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神童、やめられますか?  作者: 勝花
第一章
9/32

9 ジキラゴ(1)

 街のはずれまで出て、二人は学校に向かう道とは別の方向に進んだ。


 歩くにつれて、あたりはどんどん暗くなってきた。レイは黙って歩いたが、心の中では後悔の気持ちが強まっていた。帰ったら、アンリ先生にたっぷりと怒られるだろう。学校ではうそもついている。悪いことばかりをしていた。


 行く先に幽霊屋敷が見える。ボロボロになった建物は見るからに気味が悪かった。庭が手入れされていないせいで、枝葉が壁に張りついていた。


「いいか、なにか見つけるまでは出ちゃダメだからな」


 勇もうとするフィルだが、声は震えていた。レイはうなずくと、杖を上げた。


「【あたたかな光(ホワイツ)】」


 杖先から明かりの光球を出す。フィルも慌てて同じ魔術を唱えると、引け腰で屋敷に入っていった。


 屋敷の中は、真っ暗でほこりっぽかった。二人は光球の明かりを頼りに無人の廊下を進んだ。


 レイは不気味な雰囲気にたまらず口を開いた。


「屋根が落ちたりしないかな」


「そんなにもろいなら、とっくに崩れてるだろ――見ろ!」


 フィルが声をあげて床を指差した。


「足跡だ。おれたち以外に誰かいるぞ」


 見ると、ほこりまみれの床に足跡がいくつもあった。


「一人じゃないな。二人……いや、三人はいるな」


「なんでこんなところに?」


「さあな。おれの見たところ、足跡はまだ新しい。悪魔退治に来たのかもな」


 本当に? レイは足跡をじっくり見たが、進路のほとんどが踏み荒らされていていまいちわからなかった。何組ものグループが別々の日に入ったのでは、と思ったが口には出さなかった。


