第158配信 GTR 3日目 まるでダメなオカマ
ケースその二 BANノートチーム
警察チームとのエンタメバトルを終えたデルタが次に合流したのはBANノートチームであった。
BANノートチームは全チームの中で最も自由に活動している。彼女たちは表では独自に開発した粉バナナを用いた食品を売りさばいて収入を得ており、裏では罪を犯したNPCの名前をBANノートに書いてオシオキしていた。現在も彼等が所有するキッチンカーにて仕事が行われている。
「デルタにはテレビに出てきた犯罪者の名前をこの用紙に書いて貰いたい」
バハームはデルタにBANノートから切り取ったページ二枚を渡した。一ページ目は名前記入欄の部分だけが切り抜かれているので実際には次のページに書く事になり、そこに名前が書かれた者の行動も記されている。
しかしこの二枚は接着されていて二枚目の内容を知る術は無い。そのため名前を書かれた者にどのような災厄が降りかかるのかは不明だ。
「ここに名前を書かれた者はどうなるのカシラ?」
「それは秘密だよ。――さて、僕は粉バナナ製品を作らないとだからキッチンに行くよ」
「話には聞いていたけど、それって美味しいノ? 興味があるのだケレド」
「勿論さ。粉バナナを混ぜて作った食品は美味な上に常習性抜群。お陰でリピーター続出で大儲けさ。皆、「こんな馬鹿な!」と言って昇天しているよ」
「想像以上にヤベー粉でビビったワ」
呆れ顔でキッチンに目をやるとフェネルとベルフェがそれぞれ調理をしていた。フェネルはドーナツ、ベルフェはスムージーを作っている。それぞれ隠し味に白い粉が投入されておりバナナの芳醇な香りがキッチンカー内に充満していた。
「粉バナナドーナツができたら試食させてあげるわ」
「粉バナナスムージーも一緒に飲んでね。この組み合わせは神だから、止まらなくなること間違い無しだよ」
「いやそれ粉バナナの常習性の効果ヨネ? そんなものワタシは絶対口にしないワヨ。――さて、とにかく今はやるべき仕事をしましょうカ」
テレビをつけるとニュース番組が始まり犯罪者が公表されていく。デルタは嫌な予感がしながらも取りあえず言われた通りにその名前をBANノートのページに書いていった。
それから間もなくしてテレビにリアルタイムで映っていた犯人に異変が起きた。突然苦しみだし右往左往したかと思うと動きを止める。そして――。
『三の付く数字と三の倍数の数字の時にアホになります。一、二、さぁん! 四、五、ろぉく! 七、八、きゅー! 十、十一、じゅうに、ずーさん! 十四――』
「……」
デルタは絶句した。凄惨な何かが始まるかと思えば懐かしのコントが開始されたのである。また名前を書かれた別の犯罪者は――。
『もしかしてだけどー、もしかしてだけどー、それってオレっちを誘ってるんじゃないの? 踏切の向こう側にいる女の子がリップを取り出して唇に塗り始めたんだ。もしかしてだけどー、もしかしてだけどー、オレっちのキス待ちなんじゃないのー?』
「……」
次も犯罪者によるお笑い芸人のネタが始まり、それを観ていたバハーム達が大笑いしているのを見たデルタはコンロを点火して名前を書いていたBANノートのページを燃やし始めた。突然の奇行にBANノートチームの三人はブチ切れる。
「ちょっとぉーーーーーー!! あんた一体何してくれてんのーーーーー! 貴重なBANノートのページを燃やすなんて頭どうかしてるぜ!!」
「頭がおかしいのはあーた達でしょうガ!! 配信でNPCに芸人のコントをやらせてんじゃないわヨ!」
「いやほら、それはAIの可能性を広げるって意味でやってるんだよ。決して思いつきとか悪ノリじゃないんだよ、バーロー!」
