第129配信 GTR 2日目 ワンユウゲットだぜ
壮絶な殴り合いの末に和解した俺とセシリー、そして怪盗キャバクラチームとギャングチームの面々は刑期が終わるまでの間、トレーニングマシーンでトレーニングしたりだべったりジュースを飲んだりして時間を潰していた。
そして待ちに待ったシャバに戻る時間がやって来た。エルルとシャルルが俺たちの所へ来て刑期が終わった事を告げる。
「それじゃ皆、外に出る時間になったからここにぶち込まれる前の服に着替えて」
「皆さん模範的な囚人だったので最短時間での服役でした。二度とここに戻って来るんじゃねーですよ」
「そう言って貰えるのはありがたいニャ。でも我々ギャングは窃盗してこそギャングなのニャア。また戻ってくるさ」
「サターナ先輩たちギャングは初日に五回もここに来たからね。次は上手く立ち回って捕まらないようにね」
ギャングの窃盗が成功することを祈る警官ってなんなん? アンバー姉妹はギャング適正の方が高い気がするなぁ。
エルルが各メンバーに服を渡していたので自分の分を貰おうとするが用意されていない。何だか嫌な予感がする。
「俺の服はいずこに?」
「ワンユウ君とセシリーは、あと四時間は服役だよ」
「今なんて?」
「ワンユウさんとセシリー先輩の刑期は残り四時間です。それまでは引き続き監獄で過ごして頂きます」
「四時間!? やっぱり聞き間違えじゃなかった。そんな長時間服役するなんておかしいじゃないか!」
この異常な監獄ロング滞在を聞いて面食らう。自転車窃盗しただけでこんな扱いになるなんてあり得ないぞ。
そんな俺の心情を汲んでくれたのか、シャルルがメモらしきものを取り出し読み始める。
「ワンユウ&セシリーの二名の罪状ですが、卑猥発言罪、ドM警官への言葉責めやりすぎ罪、キャバ嬢三名へのオホ声誘発罪が挙げられます。以上から今回の拘束時間を割り出しました」
「……自転車窃盗は?」
「プラス五分の拘束時間追加です」
『なに余計なこと言ってんですか、このバカチン!』
「だって! もともとは自転車窃盗でサツに捕まったのに納得いかないじゃないか。それよりもキャバ嬢三人に関してはガブ達がやったのであって――」
「ハイボルトスティックを<パピヨンロボ>の穴にぶち込んで電気流せという作戦を立てたのは?」
「――俺です。ごめんなさい」
「これで決定だね。あと四時間ここで食っちゃ寝生活してるだけでシャバに戻れるんだから問題ないでしょ。それと気が付いていないようだけど、ここにはシアタールームがあってぶいなろっ!!のライブ映像とか観放題だから退屈しないと思うよ」
食事もドリンクバーもあってシアタールーム使いたい放題って、ここは監獄ではなくて天国なのでは? とにかく、ここはライブ映像を観ながら今後の身の振り方を考えよう。
ジュースとポップコーンを用意しシアタールームに行く準備をしているとギャング衣装に着替えたルーシーが心配そうな表情でこっちにやって来た。
「ワンユウ、その……大丈夫?」
「心配ないよ。サブスクみたいな感じだろ」
「シアタールームの使い方を心配してるんじゃないの! あと四時間も監獄にいたらガブが愛の監獄を用意して、そこに監禁されるだろうからそれを心配してるのよ」
「あ……!」
ヤバい、そうだった! 何か忘れてると思ったらガブが愛の監獄を購入しようとしてたんだった。
ハッとして周囲を見回すと増えている。明らかに監獄にいる女性囚人の人数が増えている。女性だけでこれなら地獄の監獄にいるであろう男性囚人も結構増えているハズ。
そして彼等を監獄にぶち込んでいるのは恐らくガブリエールだ。
