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第115配信 GTR 1日目 お水の花道

「はぁ~い、ウーロン茶が来ましたわよ。オタ子さん、どうぞ~」


「ありがとうございます」


「でも良いんですかぁ? ワタシ達だけお酒を飲んで楽しんじゃってぇ」


「私は車で来てるんでアルコールは飲めないんですよ。飲んだら乗るな、乗るなら飲むなって言うでしょ?」


「アハハ、ま~じめぇ~! オタ子ひゃん、オモロォ~!」


「ネプーチュさん速攻で酔っ払ってますけど、この人本当にこの店のナンバースリーですか? こんな前後不覚に陥って接客できるん?」


「ネプちゃんはこの自然体の接客がウリなんですのよ。酔えば酔うほどトークが冴え渡るみたいな」


「酔拳みたいな感覚でキャバ嬢やってんのこの子!? あの武術は酔いすぎると自滅する弱点あるからね。諸刃もろはの剣だからね」


 メルア姫、セリーヌ、ネプーチュの三人相手に最初は気後れしたが案外対応出来ている。これはあれだ、雑談配信の時のノリだ。

 コメントを打つ代わりに実際声に出してライバーにツッコミ入れている感じ。ならば幾らでもやりようはある。

 彼女たちは一流のエンターテイナーだが、こっちは普段からそんなエンターテイナーやリスナーへのツッコミをマルチタスクでやっている。

 総帥と言う名のフリー素材扱いの経験を活かしてこの場を乗り越えてみせる。


「う……うぷ……気持ち悪くなってきた。吐きそ……うっぷ……」


「早速モロったよこのナンバースリー! 誰かエチケット袋プリーーーーーーーズ!!」


「ワタシ持ってるわよぉ」


 セリーヌがすかさずエチケット袋を使える状態にして手渡してくれる。さすが気配りが出来るエロサキュバス。キャバ嬢の適正値が高い。

 エチケット袋をネプーチュに渡した瞬間、彼女は限界に達した。


「う……おえ……」


 配信画面が切り替わり『ただいま映像が乱れております。回復まで今暫くお待ちください』と表示されていた。

 現場の俺たちの目の前ではネプーチュが地の底から聞こえる様な声を上げながらエチケット袋に吐いていた。

 こういった仕様があるのは知っていたが実際に見るのは初めてだ。さすがぶいなろっ!!メンバー、GTR初日から想定外の事をやってくれる。


 ――数分後。


「ご迷惑をおかけしましたぁ。でもめっちゃスッキリしたぁ。それでは改めて接客再開しまーす! オタ子さん、お仕事って何してるのぉ?」


 一度粗相して復活したネプーチュは酔いが醒めてグイグイ距離を詰めてくる。それがあまりにも自然な感じで話していて心地よい。まるで本物のキャバ嬢みたいだ。……本物のキャバクラには行ったことが無いのに適当言いました。すみません。


「ええっと、ITエンジニアをしています」


「ええっ! ITエンジニア? すごーい尊敬しちゃう。パソコンとか得意なのぉ?」


「多少は。私の周りにはもっとパソコンに詳しい人が沢山いますよ」


「ええーーー、すっごーい! 今度ネプのパソコンを見て欲しいなぁ」


「ずるーい。ワタシのパソコンも見て欲しい。最近調子が悪くってぇー」


「わたくしのもお願いしたいですわ。最近寂しくってー」


「メルア姫のそれパソコンの話じゃないですよね!?」


 くそっ、会話が楽しいーーーーーーーー!! キャバ嬢の露出度の高いドレス姿のメルア姫とセリーヌとネプーチュは見た目からして華やかで三人とも巨乳故に目のやり場に困る。

 こんなセクシー姿の三人と直接会話を楽しめる機会なんて滅多にないぞ。彼女たちのリスナーを差し置いて俺だけこんな美味しい思いをしてしまって良いのだろうか? 彼等の代わりに俺に出来る事は何があるだろう?