「開き直ってんじゃないわヨ! それとベルフェちゃん、あーた少年探偵キャラを演じるのに、バーロー入れればそれっぽくなるだろうっていう浅い考えが透けて見えんのヨ。キャラ作りがもうね中途半端!!」
「ギクッ!」
痛いところを突かれたのかベルフェは身体を震わせ目を泳がせていた。
「それにあなた達はちゃんと仕事してないからやってる事が一々フワッとしてるのよネ。変な粉で食べ物作ったり変なノート使ってくだらない事してケタケタ笑ったり、行動がもうね、フワッとしてル!」
「それは聞き捨てならないわね。それじゃあ、まるでわたし達がどこぞのよろず屋みたいじゃ……はっ!」
フェネルは反論途中で何かに気が付いた様にBANノートチームの二人を見る。すると同チームの二人もある事に気が付いた。
「破天荒で碌な事をしないリーダー、眼鏡キャラ……あっ、でもチャイナ娘が居ないや」
今一歩の所でよろず屋の条件が満たされなかった事で落胆するベルフェ。俯いた彼女が顔を上げると目の前にはチャイナ服に着替えたフェネルが立っていた。
両サイドの深く入ったスリットから生足が丸見えになっている。某チャイナ娘よりセンシティブ仕様である。
「おい、何こっち見てるアルか、このクソ眼鏡。そのアイデンティティー割ってやろうアルか?」
「す、すげーーーーーーーー!! 何かベル様たちマジでよろず屋みたいになってる。適当に語尾がアルになってるのもそれっぽい。こっちでいった方がキャラ的に統一感があって良くね?」
「んー、そだね。それじゃ基本はよろず屋で活動して今までのBANノートキャラは臨機応変に切り替えって事で。でも、もうちょっとインパクトがほし……あっ」
よろず屋三名の視線がデルタに注がれる。具体的にはデルタの目元。そこにはサングラスが鎮座していた。
「うわー! グラサンを掛けてる人が偶然にもここに居るぅ。まるでダメなオカマだから――マダオだっ!! これも何て偶然!」
「誰がマダオヨ。失礼ネー」
その後各地では粉バナナ製品を売りさばく変な四人組が居ると噂になるのであった。
デルタはそれからギャング、医療班、食堂、メカニックで各ぶいなろっ!!メンバーと熾烈なボケツッコミを繰り返し交流を深めていった。そこら辺は展開がクドくなりそうなので割愛させていただく。
こうして疲労困憊の状態で行き着いたのはラストステージであるキャバクラ。黒光りグラサンキャバ嬢として最初は客に恐れられながらも明るい性格とダイナミックなポールダンス披露で瞬く間に人気者になっていた。
「疲れた……この数時間で何回ツッコミを入れたのカシラ。覚えていないワ。……ワンユウちゃんってこんな生活を毎日してるのよね。それで生きてるって……あの子が一番の怪物でしょうヨ」
キャバクラ営業時間が終了すると人気の無くなった店内でソファに座ったままデルタはうな垂れていた。コトンと音が聞こえて顔を上げると目の前のテーブルに淡い黄色の飲み物が置かれている。
「お隣失礼しますわ。ビタミンCとクエン酸たっぷりのジュースです。疲れた身体に効くと思いますわ」
「ありがと、メルアちゃン」
デルタの隣にメルアがゆっくりと腰を下ろした。手に持っていた飲み物をテーブルに置くと疲労感を隠せないデルタを労う。
「本日はお疲れ様でした。他の部署を回ってからのキャバクラでしたから大変だったでしょう。ですがお客様の反応も好評でしたしデルタさんはキャバ嬢としての適性がありますわ。すぐに動けなさそうですし休憩がてら女子トークでもしませんか?」
「女子トーク?」
振り返るとセリーヌとネプーチュがそれぞれ飲み物とおつまみを持ってやって来た。ソファに座りデルタを中心としてお喋りを始める。
「デルタさんは明日もキャバクラに出勤してくれるの? お客さんから好評だったから来てくれると凄く嬉しいんだけどー」
