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第155配信 GTR 3日目 路上でSMプレイをしてはいけません

 『ネオ出島』の峠を過ぎたのどかな道を走る救急車が一台。運転席には一期生の聖女アンナマリー・ホワイト、助手席には五期生フェニス・ブレイズが座っていた。 

 GTRで二人は医療班に配属されており、アンナは医師、フェニスは看護師としてロールプレイを楽しんでいる。


「さて、今のところ緊急要請は無いみたいだし……どうかなフェニス君?」


 右手でハンドルを握るアンナマリーは左手を助手席に座っているフェニスの太腿に這わせる。


「せんせ……いけません」


 フェニスは両脚を閉じて抵抗するが満更でもない様子。次第に脚を開いていき、その間にアンナマリーの手が移動する。

 この二人はGTRが始まってからこの三日間、この様にドクターとナースの不埒プレイをして楽しんでいた。勿論ヨウツベで配信出来るレベルの範囲内である。多分。


「ふふふ、いけないと言いながら君は毎回抵抗らしい抵抗をせず私を受け入れてくれる。君の言葉と身体の反応……どちらが本心なのかな? そろそろハッキリさせて欲しいものだが……ね!」


「あんっ! せんせ……そんな意地悪言わないでぇ……あたし……あたしはぁ……あら~?」


「どうしたのかね、フェニス君。この期に及んでよそ見をするなんていけない子だ。これは調教が必要だね。……って何か後ろの方が騒がしくない?」


 スケベなロールプレイを中断して二人が後方を確認するとフロントガラスが無くなったダンプカーが凄まじい勢いで走ってくる光景が目に入った。

 ダンプの前には見知った顔がちらほら――バイクにはルーシーとシャロン、普通車にはアマテラス、パトカーにはガブリエールとクロウが乗っている。

 クロウは窓から身を乗り出してショットガンをダンプの運転手に何発も撃ち込んでいるが、命中しても何事もなかったかのように運転手は平然としている。そのダンプの運転手も二人にとって馴染みのある人物であった。


「「しゃ、社長!? え、何これ、どゆこと~!?」」


 状況を飲み込めないものの、このままではダンプにやられると思ったアンナマリーは救急車の速度を一気に上げて逃げ始める。

 バイクが隣にやってくるとルーシーとピーピー泣いているシャロンと目が合った。


「ひぐ……ひっぐ……もうおうちに帰りたいよぅ」


「救急車が走ってると思ったらアンナ先輩とフェニママじゃないですか~。こんな所で会うなんて奇遇ですね」


「あら~、ルーシーちゃんとシャロンちゃん、こんにちは~。あのダンプに乗っているのは社長そっくりのNPCさんかしら~?」


 ルーシーはデルタについて簡単に説明するとアンナマリーとフェニスはすぐに状況を把握した。そしてアンナマリーは徹底抗戦の構えを取る。


「こうなったら戦うしかないわね! フェニス、救急車の後部に有る物を片っ端からダンプにぶち込んで貰える?」


「はぁ~い、りょうか~い」


 アンナマリー・ホワイト――役職は聖女の一期生。ただし一般的に優しくておおらかなイメージのある聖女とは異なり彼女は生粋のドSである。月一で罵倒ASMRを開催し世のドM共が集結している。その中には同じ事務所のサリッサ、クロウ、ホロウというドM三人娘が常連なのは想像に難くない。配信者、リスナー問わず豚と化すこの祭りはSMR(聖女からマゾ共への調教反応)と言われている。


 フェニス・ブレイズ――五期生でフェニックスが擬人化した存在。溢れんばかりの母性とぶいなろっ!!最強のJカップバストの持ち主。毎週日曜日の深夜に甘やかし安眠ASMRを行っておりASMR界のママと呼ばれている。月曜朝には行ってらっしゃい朝配信を行いリスナーを社会へ送り出す。憂鬱な一週間の始まりをサポートしてくれる優しいママである。ありがとうママ。


 責めと癒やしのASMRの使い手が揃った医療班は極上のアメとムチを提供するアンビバレンスなチームと化していた。職務中の怪我と称して警察のドM達が頻繁に病院に出入りしているという噂がある。


 フェニスは救急車後部の扉を開くと積んである様々な機材をダンプに向かって投げ始めた。しかし如何せん腕力が無いのでダンプまで届かず道路にぶちまけられ、味方であるアマテラスやガブリエールの車両がそれらを回避する状況に陥っていた。