「先を越されたらマズい。急ぐぞ」


「フィルはなんで悪魔祓いになりたいの? 危ないのに」


「だからおまえは腰抜けなんだよ。いいか、悪魔祓いはエリートなんだよ。母さんがいつも言ってる」


「フィルは? どう思ってるの?」


「おれ……? そりゃ、なりたいよ。かっこいいだろ」


 不意に、大きな笑い声がした。二人は驚きのあまり飛び上がって、進路の先に目をやった。


 おそるおそる歩を進める。部屋の一室だけが妙に明るかった。


「――それで隙を見て盗んだのかよ?」


「ガキ扱いされたからな。楽勝だったぜ」


 広間のような部屋だった。粗暴そうな三人の男が集まって、なにやら騒いでいる。明かりの光球があたりに浮いていた――魔術師だ。


 レイはすぐに自分の光球を消した。廊下の一部だけが明るければすぐに気づかれるだろう。フィルにも明かりを消すようにうながした。


「でもよお、こんな石で悪魔を召喚できるなんて本当か? 宝石じゃねえの?」


「宝石なんかただの飾りだ。〝魔石〟はな、貴族たちも集めてるレア物なんだよ。悪魔をしもべにできるんだぜ? 高い金を払う価値があるだろ」


 男たちが盛り上がっているのを壁際で聞きながら、フィルがつぶやいた。


「……あいつら、上級生だ。学校に行かないで悪さばかりしてるんだ」


 レイはこっそり男たちの顔を見ようとした。フィルの言う通り、近寄りがたい雰囲気を出している。ゲラゲラ笑っていた。


「悪魔を呼ぶにはいけにえがいるんだ。命と引き換えに力を貸すんだってよ」


「なあ、もったいなくねえ? 貴族が欲しがってるなら、売りつけたほうがよくないか?」


「誰が貴族と交渉するんだよ。おれはな、金のために魔石を盗んだんじゃねえ! 悪魔を飼いならすんだよ! これで無敵だ!」


「悪魔祓いに捕まるんじゃ……?」


「ビビってんのかよ」


「ち、ちげえし。でも、いけにえは誰にすんだよ」


「ちょうどいいやつらがいるだろ――おい! バレてんだよ!」


 上級生たちの顔がいっせいにレイたちの隠れている方へ向かった。


「出てこいよ! 三秒で出なきゃ、ひどい目にあわせるぞ!」


 レイたちは諦めて広間に入った。上級生たちが集まってくる。


「こいつら盗み聞きしてやがったぜ。下級生か?」


「おれ、知ってる。一年のレイだ。【悪魔を祓う曙光(ラウフリード)】ができるって親が騒いでたな」


「ああ、こいつか。どうせうそだろ」


「おい、おまえら! 話は聞いていたな。これから悪魔召喚の儀式をはじめる! おまえらはいけにえだ!」


 急な要求に、フィルがあぜんとした。


「はあ!? ば、ばかじゃねえの!?」


「黙ってろ! 口答えしたらぶっ殺すからな!」


 上級生の一人が杖を突きつけた。


 どうする? レイは迷った。お化けの心配はしていたが、まさか悪そうな連中にからまれるとは思ってもみなかった。


 上級生のリーダーらしき男が得意げに、持っている物を手で転がしている。宝石のようにきれいな石だ。不気味なほど赤く艶めいていた。


「なあ、いけにえって二人もいるか?」


「知らね。なんでもいいだろ」


「いいこと思いついたぜ」


 男の一人がにやりと笑った。


「選ばせてやろうぜ。こいつらのどっちかをいけにえにするんだ」


 レイたちは息をのんだ。


 上級生のリーダーがひゅーっと口笛を吹く。楽しそうにフィルを指差した。


「おい、生意気なガキ。おまえに選ばせてやるよ。自分とレイのどっちをいけにえにする?」


 フィルは顔を真っ青にした。レイをちらりと見る。


「黙ってたら二人ともいけにえだからな」


「早くしろよ」


「さーん、にー、いーち」


「うわああああああああああああああああ!」


 光が破裂した。フィルが【星屑を飛ばす(ティンクル)】を撃っていた。魔力操作に失敗したのだろう。極端に肥大した光弾は飛ばす、その場で爆発するように弾けた。


「レイ! 逃げるぞ!」


 すぐに二人は背を向けて走り出した。


 後ろから、バンバン、と破裂するような音が飛び交う。魔術が飛んできた。


「レイ! 【悪魔を祓う曙光(ラウフリード)】しちまえ!」


「悪魔にしか効かないよ!」


「悪魔みたいなやつらじゃん!」


 レイは振り向きざまに杖を構えた。


「【星屑を飛ばす(ティンクル)】」


 すばやく射出された二発の光弾が男たちの杖に当たり、弾き飛ばした。


「【飛び出る鳩の群れ(ピジヨーター)】」


 続けざまにレイは魔術を唱えた。杖から出現したハトの群れが廊下いっぱいに羽ばたき、男たちに突っ込む。男たちが慌てて、ハトをどけようとした。


「すっげえ……」


「まだだ!」


「【星屑を飛ばす(ティンクル)】ッ!」


 怒りくるった上級生のリーダーが魔術を放ってきた。


「【硝子の盾で防ぐ(シーラス)】」


 レイは防御魔術を唱えながら後退した。前方に展開された透明な盾が光弾を防ぐ。


「フィル。りんごを投げるイメージだ」


 追い打ちで放たれる多数の光弾を防ぎながら、レイは上級生たちの魔力の弱まりを察知していた。


「もうすぐあいつらが疲れはじめる。合図したら杖を構えて」


 フィルが慌てて杖を上げた。


「同時に行くぞ――3、2、1!」


 敵の光弾が止んだ瞬間、レイは盾を消した。


「「【星屑を飛ばす(ティンクル)】――!」」


 フィルと同時に光弾を発射する。二つの光は見事な直線を描き、上級生の胸に直撃した。


「【頑丈な縄で縛りつける(ストルバイン)】」


 さらにレイは魔術を展開した。縄が出現し、ひとりでに動いて男たちに巻きついた。


「ちくしょおおお!」


 床に倒れた男たちがじたばたともがくが、縄はびくともしなかった。


 レイたちは明かりの魔術を唱えて、男たちに近づいた。フィルがおそるおそる口を出す。


「魔術でつくった縄ならすぐに消えちゃうんじゃないか?」


「この魔術なら一日くらいもつと思う……どうしようか?」


 レイは、うめく上級生のリーダーを見下ろしながら困った。縛りつけたまま放っておくわけにはいかないが、大人を呼んでも怒られそうだ。


 床には赤い石が転がっていた。上級生たちが魔石と呼んでいた物だ。フィルが石を拾い上げた。


「悪魔を召喚するって言ってたな……見るからにヤバそうだぜ」


「フィル。捨てたほうがいい」


 レイは石から魔力が出ているのを察知していた。どこかうすら寒くなる、いやな気配だった。


「? なんだよ、本気になって。見ろよ。なんか描いてある……文字? いや、読めねえな」


 光球の明かりを寄せて、レイは石の表面に刻まれた細かな文字を口にした。


「【ジキラゴ】?」











「 ヨ ン ダ ?」


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