「ポールダンスもネプ達のとは違ってすんごいパワフルだったから見応えがあったぁ。逆さまになってぐるぐる回るのとか真似できないもん」
「あれぐらい簡単ヨ。あなた達もワタシと同じように身体を鍛えれば出来るようになるワ」
「や……さすがにそれはムリぃ」
楽しいガールズトークが続く中、メルアが一呼吸置いてデルタに問う。
「これで全てのメンバーの所を回り終えた訳ですがエンタメバトルの結果は出たのですか?」
「エンタメ……バトル? バトル……ああ、そういえばそうだったワネ。途中からあーた達のボケにツッコむ事しか考えられなくなっていたワ。これじゃあ本末転倒ネ」
「そう言えばエンタメバトルの勝敗って何を基準に決めるのー? キャバクラだったらどれだけ売り上げに貢献したとかで比較できるけど。他の所ではどういった事をしていたのー?」
「そうねぇ……何かもう仕事のお手伝いしたりツッコんでいた記憶しかないワ。そういえば食堂では次回はラーメンのスープの作り方を教えてくれると言っていたワネ」
「すごーい! フェンは食へのこだわりが強いからぁ、お店の看板になってるラーメン作りは誰にも教えていなかったのぉ。スープなんてラーメンの命みたいなものだし、凄く筋が良いって事だよぉ。デルタさんが作ったラーメン食べたぁーい!」
「それでしたら今度三人で食堂に食べに行きましょう。わたくしもラーメン好きですから楽しみですわ」
「ラーメンの話をしてたらお腹空いてきちゃったー」
「あなた達、気が早すぎヨ。でも、そうね……誰かに料理を食べて貰うのって嬉しいかもしれないワネ。今日それが初めて分かったワ。それ以外にも色んな事をやって夢中になっているうちに勝敗がどうとか忘れてしまっていたワ」
「デルタさん、わたくしは思うんです。そもそもエンターテイメントに勝敗なんて無いのではないかと。何を持って勝ち負けを判断するのか分かりませんし。でも、もし敢えて言うのであれば楽しむ事が出来たのなら、それが勝ちなのではないでしょうか?」
「あーそれ分かる。自分が楽しめたら満足だし、配信者としてはリスナーさんも楽しんでくれたら大満足だものー! その為に配信しているんだし。コメントで楽しかったとか次の配信も楽しみにしてるとか言って貰えると頑張ろうって活力が湧いてくるもんねー」
「セリーヌパイセンはぁ、それで頑張り過ぎるとセンシティブが限界突破して何度もヨウツベから叱られてるじゃないですかぁ」
「あはは、ちげえねー」
キャバクラは四人の笑い声で満ちていた。この穏やかな雰囲気の中でデルタは自身の変化に驚いていた。
「ワタシはバグデータによって生み出されてからエンタメを支配する事しか考えていなかったワ。それがワタシにとって唯一の存在理由だったカラ。でも、あなた達と一緒に過ごすうちにそれだけが生き方ではないと知っタ。デモ――」
「でも?」
「――それでも、自分の存在理由を全うせずに新しい道に進む事はできないワ。筋は通さなければならナイ。これまでのあなた達とのバトルでは明確な勝敗は出せなかっタ。それなら明確な勝敗を出せる内容で勝負しまショウ。ロボバトルをやるワ! ワタシとあなた達、全滅した方が負けヨ」
「そうですか。それはとても……残念ですわ」
「デルタさん、ワタシはあなたと戦いたくなんてないよ……」
「もう一緒にキャバ嬢できないのぉ?」
「ごめんなさいね、メルアちゃん、セリーヌちゃん、ネプーチュちゃン。あなた達にラーメンを作ってあげる事は出来そうにないワ」
デルタはキャバクラから姿を消し、間もなく『ネオ出島』の各所でゲートが出現した。そこから多数のロボットが出現、破壊活動が開始される。
GTR三日目終了メンテナンス開始の三十分前の出来事であった。




