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第144配信 GTR 2日目 妹なるもの

 折角なのでスクリューパイルドライバーに口を付ける。――うん、普通のスクリュードライバーだ。甘くて飲みやすい。釘は危ないから取っておこう。

 一杯だけならいいかと飲んでいると顔が真っ赤になったセシリーがこっちを見ている。


『お仕事中なのに飲酒なんていけないダー! セーンセーに言ってヤロー』


「お前にだけは言われたくないわ! 完全に出来上がってるじゃないか。水で薄めなさいよ」


『嫌ヤ! このほろ酔いで気持ちひぃのを奪う権利なんて誰にもないんヤデー!』


「何で関西弁!? 酔いすぎて言語機能おかしくなったの?」


「そうやん、そんなん言うなんて酷い!」


 何か横の方からも関西弁が聞こえてくる。このロリっぽい可愛らしい声はまさか!


「ひっく、うぅ~、へへっ。セシリー、飲んでまっか?」


『飲んでまひゅヨ~。ナーヒャも良い感じで酔ってましゅネ~。んぐっ、んぐっ、プフゥ~』


 関西弁で絡んできたのはナーシャだった。妹キャラがぶっ飛んでロリボイスの関西弁お姉さんになっている。最高かよ。

 酔いどれナーシャとセシリーが酌み交わし始める。どういう化学反応が起こるのかワクワク半分恐怖半分。


「ねえセシリ~、ナーヒャはさぁ、妹キャラがしゅきやったからデビューする時、妹キャラになろう思たけど、ちゃんと出来てるかなぁ?」


『ぐびっ、ぐびっ、ぐびっ、プシュ~。まらそのはなひでひゅカ。ナーヒャは立派な皆の妹れふヨ。ふふっ、皆のシスターにかんぱーイ!!』


「そう? ひひっ、よかっらぁ。かんぱーい! くぴっ、くぴっ、くぴっ――」


 ナーシャのメン限飲酒雑談枠で定期的に見る光景だ。彼女は元々アニメやゲームの妹キャラが大好物だったらしい。その中で人生を変えた作品が『シスターお姫様』だ。


 シスターお姫様――通称『シス姫』はプレイヤーが兄となって総勢十三名の妹たちと織りなす恋愛ゲームだ。妹の性格は従順、ツンデレ、不思議ちゃん、ボーイッシュ等々バリエーション豊かで当時の恋愛ゲーム市場において爆発的人気を誇った。

 「あー、可愛い妹が欲しかったなー」と思っていた世の中のお兄ちゃん予備軍の願望を十三倍の破壊力で叶えてくれた性癖破壊ゲームと言っても過言ではない。

 

 そのヘビーユーザーがナーシャであり、彼女の妹キャラへの愛が生み出したのがVTuberである現在の彼女である。変幻自在な妹の仮面を被る彼女は配信で色んな妹に変化し、世の妹狂いのお兄ちゃん(リスナー)を翻弄している。


 時々そんな鉄壁妹仮面も弱気になる事があり、妹キャラとして自分はちゃんとやれているのだろうか、とメン限の飲酒配信でリスナー達に絡み酒して自己肯定感のメンテナンスをしているのだ。


『ワンユウひゃまからも、この迷える妹に何か言ってあげてくだハイヨ。あなたリアルお兄ちゃんでヒョ』


「一応兄貴ではあるけど下は弟だからなぁ。妹へのアドバイスなんて……うーん」


 悩んでいるとナーシャが瞳を潤ませて俺を見ている。隅っこで大人しくしていたのに何故か難しいイベントに突入した。ここはいちリスナーとして素直な感想を述べるべきか……。


「ナーシャは本当に頑張ってるよ。リスナーが望む以上の妹成分を供給してくれてるから皆助かってるし。時々一瞬だけ見せる素の姿も面白いよ。このギャップの魅力はぶいなろっ!!メンバーの中でも随一だと思う。それにGTRでもメカニックの一員として頑張ってくれてる。さっきのゲートの件でも大型トレーラーで<ライジン>を運んでくれたでしょ。そのお陰でベルフェが一緒に戦ってくれたから凄い助かった。ありがとう」


