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第133配信 GTR 2日目 感情ジェットコースター

 ガブリエールの策によって性欲が刺激されたお陰で心穏やかではない。

 少しでも気を緩めると野獣になってしまいそうで怖い。欲に従えば配信中にVTuberと〇〇〇したリスナーとして俺は各方面で炎上し人生終了するだろう。


「あっれれー、もう終わりなのー?」


 後ろの方から何処かで聞いた事のある声が聞こえてきた。振り返ると頭から角を生やした白髪ロングのロリっ娘が笑みを浮かべながらこっちを見ていた。


「ベルちゃん、いつからそこに居たの?」


「「ハグして欲しいれす」から居たよー」


「それなら助けてくれませんかね! 配信BANの危険があったでしょうよ!!」


「面白くてつい見ちゃったよ。オタ子さん……じゃなかった、ワンユウ総帥が発情しててダメだった。ミュートしてヒィヒィ言って笑い転げてたよ」


 ケタケタ笑ってクソガキムーブをかますベルフェに静かな怒りが込み上げてくる。そう言えばこいつはキャバクラで飲み食いした料金を俺に押しつけて逃げていたな。


「キャバクラではよくもやってくれたな。あの後、色々あって大変だったんだよ」


「知ってる。アーカイブ観たよ。ガブ達のロボバトルに巻き込まれて姫たちをオホらせたんでしょ?」


「だからそれは俺がオホらせたんじゃ……いや、もういいです。指示したのは俺なので全部俺のせいです」


「やさぐれてるなぁ。ベル様たちは総帥に恩義を感じてるんだよ。キャバクラからあまちゃんを連れて帰った報酬で食堂で無料で飲食出来るようになったからお金に余裕ができてさ。それでユニ先輩にロボットを造って貰えたんだよ。それもこれも総帥のお陰、ありがとね」


「良かったね、ベルちゃん。予定より早くロボットを購入出来たんだね。今度私とロボバトルしよ」


 同期がロボットを手に入れたと知って早速ロボバトルを提案するあたりガブの思考は戦闘民族なのだと改めて知る。

 それはさておき誰かに感謝されるのは悪い気はしない。キャバクラ飲食代二百万円……出費はデカかったが、まあいっか。リアルだったらヤバかったな。


「ロボを早めに手に入れたのは投獄されてる総帥を助け出す為だったんだよ。バハーム先輩の悪魔ノートとフェネル先輩の悪魔の眼の能力でNPCを操り街中を混乱させて、その隙に総帥を監獄から脱出させる予定だったんだ。そうなると<パトライバー>と戦う可能性が高かったからね」


「サリッサが言っていたNPCの暴動はベルフェ達がやったのか」


「まあね。総帥と一緒に投獄されていたルーシーの発案でギャング、キャバ嬢、BANノート――三つのチーム総出で総帥のプリズンブレイクを計画していたんだけど、まさか自力で脱出してくるとは思わなかったよ」


「ルーちゃんがワンユウさんの救出を計画したの?」


「そうだよ。ガブの愛の監獄(ラブプリズン)には反対だって言ってた。手元に置いておくより街中で遭遇した時に捕まえた方が断然面白いからだってさ」


 遭遇する何かについては伏せられていたが、十中八九俺の事だろう。RPGでエンカウントするモンスター扱いだよ。

 それはそうとガブとルーシーの意見は決裂したようだが、この先どうするつもりなのだろうか?


「……そうだね。ワンユウさんのお仕事が大変な事は実際にやってみてよく分かったし、ワンユウさんを閉じ込めて好きな時に好きなだけイチャイチャするのは私の我が儘でしかないのも分かった。愛の監獄はきっぱり封印します!!」


「切り替え早っ!」


「今さらだけど、ガブって基本的には常識人だけど総帥が絡むと狂人に変貌するよね。ルーシーも似たようなもんだし。六期生の半分が色狂いってなんなん?」


 俺からしたら趣味でエロ小説を書いてサイトに投稿しているベルフェも十分色狂いだと思うんだが、助けに来てくれた訳だし今は黙っとこう。


「状況を整理すると、『ネオ出島』内で起きている混乱は俺を脱獄させる為の陽動だった訳だよね? それなら目的達成できたって事だからNPCの暴動は止めて貰って大丈夫だよ。バハーム達には連絡取れる?」


「あ……いや、実はそのぅ……」


 何やらベルフェの歯切れが悪く、視線を合わせようとしない。これはあれだよ、絶対何かトラブルが起きた時の反応だよ。


「何か問題でも起きたの?」


 ガブも俺と同じ事を思ったらしく質問してくれた。それで観念したのかベルフェは重い口を開く。


「街中でサンバを踊ってるNPCはすぐに止められるんだけど、問題は作業用ロボットの方でさ。ロボットの操縦士を操って暴動を起こしたんだけど、その人数は二十人ぐらいだったハズなんだ。でも、今はざっと五十機近くの作業用ロボが暴走してる。それで訳が分かんなくなってて皆でそれを抑えるのに必死になってたりして。あはは……はは……」


