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第125配信 GTR 2日目 地獄の監獄

 ホロウに間一髪助けられた俺は彼女に連れられ留置所に向かって階段を下りていた。

 ガブリエールは「悪い奴をたくさん捕まえて監獄にぶち込んで、お金を貯めたらワンユウさんを愛の監獄(ラブプリズン)に移します。それまで待っていてくださいね」と爽やかな笑顔でこの上なく物騒な事を言って去って行った。

 

 ――さて、ここで気になるワードが出てきた。愛の監獄ってなんぞや? そんなものGTRの仕様にあったか? 

 少なくともこれまでに行われた他箱のGTRではそんなん見たこと無いし、今回のぶいなろっ!!サーバーにも設定されてはいない。

 

「ホロウさん、質問しても良いですか?」


「ホロウで結構だ。敬語も必要ない。――それで何か気になった事でも?」


「ガブが言っていた愛の監獄ってなに? 初めて聞いたんだけど」


「ああ、それか。愛の監獄は特定の囚人を隔離可能な小規模の監獄だ。警察官のみが利用可能でその施設の購入には大金が必要とされる。愛の監獄に収監された囚人は自分の意思でそこから脱出する事は不可能、監獄の主である警察官個人に隔離される形となる。ガブリエールはお前をそこに閉じ込めるつもりのようだな。監獄関連の施設は一週間ほど前にゲーム開発部に依頼して秘密裏に実装して貰った。だから知らないのだろう」


「そんなメチャクチャな話ある?」


『あり得る話デス。ゲーム開発部は一枚岩ではありまセン。今回のぶいなろっ!!サーバーにおいて自分の推しがいるグループが有利になるように裏で動いている者が多数見受けられマス。我々が認知していない仕様が秘密裏に実装されているという事でショウネ』


「くっ……皆、ぶいなろっ!!の熱狂的なリスナーばかりだからな。あの連中なら確かにやる! ここ一週間は結構過密スケジュールだったのに何時いつそんなプログラム仕込んだんだ? 恐ろしい連中だ」


『そのお陰でシステムに負荷が掛かってバグが発生する確率が高くなっていマス。自分たちの仕事量が増えても推しに加担するとは味方ながら恐ろしいスタッフ達デス』


「全くだ。ガブが愛の監獄を手に入れたら俺はそこにぶち込まれて逃げられなくなる。そうなったら俺は終わりだ」


 現在GTRをサポートしているゲーム開発部のスタッフ集団は頼もしい味方でありながら状況を混乱させる敵でもあるという事実が発覚した。後でしばき倒そう。

 セシリーが俺の肩に乗るとホロウが俺たちをジッと見つめている事に気が付く。


「……以前、三期生でルーシーをスラッシュ&マジックに連れて行った際にセシリーと行動を共にしていたスタッフが助けてくれたが、やはりお前がそうだったか。あれからすぐにルーシーは元気を取り戻しワンユウ君と付き合うようになったと報告を受けたから驚いたよ。あれから数ヶ月が経過したがガブリエールもルーシーも元気に配信を続けているので安心している。お前には感謝しなければな」


「そんな感謝だなんて。世間的に俺がやっているのは二股だしなぁ……。とにかく俺は二人が幸せだと思えるように頑張る。それだけだよ」


『ワンユウ様からそんな鼻が曲がるようなクサい台詞が出てくるとは思いませんデシタ。それとこの会話はホロウの配信に垂れ流し状態なのでヨウツベにて拡散待った無しデス。「それだけだ」だってヨ、ンハハハハハハハハ!!』


「アーーーーーーーーーー!! そうだった、これ配信中だった。アーカイブに残さんといてぇぇぇぇぇぇ!!」


「それは不可能だな。――そろそろ到着するぞ」


 絶望しながら階段を下りた先には巨大な扉があった。ホロウがパスコードを打ち込むと扉が開き赤い光が差し込んでくる。


「なん……だと!?」


「ようこそ、地獄の監獄(ヘルプリズン)へ」


 それは衝撃的な光景だった。赤い光の正体は目の前に広がる広間の至る所に設置された松明の光だ。

 その光が照らすのは広大な空間とその中にいる大勢の人々だった。少なくとも数十人は居る。

 どうやら男ばかりのようだが、全員ボロボロの薄衣を着て何やら大量の土砂を運んだり、巨大な柱に取り付けられた棒を押して柱を回転させたりしている。

 

