第157配信 GTR 3日目 とてもあぶ◯い刑事
デルタの件はぶいなろっ!!メンバー全員に伝えられ、かくしてエンタメバトルが本格的に開始された。バトル内容に関してはデルタが警察、キャバクラ、ギャング、医療班、食堂、BANノート三人組、メカニックに一時的に加わり、その働きぶりによって優劣を競うというものになった。ぶっちゃけバトルの名を借りたお手伝いである。
ケースその一 警察
『ネオ出島』のメイン道路を違法な速度で走る車。それを追うパトカ-の運転席にはミニスカポリス姿のデルタ、助手席にはサリッサ、後部座席にはエルルとシャルルが搭乗していた。
『そこの車止まりなさーい! スピードの出し過ぎです。今すぐに止まらないと酷い目に遭いますよー!』
拡声器でスピード違反の車に止まるように指示するサリッサであったが、前方を走る車は更に速度を上げて無茶な走行を継続する。その様子をパトカーの中から四人は睨んでいた。
「あらあら、やっぱり自主的には止まってくれないワネー。こうなるとカーチェイスかしラ。長期戦になっちゃワネ」
「そんなまどろっこしい事はしない。その為にエルルとシャルルを連れてきたんだ。頼んだぞ二人共」
「そうだね。今こそ出島署の理念『悪・即・殺』を実行する時だ」
「悪い事をしたらそれに相応しい報いを受けさせるのが警察のお仕事。そうだよね、エルお姉ちゃん」
後部座席の窓が開いた。二人の手には拳銃が握られており窓から身を乗り出そうとする。その殺意マシマシの行動に気が付いたデルタは慌ててストップをかけた。
「ちょっと待ちなさイ! あなた達の勤め先の理念なんなノ? とてもじゃないけど警察のものとは思えないワヨ。どちらかというとヤバい組織が使ってそうな感ジ!」
「そんな事はないよ。これは警官の斉藤さんが使っていた名言を基にしているからね」
「それ一番お手本にしちゃいけない警官!! しかもオリジナルより殺意が増してるでしょ、その理念。『殺』なんて警察が使っちゃダメなワードでしょうヨ! ってかいきなり拳銃を使おうとするとか正気じゃないワ」
「そうですか? シャルとエルお姉ちゃんがGTR前に参考に観てきた警察ドラマではいつも銃撃戦をしていましたよ?」
「……ちなみにタイトルは何ていうノ?」
「「あぶ◯い刑事」」
「よりにもよって何でまたそれを参考にしたのヨ!! あーた達このGTRで群像劇をやろうとしていたんでショ? そのドラマはストーリーよりもバトル重視の警察!」
「デルタ、お前の言い分はもっともだ。しかし、この混沌渦巻く『ネオ出島』で正義の象徴たる警察が負ける訳にはいかない。負ける時は圧倒的な力によってねじ伏せられ屈辱を受ける事になる。大人数の屈強な悪者に地面に抑え込まれて無理矢理……じゅる……」
「よだれ拭きなさいサリッサちゃン。今の台詞の後半は、あーたの本音でショ。今思ったんだけど警察にはまともな警官一人も居ないワヨネ。ドMが三名、犯罪者予備軍一名、説得より前に銃ぶっ放すのが二名。秩序守るどころか壊す連中ばかりじゃナイ!」
秩序崩壊パトカーでデルタがぶいなろっ!!メンバーの異常さを叫んでいる頃、前を走っているスピード違反車では混乱が生じていた。
この車に乗っているのはギャング崩れの男が二名。助手席に乗っている弟分はパトカーの運転席に居る黒光りマッチョの大男を見て恐怖のどん底に陥っていた。
「兄貴っ、あのパトカーヤバいよ。な、何を言っているのか分からねーと思うが、ありのまま見えているものを話すぜ。まずパトカーを運転しているのが全身黒光りマッチョの大男だ。しかもサングラスを掛けてミニスカポリスの格好をしていやがるぜ!」
「はぁ!? バカ野郎、適当な事を言ってんじゃねー。そんなギャングのボスみたいな外見の奴が警察官な訳ねーだろうが! しかもミニスカポリス姿だと? そういうのを世間で何て呼ぶか知ってるか? モンスターって呼ぶんだよ! それじゃ何か? オレ等は今、モンスターが運転するパトカーに追われてるっていうのか? 冗談言ってねーでもっとちゃんとした情報寄こしやがれ!!」