「それって……」


 ガブが俺を方を見る。その視線を受け『ネオ出島』内のマップを表示し管理者権限で島内のバグの反応を確認すると驚いた。

 島のあちこちでバグの反応がある。一つ一つは小規模ではあるもののかなりの数だ。そして島の沿岸部で一際大きいバグ反応がある。


「セシリー、この大きなバグ反応のある場所の映像出せるか?」


『モチのロンデス。映像出しマス』


 目の前に該当エリアの映像が表示されると空間を裂くように黒くて巨大なゲートが発生していた。そこから一機また一機と作業用ロボットが出てくる。


「バグの影響で作業用ロボットを無限増殖させるゲートが出現している。これを壊さないと騒動は終わらないだろうな」


『そのようデスネ。ではとっとと行って、ちゃちゃっと終わらせバーで飲みまショウ』


「ベル様も手伝うよ!」


 意見がまとまったので<コフィンキャリアー>に向かおうとするとガブが俯き青ざめているのに気が付いた。


「どうした、ガブ?」


「こんな滅茶苦茶な状況になったのって私のせいですよね? 私が好き勝手やったから……」


「それは無いよ。バグがこれ程の規模になるには処理を一日放置するなりしないと。今回は明らかにイレギュラーなケースだよ」


「でも……」


 完全に自分の責任だと思い込んでるな。そうではないと言ってもこの状態では簡単に納得しないだろう。

 俯き泣きそうになっているガブの頭に軽く手を添え撫でる。子供をあやすみたいにゆっくり優しく。すると彼女が徐々に顔を上げ俺を見上げる。


「怒ってないんですか? 私がワンユウさんのお仕事の邪魔したからこうなったのに……」


「あー、もう! 俺は怒ってないし、これはガブのせいじゃないって言ってるでしょうが!」


 早々にあやすのは止めて、ちょっと勢いよく彼女の髪をわしゃわしゃと撫でる。


「ふぁっ!?」


「仮にこの事態がお前の行動で起こった事だとしても、それをどうにかするのが俺の仕事なの! だから安心して思うままにGTRを楽しみなさい。それでも納得がいかないっていうのなら、ゲートを壊すのを手伝ってくれ」


「は……はい! 粉骨砕身の覚悟で頑張ります!!」


「そこまで覚悟決めなくてもいいからね。これゲームだから! 真剣なのは良いけど命賭けんな!」


 どうやらガブは持ち直したみたいだ。一時はどうなるかと思ったが……何かベルフェとセシリーが二人でニヤニヤしながらこっちを見ている。


「ちょっと今の見ましたー? 泣いてる女性の髪を撫でて泣き止ませるとか、少女漫画のワンシーンみたーい」


『この間まで童貞だったクセにやるジャーン。超ウケルー、この間まで童貞だったクセニー』


「……おい、お前等いい加減にしなさいよ。いつまでもダベってる余裕は無いからね。ゲートはここから島の反対側にある。街のど真ん中を突っ切って最短ルートで向かうぞ」


『私のボケはスルーデスカ!? 童貞二回も言ったのにスルーするなんてツッコミの腕が落ちましたネェ!!』


「……この件が片付いた時にお前に飲ませる酒が決まったよ。そこらへんで適当に購入した料理酒な」


『ヘ……? や……ヤダヤダヤダヤダーーーーーーー!! この乾きを潤す至極の一杯が料理酒だなんて絶対ヤダーーーーーーーーー!!! せめて発泡酒にシテーーーーーー!』


「そう思うのなら自分の仕事を全うしろ。その働き次第では発泡酒でもビールでも大吟醸でも、何でも好きな物を買ってやる」


『ダイ……ギン……ジョウ? それ嘘吐いてないですヨネ!? 男の言葉に二言はネーですヨネ?』


「あー、でも私は野郎じゃなくて女性なんで確約は出来ないかなー?」


『魂は男ダロッ!!! あ、いやそのごめんなサイ。ナマ言ってすみませんデシタ。このセシリー・ハルパー、粉骨砕身の覚悟で任務に当たらせて頂きたいと思いマス!!』


「セシリー先輩って真面目でクールなイメージだったけど、こんなおもしれー女だったんだ……」


 今までの配信で築いてきたセシリーのイメージがガラガラと音を立てて崩れていくのを感じているのだろう。

 関わりのあったガブは多少慣れてきたがベルフェはショックを受けている。俺も通った道だ。


「今後セシリーについては酒カスだと思ってくれれば問題ない。それじゃ出発しよう」


『ところがぎっちょん、こちらに接近する反応多数! バグで増殖した作業用ロボデス!』


 大吟醸に釣られてかセシリーは気合いを入れて報告してくる。島の中心側から何機ものロボットがゆっくり近づいてくるのが見えた。さて、どうやって進もうか。

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