「そ、そうだ……スパチャ……スパチャを送らなきゃ! 雑談配信でコメントを拾って貰ってここまで会話が膨れ上がったから最低一万が相場か? いやいや、これは言わばコラボ雑談枠! 三人同時にコメントを弄って貰ってるようなものだからもっと――」


「オタ子さんがさっきからスパチャの計算をしていますわ」


「気持ちだけ受け取っておくから会話を楽しみましょうよ。オタ子さん……おーい、オタ子さーん! ……聞こえてないみたいねぇ」


「凄い集中してるぅ! ネプ達はどうすればいいのぉ?」


「――よし決めた! ドンペリをお願いします。これ以外に私がリスナーに報いる術はない!!」


「「「太っ腹ーーーーーーー!!」」」


 三人のキャバ嬢との会話でテンションが上がった俺は予想通り平静を失いドンペリを頼んだ。

 でも後悔なんてしない。だってこれはお布施みたいなもの。楽しい思い出をくれたライバーに対する感謝の印なのだから。


 間もなくキャバクラのスタッフがドンペリを持ってきてくれた。ふと見ると黒いスーツに網タイツ姿の由緒正しいバニーガールだ。

 白磁の肌に黒いバニースーツ、このコントラストが堪らん。おまけに胸がかなり大きくバニースーツからこぼれ落ちそうになっている。

 視線をバニーガールの胸から上の方に向けると和風な出で立ちの美人さんだった。一瞬誰だか分からなかったがよーく見ると知ってる人だった。


「アマ……テラス?」


「へっ? どちら様ですかぁ? うちの事知っとるの?」


 アマテラスは泣きそうな顔でドンペリを持っていた。それもセクシーなバニーガール姿で……自分の性癖が歪んだ気がした。

 俺の中にいるドSが顔を出そうとするのを何とか抑えて平常心を保つ。


「私はフェンさんとルイーナさんの依頼であなたを連れ戻しに来たんです。一緒に食堂に帰りましょう」


「二人がうちの為に? 嬉しい……うちは見捨てられとらんかったんじゃーーーーー! わーーーーーーん!!」


「あらぁーん、女の子を泣かせるなんてオタ子さんは悪い人なのねぇ」


 助けが来た事で泣き出すアマテラス。その様子を見ていたセリーヌが小悪魔のような笑みを浮かべからかってくる。何処となく目がとろんとしているのはアルコールが入っているからだろうか?


「悪いのはあんたらでしょう! 後輩にこんなエロい……もとい酷い格好をさせるなんて正気じゃないよ、ありがとう。――とにかくアマテラスさんは食堂『亀甲縛り』に連れて帰りますからね」


「あなた、所々で本音がだだ漏れですわよ。それはそれとして、これはあまちゃんの為でもあるのです」


「それはどういう……」


「あまちゃんはキャバ嬢の素質が凄く高いんだよねぇ。食堂の出前専門なんて勿体ない。だからキャバ嬢もやってみようって事になったのぉ。複数の職種に就くのはルール違反じゃないしぃ、実際バニーガール姿も素敵でしょ? 問題なくない?」


 ネプーチュお勧めのアマテラスバニーガールをまじまじと見てみる。うん、めっちゃエロくて素晴らしい。食堂の出前だけをやらせるのは確かに勿体なさすぎる。


「それじゃこれって、時間になったら食堂に帰って良いって事ですか?」


「その通りに決まってるじゃない。メインはあくまで食堂の方で時間がある時にキャバ嬢として働いて貰おうって事になったのよ。今回はバニーガールをお試しでやって貰ってるのぉ」


「なるほど……アマテラスさん、ドンペリありがとうございます。私はお酒は飲まないので折角だし皆と一緒に飲んでください」


「で、でも……うち、出前用の車で来てるけぇ、飲酒運転になってしまう」


「私が帰りに運転して食堂に送るんで大丈夫です」


「それじゃあ、お言葉に甘えてちいと飲もうかな……」


 結局アマテラスバニーガールの件は平和な内容だった。はい、これにて依頼達成! セリーヌがドンペリを開栓し皆のグラスに注いでくれたので俺はジンジャーエールを注文した。


「改めましてかんぱ~い!」


 いやー、キャバクラって楽しいわ。親父たちが熱中するわけだ。

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