「信じてくれよ、マジなんだよ! ――って、あれ? パトカーの左右から……サングラスを掛けたエルフミニスカポリスが拳銃でこっちを狙ってるぅーーーーーーーー!! あいつらオレ達を撃つつもりだ。出島署にはヤバい警官が何人も居るって聞いてたけどマジだった。兄貴、もう車止めて降参しようよ。そうでなきゃ殺されちまうよ!」
「今度はサングラスを掛けたエルフのミニスカポリスだとぅ!? 昨今の警察はミニスカポリスにグラサンを掛け合わせたコーディネートがデフォなのか? いやいやいや、そんなアホみたいな警官が居るわけねー。このバカ野郎、オレを笑わせようとしてんじゃねー!! 真面目に――」
兄貴分が苛つきながら言いかけた時、銃声が聞こえサイドミラーが撃ち抜かれた。その直後、今度はもう一方のサイドミラーが吹き飛ばされ、二人は命の危険を覚えるのであった。
「ウソだろ!? いきなり撃って来やがった。普通もうちょっと説得を試みるとかしないの? このままじゃヤられる。逃げるぞ!!」
「ほら、だから言ったじゃん! ギャングみたいなサツが追って来てるって言ったじゃん!! も、もうおしまいだーーーーーーー!!」
恐怖に駆られて速度を上げようとした瞬間、銃声と共に車のコントロールが利かなくなり激しい蛇行の末に路肩の木にぶつかって停止した。
「う、うう……ひでえ目にあった……」
「こんなにヤバいサツ共がうろうろしてると分かってれば、こんなへんぴな島になんか来なかったぜ」
命からがら半壊した車から出てきた犯人たちはタイヤが壊されていることに気が付く。銃撃で破壊され車の自由が利かなくなったのだと悟った。
車のドアが閉まる音が聞こえて振り向くとサングラスを掛けたミニスカポリス四名が歩って来るのが見える。
「やったぜYUJI」
「やってやったぜTAKA」
八十年代銃撃ち放題警察ドラマのハードボイルドキャラになりきっているエルフ姉妹はハイタッチを交わし、片手に持った拳銃の銃口はしっかり犯人に向けられていた。しかし、この時犯人たちが恐怖していたのは拳銃ではない。
「あれだけ派手にスピード違反をしたからどれほどかと思ったが、この程度で戦意喪失するとは……どうやらこいつらもわたしを虐げる器ではなかったという事か。実に残念だ」
「サリッサちゃん、あなた警察やりながら性癖を満たしてくれる犯人を探していたノ? 馬鹿ナノ?」
「むっ……うーん、その程度の罵倒じゃ響かないなぁ。もっと蔑んだり軽蔑するような感じが欲しい」
「ハイハイ。あなたは署に犯人逮捕の連絡を入れて頂戴。それにしても可哀想ニ。いきなり銃で撃たれたからすっかり怯えているジャナイ」
震える犯人二人に近づいていくデルタ。ミニスカポリス衣装のタイトなミニスカートから伸びるのはすらっとした太腿でもなければムチッと肉付きの良い太腿でもない。血管が浮き出るムキムキ筋肉の硬そうな太腿であった。シャツは鍛え上げられた筋肉によってぱつぱつになっている。
こんなマッスルミニスカポリスが与える恐怖心理効果は凄まじく、犯人二人は心が折れ屈服した。
「スピード違反してすんませんでした!! 何卒命だけは……!」
「申し訳ありませんっした!!」
土下座して謝る二人をデルタはサングラスを通して見下ろす。しばらくの沈黙の後デルタは二人を抱きしめた。間合いを詰めるのが余りにも速すぎた為、犯人たちは逃げる間もなく二人同時に熱い抱擁を受けていた。
「偉い……二人共素直に謝れて凄く偉いワ! もう怖い思いはさせないから安心シテッ」
「ぐふぅ!? 硬っ、胸板ぶあつっ!」
「兄貴ぃ、オレ息できな……暑い……苦しい……暑苦しい……」
間もなく犯人二人はデルタの腕の中で動かなくなり、エルル達はこの異様な光景を前に苦笑いする。
「あらあら、ワタシのハグに安心したのか二人共眠ってしまったワ。余程怖かったノネ」
「むしろ恐怖を伴う地獄のハグで圧死したんじゃないの?」
「失礼ネ。問答無用で銃を撃たれる方が怖いに決まっているじゃナイ。ほら見て幸せそうに眠ってるデショ」
「そうだね。白目剝いて口から泡吹いて完全に圧迫技で意識刈り取られてるよね」
デルタの警察メンバーとのエンタメバトルはスピード違反者を逮捕して終了した。次にオカマが向かうのは何処だろうか? どちらにしろ地獄絵図が待っているのは間違いない。