「そういえばどうしてルーシーが愛の監獄の事を知ってるんだ? しかもガブがそこに俺を監禁しようとしてる事も……」
「実はGTR二日目開始前にガブから提案を持ちかけられていたの。ワンユウには愛の監獄で過ごして貰おうって。愛の監獄の所有権をガブとルーで共有すれば自由に会いに行けるからって。ワンユウの仕事であるGTR内のバグ処理はルー達で代行すれば問題ないだろうって話をしていたの」
情報を整理しよう。ガブリエールとルーシーは愛の監獄へ俺を監禁しようとしている。二人は俺のGTRでの仕事内容を正確に把握している。しかもその仕事を二人が代わりにやろうとしている。
引っかかる部分が色々と出てきたが一つだけハッキリしている事がある。
「セシリー、二人に俺の仕事内容を話したな」
『二日目開始前にお二人がコンタクトを取ってきたので答えられる範囲については質問にお答えしまシタ。ただ、こちらのバグ処理の仕事に関しては既にお二人はご存じでシタ』
「二人が既に知っていただって?」
ルーシーに視線を向けると彼女は妖しげな笑みを浮かべて俺を見つめていた。それは配信で彼女がよく見せるヤンデレ風の笑みだった。何かに魅入られた様に上気した顔でルーシーは話し始める。
「昨日GTRが始まって間もなくガブから連絡があったの。あなたが女性アバターの姿でログインしているって。それで昨日はギャングの活動をしながらあなたの仕事を見守っていたの」
『お分かり頂けただろうカ? つまり我々は昨日、GTRでせっせとバグ処理している様子をガブリエール様とルーシー様に視姦……じゃなかった、見守られていたのデスヨ。しかも私に察知されない距離を保ちつつ、自分たちの配信に我々が映り込まないように気をつけながらデス。お二人からその事実を聞いて確認したら、約十分おきに彼女たちに監視されている状態デシタ』
「嘘だろ……」
ルーシーのヤンデレ笑みは益々ヒートアップし、頬は紅潮してるし呼吸は荒いし何かもう発情してるだろこれ!
「ワンユウの仕事の邪魔はしたくなかったから初日は不必要に接触しなかったんだけどね。でも、それも我慢の限界。そんな中身ワンユウで外見美少女の姿見たら興奮しちゃうよぉ、アハハ……ハァ……ン」
『忍耐力があまりにも低くて草』
ルーシーはバイ――つまり男も女もイケてしまう。そんな彼女からしたらバ美肉状態の俺は興味深い存在なのかもしれない。
「話は戻るけどルーシーは言動からして愛の監獄には反対と考えて良いのか?」
「そうだね、その辺りはガブとルーじゃ考え方に違いがあるかなぁ。ガブはワンユウを閉じ込めて近くに置いておきたい。ルーは街中で活動しているワンユウをこの手で捕獲して楽しみたい」
「捕獲て……俺はポケ〇ンではないんですが」
『さしずめ愛の監獄はモン〇ターボールと言ったところでショウカ。積極的にバトルを挑みポ〇モンを捕獲しようとするルーシー様はロケ〇ト団ならぬギャング適正がありまくりんぐデスネ』
「そういう事だからワンユウはガブが愛の監獄を用意するより前にここから出る作戦を考えた方が良いよ。でも脱出が不可能そうでも大丈夫。その時はルーが助けに来るからねぇ」
ルーシーは妖しい笑みを浮かべると皆と一緒にシャバへと戻って行った。さっきまで賑やかだった雰囲気は一転してセシリーと二人だけ残された事で寂しさを感じてしまう。
いや、これでいいんだ。俺はバグ処理をする裏方仕事を生業としている。必要以上にぶいなろっ!!メンバーと近づく事はしない方が良い。
『ワンユウ様!』
「何だい?」
『私はポップコーンはキャラメル味の方が良いデス』
「時々お前のマイペースな性格が羨ましくなるよ」