第152配信 GTR 3日目 ワンユウの気配が……消えた?
◇ワンユウ君がエロゲー攻略中で不在につき三人称視点でお送り致します
ワンユウとセシリーが脱出不可能の部屋に入れられてエロゲー攻略に取りかかっている頃、ぶいなろっ!!サーバーでは異変に気が付く者がいた。
「……えっ? ワンユウさんの気配が……消えた?」
本日もミニスカポリスの一員として勤務しているガブリエールは街で暴れるギャング共を捕まえながらポツリと呟いた。
「気のせいじゃないの? 今日はあまり彼と関わっていないから寂しくなっちゃったとか?」
同じ現場でガブリエールの発言を聞いていた二期生のドMクロウは思い過ごしだと伝えたが、ストーカー気質の天使は甘くなかったと思い知らされる。
ガブリエールが端末を使って立体映像を出すと何やら確認し始める。それを見てクロウはギョッとした。
「それってまさか監視カメラの映像? そんなの実装されてたの?」
「はい! 警察の標準装備ではなく個人で追加購入したものです。この『ネオ出島』の各所に今日設置しておいたんです。五十箇所ほど」
「ごじゅ……! 一応訊いておくけど設置した理由は?」
「勿論ワンユウさんの動きを監視するためです。GTR初日にワンユウさんを数分おきに観察していたんですけど、それだと警察の仕事との両立が難しくて。今は気配である程度ワンユウさんの居場所は分かるので、カメラは詳細位置特定のために使ってます」
「そ、そうなんだ。へぇ~。勿論なのね……へぇ~」
この広い島の中で気配を察知するとか監視カメラで動向を探るとか、そういった変態的行動を当然の様に実行するガブリエールにドン引きしていた。
「うーん、やっぱり居ないなぁ」
「ワンユウ君、本当に見つからないの?」
クロウが驚いたのはワンユウが居ないという事実よりも気配でワンユウ不在を的中させたガブリエールの嗅覚である。本物のストーカー恐るべし。
「ワンユウさんが消えた事にルーちゃんも気づいていると思うので電話してみます。私の知らない情報を持ってるかも」
「あなたとルーシーっていつからそんな超能力に目覚めたの?」
その頃ルーシーを含むギャングチーム全員は銀行強盗に勤しんでいた。
ギャングは悪さをしてなんぼの集団なので今日も今日とて窃盗してお金を稼ぎ、そのお金で<ギャングバトラーⅣ>を強化して貰うので最終的にはメカニックに搾り取られる運命だったりする。
「シャロンせんぱーい、ちゃんと見張っていてくださいよー」
「見張ってるから、早くお金を回収して逃げようよ。警察がいつ来るか分かんないんだからさー!」
「今回収してっからもうちょい待ってろ。それにしても、ふははははは! 見ろよこの札束の山を! これでオレ達は大金持ちだぜ!!」
「そう言いたいところニャけど、<ギャングバトラーⅣ>の修理とか追加武装とかで結構お金が掛かるんニャよね。そろそろメザシをおかずにご飯を食べる生活から解放されたいニャ。……うう……ぐふっ」
「サターナ先輩泣かないでくださいよー! これからルー達はギャングのてっぺん取るんですから。そして大金持ちになってキャバクラでドンペリ頼んでどんちゃん騒ぎするんですぅ!」
「ルーシーってさ、オレ達の中で一番ギャング適正高いよな。言ってる事とやってる事が映画で見たギャングそのものじゃんかよ」
「うちの期待のルーキーニャ。……ん? 何か声が聞こえてきたニャ。これはガブの歌ニャね」
「あ、ごめんなさーい! ガブから電話来たみたいです。ちょっと出ますね」
「まさかお前、電話の着信音をメンバーの持ち歌にしてるの? 可愛い奴めー」
ノームに自分の趣味を指摘されたルーシーは恥ずかしさを誤魔化すように背を向けて電話に出た。すると慌てたガブリエールの声が聞こえてくる。
『ルーちゃん、忙しいところごめんね!』
「どうしたの、ガブ? そんなに慌てて何かあったの?」
『うん、ワンユウさんの気配が消えたから監視カメラで確認したんだけどやっぱり何処にも居ないの。ルーちゃんは何か知ってる?』
「ああ、それなら銀行強盗に入る前に気が付いたよ。後で確認しようと思ってたけど、ガブの監視にも引っかからないのは怪しいね。何かトラブルでもあったのかな?」
会話を聞いていたサターナ、ノーム、シャロンの三人は色んな意味で顔面蒼白になった。
「おいおい、ワンユウが居なくなった事に気配で気が付くって何なんだよ、お前等は。それにチ◯ドの霊圧が消えた、みたいに言うのは止めてもろて」
「ガブもルーシーも当然の様にエスパーストーカーなのが驚きニャ。いつからそんなシックスセンスに目覚めたのニャ」
「ってか重要なのはそこじゃないよ! それガブからの電話なんでしょ? 今銀行強盗してるって言っちゃったじゃん!! 警察相手に犯行暴露してどうすんの!?」
「……あ! いや、そのガブ……今のはジョークで……」
『ルーちゃん達が居るのは『ネオ出島』の南方の銀行かな? 今から行くね』
「ちょ、ま……!」
言い終わる前にガブリエールからの電話は終了し、その場には電話が切れた音がツーツーと無情に鳴っていた。
ギャング仲間が口をパクパクさせているのを目の当たりにし、ルーシーは手で自分の頭を小突いてウインクする。
「あは……あはは……ごめんなさーい。ミスっちゃった。てへっ」
「「てへっ」じゃねーよ!! 何やってくれとんじゃい、このてへぺろ堕天使はよーーーーー!! はよここからずらかるぞ」
「やっぱり次の食事もメザシご飯ニャ~。ひもじいのはもう嫌ニャーーーーーー!!」
「警察に捕まったらそれどころじゃないでしょ!? いや、待てよ。もしかしたら留置所に入れられた方がもっとマシなご飯が出てくるのでは?」
「アホか! サツに捕まったらこの金も没収されちまうだろーが。逃げるんだよォォォ!!」
「マジでごめんなざぁぁぁぁぁぁい!! 赦じでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
急いで詰められるだけの札束をジュラルミンケースに突っ込んで四人が銀行を出ると、パトカーがサイレンを鳴らして近づいて来るのが遠くに聞こえた。
ルーシーとシャロンは大型バイクに二人で搭乗し、ノームとサターナは自動車に乗り込んだ。お互いジュラルミンケースを持ち二手に分かれて逃げる。どちらかが捕まっても片方が生き残れば確実にお金が手に入る。それが彼女たちの逃走の常套手段なのである。
「シャロン先輩、バイクから落っこちても絶対にケースを離さないでくださいよ」
「ルーシーはシャロンとお金どっちが大事なの?」
「そんなのお金の方に決まってるじゃないですかぁ。もう変なこと訊くんだからー」
「お前マジで後でみてろよ。その無駄にでかい乳をたっぷり弄んだ後にもぎ取ってやるからな」
「あっははははは! 自分が持たざる者だからってひがまないでくださいよー。それじゃ出発しますねー!」
「くっそぉぉぉぉぉぉぉ、今すぐもぎ取って自分に移植してやりたい!!」
かくしてギャングチームによる夢に向けた逃走劇が開始された。しかしルーシー達はこれがとんでもない事態に拡大するとは、この時知る由もなかった。