「えいっ、えいっ、えいっ……あら? 何かが引っかかって……ん~、まいっか。えーい!」


 こんな調子で無理矢理投げた瞬間、物品の一部が引っかかっていたナース服も一緒に脱げてしまいフェニスは一瞬で下着姿になってしまった。

 純白ガーターベルトと純白下着にはムチムチな肉体が窮屈そうに収まっており、それを目の当たりにしたリスナー達は称賛のコメントを打ちまくり次々に昇天してイク。


「あら~、あらあら困ったわ~。また服が脱げちゃった。でも……まいっか」


 半裸になるハプニングが起きたにもかかわらずフェニスは大して気にする様子もなく道路に物品をぶちまけ続ける。余談ではあるがフェニスはド天然であり、しょっちゅう半裸コスで配信するので服がはだける事に抵抗がない。本当にありがとうママ。


 フェニスがある物を投げようとした瞬間、周囲の空気が凍った。彼女は赤い蝋燭ろうそくに火をつけており、それに真っ先に食いついたのはドMのクロウであった。


「フェニママ、それはSMプレイで使う赤い蝋燭じゃないの? そんなのがどうして救急車に積んであるの? 理由と用途を詳しく教えてクレメンス!」


「え~、あたしもそんなに詳しくはないのだけれどアンナちゃんが鞭と一緒に大量に用意していたのよね~。この蝋燭不思議なのよ~。溶けた蝋が身体に付いてもそんなに熱くないのよね~、ほらぁ……あん」


 言うと同時にフェニスは溶けた蝋を胸に垂らし始めた。赤く溶けた蝋がポタポタと豊満な胸に付着し固まっていく。本人に自覚があるのかどうか分からないがセルフSMプレイを披露するフェニスを皆が食い入るように見つめていた。


「ふふっ、これがじんわり温かくて冷え性のあたしには丁度いいのよね~。たまにやるのよ~。はぁ~、あったか~い」


「フェニママ、それ暖を取る為の物じゃないから! ってかフェニックスなのに冷え性なの?」


「そうなのよ~。そう言えば、ネプちゃんもマーメイドなのに泳げないのよね~。ふふふ、あたし達キャラ崩壊起こしちゃってるわね~」


「キャラ崩壊言うのやめてもろて。この場にいないネプーチュが怪我しててワロタ。ぎゃはははははははっ!!」


 地が出てネットスラングを多用するクロウがゲラ笑いし、つられて他のメンバーも笑い始める。

 忘れてはいけないが現在彼女たちはダンプカーに追いかけ回されている最中である。この危機的状況の中でマイペースを崩さない彼女たちにデルタは戦慄していた。


「何なのこの子達。この状況で笑ってるなんて凄いタフな精神の持ち主ダワ。これが配信の最前線で生き残ってきたエンターテイナーの力という訳ネ。面白くなってきたジャナイ。とことんエンタメバトルを楽しめそうネ。って、アウチッ!」


 デルタが笑っていると顔に何かがぶつかり固まるのを感じた。剥がしてみるとそれは赤い塊であった。視線を前方に戻すとフェニスが持っているSM用の溶けた蝋が次々に飛散し救急車の後方に居るもの全てが赤い蝋の弾幕に晒されていた。


「ひゃあっ! 赤い蝋がいっぱい飛んでくる。うちの車がSMプレイされとるぅ!!」


「私のパトカーもどんどんフェニママ色に染められていくぅ! クロウ先輩、パトカーが職務中にSMプレイするのはコンプライアンス的にマズくないで……クロウ先輩!?」


 ガブリエールが助手席のクロウを見やると彼女は窓から身を乗り出したまま溶けた蝋の直撃を受けていた。その表情は恍惚としていてドMメス化しているのは誰の目にも明らかであった。


「あふぅ、ふぁ……ああん! こんなアブノーマルなSMプレイ知らなかったわぁ。溶けた蝋を高速で受ける衝撃、それにこんな姿を後輩たちに見られる羞恥心……あ、これマジでヤバいかもぉ! イ……イク……イグぅ……」


「クロウ先輩イっちゃダメですよ! そのSMプレイ中の姿をリスナーさん達も見てるんですよ。我慢してください!」


「これを我慢しろだなんて、ガブ……あなた何てキツい命令をするのぉ? んんぅ、後輩に命令されて……先輩なのに……も、らめ……」


「あなた配信中なのに、なに絶頂しようとしてるノ? 正気ナノ!?」


 ぶいなろっ!!メンバーとエンタメ勝負をしようとしていたデルタであったが、それ以前に無法痴態……じゃなかった、無法地帯と化した現場と自由な彼女たちに翻弄されてそれどころではなくなっていた。

 その一瞬の隙を突くようにフェニスの溶けた蝋の直撃を顔面に食らってしまう。ハンドル操作を誤ってダンプカーは派手に横転し火花を散らしながら路上を滑っていく。そして燃料に引火しダンプカーは大爆発した。


 それぞれの車両から急いで降りてきた彼女たちは全員「やっちまった」みたいな、ばつが悪い顔をしながら燃えるダンプカーを呆然と見つめていた。――誰か消火活動してあげなさいよ。

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