第138配信 GTR 2日目 萌え萌えズキュゥゥゥゥゥン
「それにしても新しく出てきたあのロボは何者なんだ?」
『あれはうちのゲーム開発部の三馬鹿……アンポンタンが考案した量産型機<ザァコ>デス』
「凄い! 名前を聞いただけでやられ役だという事がしっかり伝わる!」
『皆を驚かせるために秘密裏にシコシコ用意した機体デス。ちなみに他にもあんな感じのが何種類かイマス』
「それが何でまたバグのゲートから出てくるんだよ!」
ゲーム開発部から連絡がきたので応答すると丹波さんからだった。恐らく<ザァコ>に関する事だろう。
「はい、こちらワンユウ。丹波さん、どうしましたか? オーバー」
『ワンユウ君、一大事でーす!! ミー達が丹精込めて作ったロボットのデータがハッキングを受けてバグロボになってしまいました。ミー達のロボが……ロボが……NTRれてしまったのでーーーす! オーバー』
「よくもまあ、あれだけ仕事が大変な時にあんなロボットを用意する時間がありましたね。丹波さん達には悪いですけど、状況が状況なので遠慮無くぶっ壊しますよ」
『ふふふ……ふふ、我ら三人組が作り上げた<ザァコ>に勝てますかな? 単体では強くなくとも数の暴力で圧倒できるのです。戦いは数だよ兄貴!』
「あんたは一体どっちの味方だ!? くそっ……構わん、ガブ、ベルフェ、やっちまいなさい!」
『了解です! ガトリング砲でまた気持ちよく……あはは……!』
『こっちもマシンガンでスッキリ爽快するぅ!』
次から次へと沸いて出てくる<ザァコ>はガトリング砲とマシンガンで撃破されていく。その見事なやられっぷりには目を見張るものがある。ロボによる数の暴力は弾丸の数の暴力に負けた。
『ワンユウさん、また違うロボが出てきました!』
「何だって!? 今度は一体どんなのが……な、なん……だと!?」
ゲートから出てきたのは全身ピンク色のマッシブな機体だった。しかし驚くべきは頭部にはツインテールを思わせるパーツがくっついており、装甲がまるでメイド服みたいな形状になっている事だ。そして右肩には「萌」、左肩には「式」と書いてある。これは……!
『悪趣味なロボデスネ』
『悪趣味とは失礼な!! あれは我々が考えたロボット、その名も<萌式>ですぞ!』
「<萌式>? 見た感じ大型メイドロボって感じですけど……それにしても随分太ましいなぁ」
『太ましい……? レディーに向かって何失礼なこと言っとんじゃい、このボケがよぉぉぉぉぉ!! 何処からどう見ても魅惑的なむちむちボディしとるやんけぁぁぁぁぁぁ!!』
「ええっ!? 普段温厚な丹波さんが怒り狂ってる。ってか、怒るポイントそこなの? ロボがむちむちて……」
『いいですか、よーく<萌式>のボディを見てください。白ニーソからはみ出るむちむち太腿、ちょっとだらしないお腹周り、栄養たっぷりまん丸お顔。――この隙だらけな感じがたまらんのですよ! これはもう、萌えざるを得ない!!!』
『生身と金属の違いを認識できていないようデスネ。これはもはや治療不可能。いっぺん死んで生まれ変わった方が早いようデス』
セシリーは生みの親アンポンタンに対して容赦ない。そう思っていると<萌式>が両手でハートマークを作りその部分が発光し始めた。そして――。
『モエ、モエ、モエ、モエ、モエ、モエ――』
あろう事か<萌式>からめっさ可愛い萌え声が聞こえてきた。巨大ロボの見た目とのギャップが凄い。巨大な体躯を左右に振ってリズムに乗って萌え萌えコールをやり始めた。
『うわー、あのロボットの声とても可愛いですねぇ。メイドさんの萌え萌えコールってテンション上がりますよね。よーし、私も一緒に……萌え、萌え、萌え、萌え――』
『ベル様もやるー! 萌え、萌え、萌え、萌え――』
『うふふ、楽しそうですわね。萌え、萌え、萌え、萌え――』
『何だかメイド喫茶に来たみたーい。ワタシもぉ、萌え、萌え、萌え、萌え――』
『ふっふっふー、メイド服が基本衣装のネプが通りますよぅ! 萌え、萌え、萌え、萌え――』
「ぶいなろっ!!メンバーの萌え萌えコールを聴けるなんてそうそうないぞ! しかもメンバー数人同時なんてレア中のレアじゃんか。これはもう極上のASMRと言っても過言じゃあない。あー、耳が幸せ、脳が蕩けるー」
『ワンユウ様は声フェチでしたネ。もーしょうが無いなぁ、私も一肌脱ぎましょうカネ。萌え、萌え、萌え、萌エ――』
平和だ。今この場所は戦いの渦中であっても『萌え』で皆の心が一つになった平和な空間だ。そうだよ、世界平和に銃なんて要らない、萌えがあれば十分さ。
『ワンユウ君、言いそびれていましたが<萌式>の萌え萌えコールは攻撃前のモーションですぞ』
「え?」
丹波さんのアドバイスに理解が追いつかずフリーズしていると<萌式>の両手の発光が一際強くなりピンク色のハートマークが空中に出現した。何だあれ?
