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第130配信 GTR 2日目 プリズンブレイク

 監獄のシアタールームにてポップコーンを頬張りながらぶいなろっ!!のライブ動画を観て楽しむ俺とセシリー。

 こんな快適な環境であれば四時間なんて時間はあっという間に溶けるのは必至。ただしそれをやるとガブリエールの愛の監獄にて監禁されるのは必至。だから俺、何が何でも逃げなきゃいけない必死。


「セシリー、そのキャラメル味ちょっとちょうだい」


『でしたらそっちの塩味のを少しクダサイ。等価交換デス』


 それぞれのポップコーンを交換し味変してからジュースで流し込む。この感動をVRゲームで味わえるなんて良い時代になったもんだ。


『ところでワンユウ様、こんなにのんびりしていて大丈夫なのですか? 脳内ピンク発情天使が帰って来た時があなたの終わりの瞬間なのデスヨ』


「俺がぶいなろっ!!のライブ映像を観たいが為にシアタールームに来たとでも思っているのかい?」


『違うのデスカ?』


「ここなら人目を気にせず作戦会議が出来るからな。それにざっと見たところ、ここに記録されているライブ動画のデータなら全部うちにあるし、何なら何度も視聴してます~。今から五秒後にルーシーがクルッと回った瞬間に少しだけよろめくから見てな」


『エ……? アッ! 本当だ、ほんの少し動きがブレてすぐに持ち直して……って、キモッ!! その無駄な記憶力、もっと別の使い道があるでショウヨ! 舐め回すように隅から隅までライバーの動きを観察するなんてキモスギルッ!!』


「二回もキモッて言った! 親父にもキモイッて言われたこと無いのに!!」


『父親に気持ち悪がられる息子の構図なんてそうそう見たことネーヨ! ――で、何か策があると考えて良いのでショウカ?』


 映像を観ながらセシリーにだけ聞こえる声量で作戦を伝えると彼女はニヤリと笑みを浮かべる。この瞬間、俺は自分が恥ずかしい目に遭う事を覚悟した。

 出来ればこの方法は使いたくなかったが、他に策が浮かばなかったのでやるしかない。


 シアタールームを後にし他の囚人に見えない端っこに移動するとセシリーに服を出して貰い着替える。何やかんやでこいつはGTRの神みたいな存在なので自由に衣類を出す事など造作も無いのだ。

 着替えは一瞬で終わり、その一瞬で後悔もした。あまりにもお粗末すぎる。――そう俺は今、この監獄の番人である警官の衣装セクシーボンテージを身に纏っていた。

 スタイル抜群の人であればその名の通りめっちゃセクスィーであるのに対し、このアバターの様な絶壁さんが着ると悲しい感じになる。エルルがそうであったように。


「分かってはいたが、こうまでブルーな気分になるとは思わなかったよ。羞恥プレイじゃん、こんなの」


『イヒャヒャヒャ! 似合って……ゲフンゲフン! しゅんごく似合ってますよぉ、ワンユウさ……アヒャヒャヒャ!! 馬子にも衣装という言葉はこういうのを言うんデスネ。ネカマだけでは飽き足らず、SM嬢にも挑戦するとは……おみそれしやシタッ』


 腹が立つよりも恥ずかしさの方が強くて怒る気にもなれない。なんか股の部分が変な感じだ。普段ならそこにあるものが存在せず、妙に生地が食い込んでくる。


「少しだけ股のところの食い込みを加減してくれない?」


『却下デス。そういう甘えが相手に気づかれるポイントになったりするのデスヨ。ヘヘ、良い眺めダゼ。後でゲーム開発部の皆に映像記録見せタロ』


「やめてー!」


『ハイハイ、それではとっとと出発オ〇ンコ~』


 羞恥心と共に監獄の出入り口を目指して歩きだす。おどおどしていたら怪しまれる。背筋を伸ばし堂々と歩……歩く……歩かないといけないんだけど、その度にどんどん食い込んでくる気がする。

 え……もしかして世の女性は皆、こんな感覚と日々戦っているの? だとしたらメンタル凄いよ。股が食い込みで大変な目に遭ってるのに何食わぬ顔して生活してるなんて、もはや女優だよ。


 股の違和感と戦いながらも囚人やSM警官に怪しまれる事無く進んでいく。NPCの警官であれば難なく欺けると分かったが、面識のあるホロウ、エルル、シャルルと遭遇したらアウトだ。

