちは目を丸くする。
『『『そんなんありぃ~!?』』』
『残念だったわネ。アイデアは良かったけど、相手が悪かったワ。そろそろ先に進ませて貰うわ――』
その時、デルタ機のコックピット内に敵接近のアラートが鳴り響く。頭上に視線を向けると一機のデフォルメロボットが空中で剣を構えていた。
『あれはベルフェちゃんの<ライジン>。そうか、光学迷彩で隠れていたのネ。味な真似ヲ!』
『今ならヤれる! 必殺イナヅマ斬りぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!』
雷神刀の刀身に電撃を流し落下の勢いを利用した一太刀が<ポチョムキン>を縦一文字に一閃した。
『手応えあった! これなら……えっ?』
<ポチョムキン>の装甲には傷一つ無く、頭部の赤い眼光が<ライジン>を見下ろしていた。右腕がゆっくりと振り上げられ明らかな攻撃態勢に入る。
『イナヅマ斬りでもダメージ無いとか本当にチートじゃん。こんなのどうやって止めるのさ』
『だから何度も言ってるでしょ、<ポチョムキン>は無敵ダッテ。それとね、ベルフェちゃン。必殺技というのは必ず殺す技と書くのヨ。相手を倒しきれないんじゃまだまだダワネ』
『ベルちゃん、すぐに後ろに跳んで!!』
メルアの緊迫した声が聞こえ反射的にベルフェは<ライジン>を後方にジャンプさせる。その直後、つい先程まで自分が居た場所に<ポチョムキン>の右パンチが打ち込まれ路面が砕け散った。
『地面が爆発した。どうなってんの!?』
『さっきトリモチを吹き飛ばす時に腕から衝撃波みたいなものが放たれていたんです。どうやら見間違いではなかったみたいですわね』
『防御も完璧なのに攻撃力も高いなんてヤバいわねー』
『トリモチもあんまり足止めにならないしぃ、どどどどーすんのぉ?』
粉々に砕けたアスファルトの砂煙の中から<ポチョムキン>のマッシブな体躯が見え隠れする。その存在感のある姿はまさにボスキャラであった。
蹴りを入れても刀で斬ってもダメージ無効な上に腕部から繰り出される打撃の威力は極悪非道。勝ち目が無いことはこの場に居る誰もが分かっていた。
『勝てる戦いではない事は百も承知ですわ。わたくし達の役目はあくまで時間稼ぎです。こちらがトリモチで動きを止めます。すぐに引き剥がされるでしょうが、ベルちゃんはその隙にあの機体を斬りまくってください』
『ダメージ無いのに斬っても意味がないんじゃ?』
『そうかもしれませんが、あの無敵モードの維持条件が分かりません。もしかしたら防げる回数に限りがある可能性もあります。やるだけやってみましょう』
『『『了解!』』』
――数分後、オーロラブリッジの出入り口。ガブリエールの<パトライバー>が敵包囲網を突破し到着した。傍らには戦闘中に合流した<ギャングバトラーⅣ>が同行している。
『デルタさんの<ポチョムキン>だっけ? キャバクラチームとベルフェが足止めしてくれてるみたいだけど……』
『よろず屋チームのバハームとフェネルは新型機で敵集団の相手をしているニャ。ベルフェを送り出してくれた訳ニャが、果たしてデルタ相手にどうなっているか皆目見当もつかないニャ』
『やっぱり妹が心配?』
『シャロン、楽屋のテンションで言ってるだろ。二人が姉妹って事はリスナーも知ってるだろうけどさ』
ギャングチームが心配そうに話していると前方に反応があった。近づいて見るとガブリエール達は唖然としてしまう。
そこに転がっていたのは大破した<パピヨンロボ>と<ライジン>だった。吹き飛ばされたパーツがあちこちに飛散している。
これだけ派手に壊されていては中に乗っていた者も恐らく無事では済まない。そう思っているとジャンクと化した機体の上でパイロットの四人が土下座していた。
「「「「なんの成果も!! 得られませんでしたーーーーーーー!!」」」」
『良かったぁ、皆無事みたいです』
『ガブ、お前良い奴だな。あの四人が元気なのはオレも安心したけど、あのネタ考える余裕があったと思うとオレ達の心配を返せと言いたくなるよ』
予想外に元気いっぱいのメルア達を見てノームは安心と同時にツッコミ要員としての疲労を感じていた。