第148配信 GTR 3日目 AV視聴系エロゲー攻略RTA開始
デルタによって隔離された俺とセシリーはここから脱出するためにアダルトゲームブランド『ドエロフ』の作品『上級生』のプレイを開始しようとしていた。
『ワンユウ様、このゲームヒロイン一人攻略するのに十時間以上は掛かるんですヨネ? ヒロイン十名なので最低四日間はここにぶち込まれる計算になりマス。エロゲクリアするまでログアウト出来ないなんてキ◯ト君も驚きのデスゲームデスヨ』
「いやいやいや、彼はデスゲームやりながら複数の女性とフラグ立てまくる一級フラグ建築士だぞ。ラブコメにも対応可能なスペシャリストだ。サポートしてくれるAIの子も健気で可愛いしな。俺たちも組み合わせは同じだが結局は陰キャオタクと酒カスAIだからな~。――あれ? 何か目が熱くなってきた」
『ワンユウ様、あんた泣いてんデスカ?』
「そういうセシリーこそ目から液体がこぼれてるよ」
『これは心の汗デスヨ。……グスッ』
自分たちの情けなさを痛感し二人で泣いた。そして数分後――。
「――よし! 気分を切り替えてエロゲー攻略を始めるぞ」
『攻略に時間が掛かる以上、脱出が絶望的なのは変わっていまセンヨ』
「その事なんだが訂正があります。普通にプレイすれば全ヒロイン攻略するまで百時間は掛かると言いましたが、ざっと計算したところ短縮プレイをすれば四時間でいけるかもしれません」
『よ、四時間!? 百時間が何をどうすればそこまで短く出来るんデスカ? ここが幾ら外界から隔絶された場所だと言っても精◯と時の部屋じゃないんデスヨ? 時間の流れは一緒デス』
いつになくセシリーが動揺している。そんなこたぁ俺だって重々承知している。時間の流れが遅いなんていう便利な場所は存在しないのだ。
宿題に手を付けないまま夏休み最終日を迎え、神様に「精◯と時の部屋を少しの間貸してください」と懇願したものの願いは叶わなかった中学二年生の頃が懐かしい。
俺はあの日、神を信じる事を止めたのだ。運命は自分の手で切り開くしかないと学び、一日で宿題が終わるハズもなく先生に叱られた。
あとどうでも良いかもしれないが、精◯という形で伏字を置くと卑猥な理由でそうしたように見えてしまう。有識者は知っていると思うがこれはエロい理由で伏字にしてるんじゃないからね。
「エロゲー攻略の際にはCGやシーンのコンプの為に効率化を図るのが鉄則。その為のフローチャートの組み立てが脳内で完了したところだ」
『ワンユウ様がクレバーそうなこと言ってル。ただし、その内容はエロゲの話だから結局はしょーもなかったりスル。それにしても一分を百秒と勘違いしていた人とは思えない発言デスネ』
「それ未来の話だから今すんな! 時系列がごちゃごちゃになるだろ。いやさ、あの時は眠くて頭がボーッとしていただけだから。――とにかく、その話題は一旦置いといて攻略について説明すっぞ」
『聞かせて貰おうか、陰キャオタクのエロゲー攻略のプランとヤラヲ』
「会話は全てスキップ機能を使用して巻きでいく。これだけでかなりの時間短縮になる。ヒロインの攻略手順としては、まず最初にメインヒロインの天堂遙香を堕とす。そのクリアデータを使って二週目開始。これにより隠しヒロインである双葉葵と双葉奏の姉妹が攻略可能となる。二週目は双葉姉妹以外の各ヒロインの攻略を同時に進めていき共通ルート終了の所でセーブポイントを作る。そこからは個別ルートに突入するから一人ずつ攻略し、これを七人分行う。最後は双葉姉妹の攻略をする訳だが、この二人は二週目開始直後のセーブから攻略を開始する。ここで落とし穴があるんだけど、双葉姉妹は同時に好感度を上げイベントを交互に起こさないと攻略進行不可能になる。実はこの二人は単独での攻略は不可能で姉妹同時攻略がデフォなんだよ。驚きだろ? そういう訳でこの双葉姉妹の姉妹丼を最後にヒロイン全員の攻略完了の流れになる。質問はあるか?」
『キモッ』
