第123配信 GTR 2日目序章 そのネタはもうやったんだよ!!
GTR初日が終わった。メンテナンスが開始されログアウトすると俺は色々とんでもない事をしてしまったと悩んでいた。
ぶいなろっ!!メンバーと必要以上に接触した挙げ句に最後は警察側に加担して怪盗キャバ嬢たちにオホ声を上げさせてしまった。直接手を下してはいないにしても作戦を考えたのは俺だ。
そんでもって当初はNPCとしてやり過ごすつもりが、あっさりファイプロのスタッフだとバレてその正体がワンユウだとバレて……二重に身バレした結果、この後どうなるのか想像がつかない。
「安藤さん、俺どうしたらいいんでしょうか? このまま俺が関わるとGTRの運営に悪影響が出たりしませんかね?」
「そんな事ないでしょ。コメント欄を見ていた感じだともの凄く盛り上がって皆楽しそうだったよ。それよりもワンユウ君は長時間のダイブをしたんだから早くご飯食べてお風呂入って寝なさい。今はそれが君の仕事だからね」
「分かりました。後はよろしくお願いします」
GTR開催中はゲームへダイブし現場で直接デバッグをするのが俺の仕事。
安藤さん達を始めとしたゲーム開発部の皆は交代でGTRのシステム管理とゲーム全体のデバッグをしている。
システムメンテナンスは四時から十六時の間に行い、十六時になったらGTR二日目の開始だ。
俺はしっかり休息を取って体調を整え二日目開始に臨む。この流れを最終日まで繰り返す。一日目は特に大きなバグは見られなかったがGTR開催中に何が起こるか分からない。
もしかしたら俺たちの予想を超える様な出来事が……いや、とにかく今は余計な事を考えず休もう。
陽菜や月に連絡をしようかとも思ったが二人共寝ているかも知れないので昼になってからAINEにメッセージを入れる事にし、オフィスに設けられた休憩スペースでカップ麺を食べてシャワーをさっと浴びて簡易ベッドに横になる。
一日目から濃い内容の連続だった。これで十日間身体が持つのだろうか? 二日目からはぶいなろっ!!メンバーからは距離を取って見守りつつバグ処理をしていこう。そんな事を考えていたらいつの間にか眠りに落ちていた。
ピピピ……ピピピ……ピピピ……!
「ん……んあ……?」
近くで何やら音が聞こえまどろみの中スマホに手を伸ばしアラームを解除する。しかし、アラーム音は鳴り止まない。……何で?
『ピピピ……ピピピ……もう、何時まで寝てるのヨ! 学校に遅刻しちゃうゾ! 早く起きロー!!』
「セシリー……朝から何をやっている?」
『世の中の男性の願望の一つ、幼馴染みの声で起こされるというシチュエーションをやってみまシタ。ちなみに今は朝ではなくお昼デス。早く起きて、この寝・ぼ・ス・ケ』
起床時からどっと疲れた気がした。無言で簡易ベッドから起き上がって時計を確認すると正午を過ぎていた。
オフィスの自分の席に向かうと本田さんと丹波さんがシステムチェックを行っていた。
「おはようございます、本田さん、丹波さん。あー、もう昼だからおはようは違うか」
「あはは、おはようワンユウ君。GTR一日目から大変だったね」
「おはようございます。GTRぶいなろっ!!サーバーの反響が凄い事になっていますよ」
丹波さんに言われてヨウツベを確認してみるとGTRアーカイブの視聴回数が凄い事になっていた。
切り抜き動画も多数作られていてお祭り騒ぎだ。過去に行われた他箱のGTRと比べても遜色ない盛り上がりだ。しかも一日目が終わって半日経っていない状況でこれなのでこれからもっと視聴回数は増えていくハズ。
「凄い……予想以上の賑わいになってますね。メンバーの誰のアーカイブが一番人気なんだろう?」
「それに関しては警察チームとキャバクラ怪盗チームが人気だけど、切り抜き動画の数は別の人物を扱ったものが多いんだよね」
「それってどういう……?」
「説明するよりも実際に見て貰った方がいいでしょうね」
オフィスの大型モニターに、ある切り抜き動画のサムネイルが表示された。それを見た瞬間、俺は驚愕した。
「某有名リスナー遂にVTuberデビュー? ボケだらけのぶいなろっ!!GTRで響き渡るツッコミの嵐……な……これってまさか……」
『そう、そのまさかデス。VTuberデビューおめでとうございマス、ワンユウ様』
「おめでとう」
「めでたいなぁ」
「おめでとさん」
「グワッグワッ」
『乳にありがとう、尻にさようなら、そして全てのリスナーにおめでトウ』
「ありがと……って、このエヴ〇最終回のありがとうネタは既にやったんだよ!!」
『エ〇ァのパロディはネタが出がらしになるまでコスり倒すのがお約束なんデスヨ。あれどんだけコラボやってると思ってるんデスカ! そもそもは九十年代半ばに放送された作品なのに三十年近く経った今もコラボやってんデスヨ。――それよりも私が言った乳にサンクス尻にバイバイへのツッコミがまだなんデスケドー! 人気者になって早速手抜きですかそうデスカ』
「俺だって迷ったよ! でもツッコむ時に台詞が長いとクドくなるから二回に分けてツッコもうとしたんだよ。ツッコミにはツッコミなりの計画性が必要なんだよ!!」
セシリーのボケに付き合っていて思った。このままだと俺の人生の大半は誰かのボケにツッコミを入れて終わってしまうのではないだろうか? 芸人だってそんな生活サイクル送ってねーよ。
話題を変えるためにさっきのサムネイルに再び視線を向けると視聴回数が百万を超えていた。
「――ん? 投稿されてから三時間で百万回再生? 一体何が起きているんだ?」
常識外れの状況に理解が追いつかない。三時間で視聴回数百万超えなんて早々お目にかかれるもんじゃないぞ。
混乱していると切り抜き動画が再生され始まる。最初は盗んだ自転車で移動していた時にガブリエールと遭遇した瞬間から始まった。
その後もぶいなろっ!!メンバー視点で俺と関わった際の映像が流れていく。他人の側から見た俺ってこんな感じなのか。GTR中は女性アバターの姿と声なのに台詞がバリバリ男なので違和感が凄い。
控えめに言って不審者じゃんかよ。恥ずかし過ぎる。
「動画に寄せられたコメントもワンユウ君の活躍が面白かったって書いてあるね。二日目以降もお仕事頑張ってだって。凄い好評じゃないか」
「皆、ワンユウ総帥の活躍を見られて嬉しいんですよ。我々リスナーの代表としてGTRに参加しているみたいなものですからね」
「リスナーの代表……ですか」
『ワンユウ様はご自分の立ち位置で悩みまくる時がありますが、リスナーはそんなこと気にしてはいないと思いマスヨ。むしろ、ここのコメントと同じくワンユウ様を応援している人ばかりデショ。ウジウジ考えていないでGTRを純粋に楽しめば良いんデスヨ。私もGTRを楽しむ為にログイン中に色んなお酒を嗜もうと思いマス』
「そっか……そうだな。うん、この際GTRを最終日までちゃんと楽しんでみるよ。それとセシリー、酒は程々にするからね。キャバクラでは酔った勢いで暴走したからな」
『そう言うと思いましタヨ。ですがログイン中に私の飲酒を止める余裕があなたにあるのか見せて貰いまショウカ』
「……何故にドヤる?」
昨日の味方は今日の敵、そしてその逆も然り。GTR二日目で俺はそれを痛感することになる。