『モエ、モエ、モエ、モエ……ズキュゥゥゥゥゥゥゥゥン』
ハートマークが凄まじいスピードでこっちに向かってくるのが見えた次の瞬間、コフィンに大きな衝撃が走り天地が滅茶苦茶になる。身体が屋外に投げ出され地面を転がっていく。
起き上がって目を開けると横転したコフィンの荷台部分にハートマークの大きな穴が空いているのが見えた。
「あのロボット萌えを撃ちやがった! 萌えで……萌えで殺しに掛かってきたよ。誰だ萌えさえあれば世界は平和だなんて有頂天な事を言った奴は!?」
『誰もそんなこと言っていまセンヨ。それ、あなたのモノローグデスヨネ?』
「そうだった。すみませんでした!」
横転したコフィンの向こう側で<パトライバー>と<ライジン>が立ち上がる。良かった、二人共無事みたいだ。
『ワンユウさん、大丈夫ですか? 怪我してませんか?』
「俺のアバターは不死身だから問題ないよ。そっちは大丈夫なのか?」
『はい、私もベルちゃんも怪我はしていません。機体も大したダメージは無いので戦えます。ワンユウさんは離れていてください』
<パトライバー>は、その場から走り出すと左前腕に装備している小型シールドからスタンワイヤーを射出した。<萌式>に撃ち込むと電撃を流して動きを麻痺させる。
その隙に接近しハイボルトスティックを相手の腹部に突き刺し電撃をお見舞いする。度重なる電撃で大ダメージを負った<萌式>だが、鈍いながらも身体を動かし<パトライバー>に反撃しようと手を伸ばした。
『ベルちゃん、止めを!』
<パトライバー>の後方から<ライジン>が飛び出し雷神刀を大きく振りかぶり<萌式>に向かって勢いよく落下していく。
『いっけぇぇぇぇぇ、イナヅマ斬り!!』
落下エネルギーを加えた縦一文字の斬撃で<萌式>は真っ二つになって爆散した。勝利した二機はハイタッチを交わす。
『やったね、ベルちゃん』
『ガブのアシストのお陰だよ。危ない奴は居なくなったし、後はゲートを壊すだ……け……』
好調と思えたベルフェの様子がおかしい。<ライジン>の視線の先を追うとゲートから<萌式>が何機も出てくる様子を目の当たりにする。一機でもヤバいのにそれが複数。ベルフェもこれを見て言葉を失ったのだろう。
<パピヨンロボ>は大量の<ザァコ>を一機で相手していて手一杯。
大型トレーラーを一撃で吹っ飛ばす<萌式>が約十機出現した。これをガブとベルフェの二人で相手をするのは荷が重すぎる。
管理者権限を実行するしかないと思った時、四台の車両が戦場に乱入してきた。
『どうやらパーティーに間に合ったみたいニャー! やるぞ野郎共!!』
『オレ達は野郎じゃなくて女だからね。ってか、でっかいメイドロボが複数出てきたぞ』
『何か状況が世紀末みたいな感じになってるよー! シャロン達が来たところで、これどうにかなるの!?』
『皆お待たせー! ルー達ギャングチームが助けに来たよー』
車両にはギャングチームが乗っていた。ベルフェの話ではユニにロボットを造って貰っているという事だったが今回は間に合わなかったみたいだ。
それにしてもこのゲートの動きはおかしい事ばかりだ。俺たちが到着したタイミングで巨大化したり、ハッキングしたロボットを手駒として出してきたりした。
まるで誰かが俺たちがどう対応するのか観察するためにやっているような……そんな感じがする。




