第147配信 GTR 3日目 エロゲーヒロイン全員攻略するまで帰れまテン
偽キャニオン社長改めデルタとそのお仲間は最終的に世界のエンタメを支配する事が目的らしい。取りあえずこの作品がAI戦争物にならなくてホッとした。
これで彼等の事がある程度分かった。現状としては、このGTRぶいなろっ!!サーバーにおいて配信を乗っ取ろうとしている。
「俺はこのぶいなろっ!!サーバーの現場責任者だ。だからあんた達に協力は出来ない」
「でしょうネ。実際そう言うと思っていたし、そうなってくれないと面白くないモノ。我々に対抗できるのはあなたとあなたが乗っていたロボットぐらいだと考えてイルワ。昨日の戦いをじっくり観察させて貰ってそう結論づけた訳ダケド。――あなた、本気で戦っていなかったワヨネ?」
「だとしたらどうする?」
「大変おもしれーじゃねーのヨ。是非ワタシと全力で戦って欲しいものダワ。でも、その前に色々とやりたい事があるのよネ。まずはぶいなろっ!!のおメスちゃん達とエンタメ勝負をして十分堪能させて貰った後にワンユウちゃんとのお楽しみコースにしけ込みたいワケ」
「俺はデザートかい! あんたの計画をそこまで語られて俺が黙っていると思ったのか? 悪いけどオードブルに昇格させて貰うわ。今すぐバグを修正してやる!」
「ふふふん、それはダーメ。急かしちゃダメよ、ワンユウちゃン。物事には順序ってものがあるのヨン。そうした方が色々と盛り上がるでショ。イベントも男女の関係も……ネ」
『ナルホド。昔の表現で言うのならABCの流れデスネ』
「それで通じる人いるのかね? とにかく速攻で片付けて――」
ピコピコハンマーを振りかぶると周囲の風景が変わった。カフェに居たハズが、今はワンルームの部屋に立っている。
目の前には三十二インチぐらいのテレビとゲーム機にソファが置かれ、少し離れた所にはドリンクサーバーと各種スナックが完備されていた。
「やられた!」
『ぶいなろっ!!サーバー内ではありますが、隔離されたエリアに飛ばされたようでス』
キャニオン社長の姿とオネエ口調という攻撃性の低さに油断していたのかもしれない。一瞬の隙を突かれてこんな場所に追いやられるなんて。
『油断大敵ね、ワンユウちゃン』
室内にデルタの声が響いてきた。本人はどうやらここには居ないらしい。
「やってくれたじゃないか。今すぐそっちに戻るから覚悟しろよ。こっちは管理者権限を使えばサーバー内の何処にでも行けるんだ。こんな場所に隔離しようったってそうはいかない」
『無理矢理そんな事したらシステムに負荷が掛かって配信に影響が出るかもしれないけど、それでも良いのならドウゾ』
「くっ……」
『こちらの弱点を読まれていますネ。この場所は恐らく愛の監獄と同様のエスケープ不可能のエリアデス。力尽くで脱出をすると不具合が起こる可能性がありマス』
まさかこんな形で愛の監獄の恐ろしさを体験するとは思わなかった。ワンチャン一旦ログアウトして入り直せば通常エリアに復帰できるか?
『そうそう、言い忘れてたけどログアウトは出来ないワヨ。外部からVR装置を無理矢理外すのもお勧めしないワ』
「……ちなみに外したらどうなるの?」
『あなたの脳にワタシが夢に出てくるように信号をぶち込むワ。毎晩夢の中で楽しい事が起こるから熟睡は出来なくなるカモネ』
『アンポンタンに連絡してワンユウ様のVR装置を外して貰いマス。今すぐニッ!』
「おい、止めろこら!! そんな事したら死よりも恐ろしいドリームが毎晩俺を襲うだろうが! くそっ、何て卑劣な手を使うんだよぅ」
『そこまで嫌がる事はないでショウ? 毎晩ネットリグッチョリな楽しい夢を見るだけヨ。小中学生あたりに見た事あるんじゃナイ? そんな感じヨ』
「それってまさか夢せ――嫌だぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁ!!! やっぱりそういう夢を見せる気満々じゃんかよ。卑怯だぞ、このグラサンッ!!」
『ワンユウ様、逆転の発想デスヨ。あの黒光りスキンヘッドグラサンと仲良くなってしまえば良いのデス。そしたら毎晩マジで楽しい夢が見れるデショ? ハッピードリームエブリデイ、愉快じゃあないデスカ』
「セシリーが俺の立場だったらどうするんだよ」
『潔く腹を切りマス』
「お前……それだけの覚悟があるのによく俺に仲良くなれなんて言えたなぁぁぁぁぁぁ!!」
『所詮人ごとなのデ。本当にハラキリする訳ないでショ? ハハハハハハハハハハ!!』
ここまで殺意が高まったのは生まれて初めてかもしれない。相手がAIではなく生身の相手であったなら無意識にグーパンが炸裂していただろう。
『ちなみにワンユウちゃんのVR装置が外されたらセシリーちゃんにもお酒が水の味になるデータパッチをぶち込むワヨン』
『ハァァァァァッァァァァァァァァッ!? おま、ふざけんじゃねーーーーーーーーーーデスヨ!! 私の唯一の癒やしを奪おうってのカ? ぶち殺すゾッッッ!!!』
「あっははははははははははは!! ざまーみろ、このクソAI! 残念だったな、どうやら俺とお前は一蓮托生だったらしい。地獄に落ちる時は一緒だ! 丁度よかったな、これで一生酒の味とはおさらばだ。ざまぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!」
『……あなた達、本当に仲間ナノ? さっきから醜い争いばっかしてんダケド。ハァ……、人間とAI両方ともスカポンタンなんてエンタメ的にも心配ダワァ』
デルタの心底呆れたと言わんばかりの声がワンルームに響き渡る。その時、テレビ画面が突然明るくなった。何だ? 一体何が始まるっていうんだ?