 周囲に気を配りあの三名と鉢合わせしないようにしつつ平静を装って出口に向かって移動する。神経をすり減らす緊張感で冷や汗が出てくる。


 ここに来た時は階段を下り、地獄の監獄(ヘルプリズン)を通ってきたが通常の監獄には地上への直通エレベーターがあり、SM警官や刑期を終えた囚人はそれを使って移動している。

 無駄にそこら辺をうろうろしていた訳じゃない。こういう時の為に利用できそうな設備は確認済みだ。

 

 運良く誰も乗り込んでいないエレベーターがあった。急がず焦らず欲しがらず自然な風を装って中に入りドアを閉めるとエレベーターは地上に向かって上がり始めた。

 

「よし! まずは第一関門突破だ。この上はまだ出島署の敷地内、監獄よりも多くの警官が配置されている。セシリー、エレベーターを降りたらすぐにミニスカポリスの衣装を用意してくれ。ここからが本番だ」


『了解しまシタ。――それはそうと、さっき出発オ〇ンコ~と言った時なのですが、〇に入る文字は『シ』なので悪しからズ。あそこに『マ』とか『チ』とかが真っ先に思い浮かんだ人はSUKEBEに育っているので、そんな自分を潔く認めマショウ。美人AI受付嬢との約束ダゾ』


 第四の壁を平然と破る酒カスAI。自由なこいつを止められる人物は恐らく存在しない。


「間もなく地上に到着する。ホロウ達に会わなければいいんだが……」


 緊張で鼓動が凄い中ドアが開いた。正面には誰もいない。安堵のため息を吐くとエレベーターを降りて物陰に隠れる。


「セシリー、頼む」


『テク〇クマヤコン、テクマクマ〇コン、ミニスカポリスのお姉さんにナ~レ~』


 魔法少女の呪文よろしく俺は一瞬でセクシーボンテージからミニスカポリスの衣装へと変身を果たした。――が、相変わらず股の食い込みは改善しない。何故だっ!?


『ショーツのデザインはセクシーなものにしておきマシタ。Tバック程じゃないけどエグいヤツデス』


「この野郎、いつもいらん事ばかりしおって……!」


『私は野郎ではありません、メスデス。……む、誰か来マス』


 物陰に潜みやり過ごそうとしていると、何処からか和やかな音楽が聞こえてきた。昔何かの刑事ドラマで聴いた事があるような……。


 チャラッチャラッチャッチャラッチャラー、チャラッチャラッチャッチャラッチャラー――。


 音楽と共に人の話し声が聞こえてきた。声は男性、恐らく二人……いや、三人か? 何かこの声も最近聴いた事がある気がする。さっきから既視感の連続で変な感じだ。


「いやー、それにしてもガブリエール君の検挙率は凄いねー。これ、もしかしたら本店よりも優秀な成績収めちゃうんじゃないの?」


「そうなったら署長の評価も益々うなぎ登りですな! アッハッハッハッハ」


「さすがです署長。よっ! 出島署の星!!」


「君たちそんな事言っても何も出ないよー? それに頑張っているのは現場のガブリエール君たちなんだしさー。ところで今夜はシースーにでも行く? もちろん回らない方の店。奢っちゃうよー」


「「ゴチになりまーす!」」


 景気の良い話をする男性三人の声が近くなってくる。物陰に隠れていると中年ぐらいの眼鏡を掛けた小太りの男性三人が視界に入ってきた。

 その瞬間、驚き息を呑んだ。何故ならその三人組はよく見知った人物だったから。俺がGTRにログインするのをサポートしてくれている頼もしい職場の人間だったからだ。


「な……安藤さん、本田さん、それに丹波さん? これは一体どうなって……まさか三人もログインしているのか?」


『分析完了シマシタ。あの三人組はNPC――出島署の署長、副署長、刑事課課長デスネ』


「それが何でまた安藤さん達そっくりの外見をしてるんだ? まさかバグ――」


『――ではなく、あのアン・ポン・タンは密かに自分にクリソツのNPCを作成していたみたいデス。それがそこで回らない寿司屋に行こうとしているスリーアミーゴスみたいデスネ。ちなみにゲーム開発部の他の連中も同じことシテマス。GTR内のそこら辺に見知った顔がごろごろ居ると思いマスヨ』


 あの連中は緊張するからとか言ってGTRのダイブを拒否したのに裏でそんな楽しみ方をしていたのか。

 まあいい、この際害がある訳ではないので放っておこう。三人が見えなくなるまで身を隠し安全が確保できたら先を進む事にしよう。

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