「なん……だ、これは……古代ローマあたりの映画で観たことのある光景だ。地下に収監された奴隷が酷い目に遭わされる、そんな感じの……。GTRは宇宙を航行する超巨大移民船の中の話だよね? この施設はその設定を完全無視してる。何でまたこんな訳の分からない施設をつくったんだ!!」


 混乱していると奴隷……いや囚人か。土を運んでいた中年男性が倒れて動けなくなっていた。そこにホロウと同じセクシーボンテージ姿の褐色エルフが近づいていくのが見える。


「あれはまさか四期生の双子エルフの妹シャルル・アンバーか? 何をする気だ」


「よく見ておくといいよ、ワンユウ君。彼等は皆、ギャング等の組織に所属したり窃盗を繰り返した罪人だ。その報いをこの地獄の監獄で受けている」


 シャルルは倒れた囚人の前で仁王立ちになると容赦なく鞭を打ち始める。見ていて痛々しくなる光景だ。鞭の音と共にシャルルの声が聞こえてくる。


「こんな小娘に鞭で打たれて動けないなんて情けない男! ねぇ、今どんな気持ち? 悪い事をして連れてこられた場所でこき使われて小娘に鞭で打たれてどんな気持ち?」


「ひぃぃぃぃぃぃぃ! お許しをーーーーー、エルル様――――――!!」


「わたしはシャルルだっちゅーの! 間違えるんじゃないわよ。それとそんな穢らわしい口でエルお姉ちゃんの名を口にするんじゃない!! 罰として追加で五十回の鞭打ちの刑に処す。良いわね!!」


「ははぁーーーーーーー!」


 中年男性は土下座になってシャルルの鞭を無抵抗で受けていく。こんな非道な事が地下で行われていたなんて知らなかった。すぐに止めさせないと……おや?

 違和感を覚え双眼鏡を使って鞭で打たれている男性の顔をよーく見てみると彼は笑っていた。何かこの上なく幸せそうな顔で笑っていた。双眼鏡を外し天を仰いだ後にホロウに訊ねる。


「……あの鞭って衝撃音は凄いけど打たれても大して痛くなかったりする?」


「そんなの当たり前じゃないか。怪我をしたらどうするんだ」


「や……ま、そうなんだけど、そうなんだけどね? えーと、君たちはここで何してるん?」


 何となく答えは分かっていたが、もしもその通りだと余りにもしょうも無い理由なので一応訊ねてみる。頼む、この地獄の監獄が意味のある場所であってくれ!


「この場所は囚人を精神的に徹底的に追い詰める場所だ。彼等が運んでいる大量の土砂は交互に移動させているだけ。あの巨大な柱もただ回転させているだけ――つまり、あの過酷な労働には何の意味も無い。無価値で過酷な労働を強いる事によって彼等の存在意義を揺るがし追い詰めていく」


「あの労働って何の意味も無いのか。しかも彼等はそれを承知で労働させられていると。――で、何でまたそんな意味の無い事をさせて追い詰めるの?」


 俺とホロウに気が付いたシャルルがこっちにやって来た。別方向からは同じくセクシーボンテージ姿のエルルが歩ってくる。あの衣装はナイスバディなホロウとシャルルが着ると非常にセクシーなのだが、お子様体型のエルルが着ていると違和感しかない。

 その事実に本人も気づいているらしく表情が死んでいるのが分かる。アンバー姉妹が合流するとホロウは彼女たちのもとへ歩きながら得意げな表情で言った。


「こうは思わないか? 自分たちのやっている過酷な労働は無意味だと分かっているのに無理矢理強いられ、自由に休むことも許されず、疲れて動けなくなったら鞭で打たれて罵られる。それを繰り返された者は反骨精神を芽生えさせ、自分たちを苦しめた権力者に牙を剝く!」


「その通り。シャル達はホロウ先輩の計画を成功させるために動いているのよ。そうだよねぇ、エルお姉ちゃん!」


「まあ、そうだね。そうして反逆を起こさせて大規模ロボバトルをするのが目的だと聴いている。エル達は思いっきりロボットで戦いたいからホロウ先輩に協力しているんだ」


「反逆を起こさせてロボバトル……ねぇ。本当に反逆なんて起きるのか疑わしいもんだな」


「何だと? 聞き捨てならないな。その根拠を教えて欲しいものだな」


 ホロウが納得いかないと言うので指を差すとその方向に皆が視線を向ける。そこにはさっきシャルルに鞭打たれた男が軽快な動きで土砂を運んでいる姿があった。

 その光景に驚いた三人は顔を見合わせると答えを求めるように今度は俺の方を見るのであった。

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