画面が真っ白になり『doerof』と表示されると澄んだ女性の音声が聞こえてきた。
『――ドエロフ』
「これは……!」
『覚えていますか? あの青春の日々を。覚えていますか? あの特別な三年間を。覚えていますか? あの時の彼女の温もりを――』
「間違いない、この台詞……この作品は……」
『――上級生』
画面に学生服姿のメインヒロイン天堂遙香が映りゲームタイトルが表示された。一昔前のゲームなのでキャラデザがやや古めかしい感じだがそれが良い。
「やっぱり! 老舗アダルトゲームブランド『ドエロフ』の最高傑作と名高い『上級生』じゃあないか!! それがどうして、このGTR内にあるんだ!?」
『何か普通にサーバー内にゲームデータがあったワヨ? それを使わせて貰ったのダケレド』
『ワンユウ様、確認したところメーカー側から上級生の使用許諾は下りている模様デス』
「もう訳が分からないよ。でも許諾が取ってあるって事は会社側で手配したって事だよな。何考えてんだよ、エロゲーを配信で流せる訳ないだろうに……」
バグとか関係無しにエロゲーで何かする気だったのは確かなので、ぶいなろっ!!にしろファイプロにしろ頭がおかしい連中がいる。心当たりが多すぎて誰の仕業なのか特定は難しい。
『ワンユウちゃん、今からあなたにはこのゲームをプレイして貰うワ』
「なん……だと!?」
『この作品には十名の攻略対象がいるワ。その娘たち全員を攻略すれば、その部屋から脱出する事が可能にナル。無理矢理ではなく正攻法でいけばサーバーのシステム的にも問題は無イ。悪い条件ではないでショ』
『あのグラサン、思ったよりも良心的デスネ。エロゲー楽しんでクリアすればオッケーなんて簡単じゃないデスカ』
「……冗談言うな。攻略期間は一年と長丁場。通常プレイだと一人攻略するのに十時間は掛かるんだぞ」
『あのグラサン~、卑劣極まりナイ! 私たちをここから出す気なんて最初から無かったという事じゃねーデスカ』
『人聞きの悪い事を言わないでくれるカシラ? 脱出の術は用意してあげたワ。後はあなた達の頑張り次第ってコト。――もっとも、あなた達が出てきた時にはおメスちゃん達はエンタメ勝負に負けて泣いてるでしょうケドネ。それじゃ、バッハハーイ』
デルタの声が聞こえなくなり室内が静まり返る。
取りあえずドリンクサーバーからソフトドリンクを二人分とポテチを皿に載せてテーブルに置きソファに座ってタイトル画面を見やる。
「まずは一旦落ち着こう。アルコール類は無かったからジンジャーエールを持ってきたよ」
『随分と冷静ですね、ワンユウ様。このゲームクリアするのに百時間は掛かるんデショ? そんな長時間密室に私たち二人だけ……ワンユウ様が人形姿の私で破廉恥な遊びを始めるのも時間の問題。セシリーピーンチ!』
「案外平気みたいで安心したよ。さっきは言わなかったが俺はこのゲームをプレイした事がある。なるべく早くクリアできるように作戦立てるからポテチ食べてな」
『女子の前で堂々と「エロゲプレイしてました」なんてよく言えましたネ。——で、どのヒロインがお好みデスカ? 私興味ありマス』
こうして俺とセシリーによる『エロゲーヒロイン全員攻略するまで帰れまテン』が開始されたのであった。