セシリーが顔を引きつらせ後ずさりしながら言った。ちょっと早口で説明したけれどそんなドン引きするなんて酷くない? や……客観的に見ると確かにヤバい……か? 当時結構やり込んでいたとバレただろうしな。
「それじゃゲーム開始するぞ。舞台は師走市という地方都市だ。プレイヤーは高校二年の男子学生となって街中を移動しバイトして資金を貯めたりステータスを上げたりヒロインとフラグを立てたりする。とにかくやる事が……やる事が多い!」
『ワンユウ様、主人公のステータスってどんな種類があるんデスカ?』
「大まかに説明すると、学業、オシャレ、筋力、精力かな。あとはエッチ回数をこなす事で性技が成長する。筋力、精力、性技のレベルがマックスになるとシークレットエッチが出来るようになる」
『何ですかソレハッ!?』
「えーと、普段よりも激し目なエッチというか……一応、全ヒロインにあるよ」
『もちろん、ワンユウ様の事ですからシークレットも目指すのデショウ? 是非、拝見したいものデスネ』
「――は? 嫌だよ。何が悲しくてお前と一緒にエロゲーのエロシーンを見ないといけないんだよ。気まずいわ! それに俺たちは一刻も早くデルタを追わないといけないんだから、そこも当然スキップするからね」
『あんたそれでも漢デスカッ!? エロゲーするのにエロシーン飛ばすなんて馬鹿ナノッ!?』
「何でそんなに興奮してんだよ。エッチなシーン見たいの?」
『見だイッ! ぶいなろっ!!の皆なら、あんなグラサン相手に遅れは取らないから心配ありまセンヨ。ほら、早く始めまショ。会話はスキップしてエロシーンだけ見ればいいんデスヨ。ピロートークは要らネエ』
「……何かそれAV視聴の仕方みたいだな。インタビュー部分すっとばして本番シーンだけ見るみたいな。人によって意見が分かれる所ではあるがその論争は止めておこう、死者が出るからな」
複雑な心境の中、ゲームをスタートさせる。すると主人公の名前入力を求められる。適当にアンポンタンにでもしようかと思っているとポテチ食べながら楽しそうに画面を見ているセシリーがふと視界に入った。ふむ……。
「セ……シ……オ……と」
主人公の名前を『セシオ』にしてスタートさせるとセシリーがポテチを吹き出した。
「ちょ、汚いなー。もっと静かにエロゲー鑑賞してくれます?」
『げふっ、ごふっ、がほっ、……ちょっと待てヨ! セシオってもしかしなくても私の名前から取ったデショ!』
「その方が没入感出るだろ。それじゃゲーム開始するよ、セシオ」
『私はセシオじゃネーシ』
冒頭部分からスキップを使用しテキストが次々にすっ飛ばされていく。このゲームを一生懸命作ってくれた方々の努力を思うと胸が痛い。
俺がこれからするのはストーリー完全無視のRTAだ。ゲームクリアまでの予想時間は四、五時間程度。ここから脱出できるのはGTR三日目終了のメンテナンス開始直前頃になるだろう。
スキップで色んなシーンに突入しては終了していく。この間、ヒロイン達が次々に現れるがその中でもメインヒロインである天堂遙香の出現回数は圧倒的だった。
『今思ったんですけど、遙香の出現率エグくないデスカ?』
「ゲーム開始早々にそこに気が付くとは大したもんだ。このゲームは天堂遙香以外のヒロインを攻略する際に如何に遙香のストーキング行為を躱すかがポイントなんだよ」
『ワンユウ様、あんたリアルでもゲームでもストーキング行為に悩まされるって大丈夫? いや、待てヨ。むしろ、このゲームでストーキング行為に慣れていたからこそガブリエール様のネットストーキングにも対応出来ていた……トカ? マジで何なのあなたの人生、ゲームナノ?』
セシリーに本気で心配されると不安になる。彼女に言われて気が付いたが、確かにこのゲームで遙香というストーカーに慣れていたのもあってガブリエール――陽菜のネットストーキングにも寛容でいられたのかもしれない。
そう思うと、この上級生というエロゲーは俺の人生を変えてくれた作品なのかもしれない。ありがとう、ドエロフ……いや、ドエロフ様!