「う……ぐす……ふぅわぁぁぁっぁぁぁっぁぁん!!」


 ナーシャが泣き出し周囲から何が起きたという視線が向けられる。ガブリエールとルーシー、それにナーシャの同期である三期生のフェネルとホロウが集まってきた。


「ワンユウさん、またフラグを立てたんですか?」


「立ててないから。悩んでいるみたいだから、いちリスナーとしてありがとうって言っただけだから」


「そうやってナーシャ先輩を泣かせたのね? ルーの時と同じ手口じゃ~ん。褒めて堕とすのがワンユウのやり方なのよねぇ」


「ちが……! ルーシーさぁ、人聞きの悪いこと言わんといて」


 俺はそんなつもりは微塵もないのに。ただ箱推しとしていつも楽しい配信をありがとうって伝えたかっただけなんだ。それで口説いてるとかラノベの主人公じゃあるまいし、ちょっと会話しただけで相手の好感度が爆上げする訳ない。

 俺はラブコメの皮を被った変態だらけの物語の主人公らしき者なだけなんだ!!


「お兄ちゃんから褒めて貰ってナーシャは元気が出まひた!! ナシャリスのお兄ちゃん、おにぃ、あんちゃん、お兄様、あに様、兄君さま、おにいたま、兄くん、兄貴、ニキ、にぃにぃ、おにんにん、にゃんにゃん。――皆ぁぁぁぁぁぁぁぁ、ありゃがとですっ!!」


「「「最後の二つは兄貴じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」


『どうやら途中から成人向けゲームに登場するお兄さんになってしまったようデスネ』


「いやいや、おにんにんとにゃんにゃんは……えーと」


 言いかけてフェネルの顔が真っ赤になる。そりゃあ、どっちも言えないでしょうよ。言いよどむフェネルの前にホロウが出てきた。嫌な予感しかしない。


「セシリー、それは違うぞ。おにんにんは男性器、にゃんにゃんはセッ〇スの隠語だ。もっと分かり易く言うと、ちん――」


「いや、言わせないよ!? なに普通に言おうとしてんの?」


「そうですよ、ホロウ先輩。おにんにんはぁ、おちんち――」


「ガブ、お前もか!? ナニ考えてんだ!!」


「そういうワンユウだってナニって……ナニが……ナニ……アハハハハハハハ!!」


「ルーシーまで!? いやさ、確かに俺の言い方が悪かったかもだけど、このタイミングで反応しなくても良くない? まさか酔って……あ」


 ルーシーの手には空になったグラスが……。よく見たらガブもホロウもフェネルも頬は赤く染まり目がすわっている。


「ここには酔っ払いしか居ねぇーーーーーーーーーーーーーー!!!」




 かくしてGTRぶいなろっ!!サーバー二日目は終了した。

 初っ端から想定以上の混乱が起きたけれど、今目の前で起きている出来事に比べればマシかもしれない。


「あひゃひゃひゃひゃひゃっ!! 良いですわぁ、良いですわぁーーーーー! アンナ、フェニママ、最高ですわよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 狂ったように笑いながら写真を撮りまくっているのはぶいなろっ!!のナンバーワン嬢メルア姫。彼女のカメラの先では一期生のエロ聖女アンナマリーと五期生の皆のママンフェニスの医療班コンビがポールダンスをしていた。


「皆ぁ~、お疲れさま~。私アンナマリーとぉ――」


「――フェニスのセクシーポールダンスで癒されてイってねぇ~」


 布地の少ないセクシードレスから二人のエロボディが惜しげも無く放り出されていた。二人はポールの両サイドに立ち、その冷たい金属棒を挟み込むように身体を寄せる。

 フェニスは公式情報でぶいなろっ!!最強のJカップ、アンナマリーは発表はしていないものの恐らくFカップ以上のものをお持ちだ。

 そんな二人が思い切りくっつくもんだから胸が押し合いへし合いして潰し合っている。ポール君は二人の谷間に同時に挟まれて熱を帯びている様子。


「ハァ……ハァ……ふぅ……ん」


「ん……んん……あは……」


 これだけでも凄い光景なのに、二人は思いきり開脚して身体を上下に動かし始める。上気した顔からは甘い吐息が漏れ出ている。


「ズっている……だと!? これ……これは……アカンやつや!!」


 深いスリットからは惜しげもなくむちむち太腿が丸見え、北半球がモロ見えのパイでポール君を刺激するこの状況はあまりにも不健全なものだ。このセクシーさにヨウツベは耐えられるのか?

 運営の立場としては止めねばならんと思うのだが身体は動かず視線も外せない。悔しいけど俺は男なんだな。

 この配信は無事にアーカイブに残ったのでホッとしたのだが、同時にヨウツベ君のセンシティブ判定はガバガバになっている事実を知りました。

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