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神童、やめられますか?  作者: 勝花
第一章
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8 呪われた屋敷

 レイは、声をかけてきた男の放つ大きな気配に困惑してしどろもどろになった。


「あの、えっと……」


 困っているうちにアンリ先生がやってきた。


「レイ。この方はボイル教授です。王都のユースディア魔術学校から来てくださったんですよ」


「王都?」


 学校の名前を言われても、レイにはピンとこなかった。ボイル教授は穏やかに微笑んでいた。


「きみの評判は聞いているよ。その若さで大したものだ」


「おれは、普通です」


 レイが答えると、なにがおもしろかったのか、ボイル教授は大笑いした。


「また会おう、少年」


 短い言葉を残して、去っていった。


 また? レイはますます困惑した。


「アンリ先生。あの人、ちょっと怖くない?」


 アンリ先生は驚いた顔になった。


「どうしてそんなことを言うのです」


「なんか目立つし……強そう? オーラ? みたいなのがあるっていうか……」


 レイはボイル教授が放つ気配をかいつまんで話した。


「レイ。魔力探知ができるのですか?」


「近くの魔力を感じ取れるってやつ? でも、探知って難しいんでしょ? おれ、なんとなくわかるだけで別になにもやってないし……」


「――――」


 アンリ先生が、ふつりと黙った。


 レイは怖くなった。【悪魔を祓う曙光(ラウフリード)】を見せた時も同じ顔をしていた。


 大好きなアンリ先生が別人になったような、落ち着かない心地になる。


 少しして、アンリ先生がゆっくりと口を開いた。いつもの表情に戻っていた。


「わかっていると思いますが、魔力探知は他者の魔力を感じ取る技です。魔力操作に長けている人ほど覚えやすいと言われています。レイは魔力操作が上手なので、訓練を受けなくてもおおまかな探知ができるのかもしれません」


「おれの魔力はどう? 変?」


「わたしは探知ができないのでわかりませんが、ボイル教授は、レイの魔力量が素晴らしいと褒めていましたよ」


 レイは、はっとした。


 大人の中には魔力探知ができる人がいる。


 自分ではわからなかったが、レイの放つ気配は他の同級生たちとは違うらしい。


 これからは魔力量にも気をつける必要がありそうだ。


 ……こんな感じかな。


 レイはひっそりと魔力量をおさえた。意識している間であればできそうだ。


「レイ。魔術を失敗していましたけど、どうしたのですか? 【硝子の盾で防ぐ(シーラス)】なんて一度も失敗したことがなかったのに」


「それは……最近、うまくいかないんだよ。成長期の想像力の変化? ってやつじゃないの?」


 レイは目をそらして首を掻いた。


「……そうですか」


 アンリ先生は追及しなかった。


 レイはほっとした。深く聞かれたらごまかせる気がしなかった。


 校舎に入ろうとする。歩こうとしたところで肩に手を置かれた。


「レイ」


 アンリ先生はとても優しい表情をしていた。


「なんでも相談してくださいね。わたしはどんな時でもレイの味方です」


 心配している声に、胸がずきずきと痛んだ。




  ◇◇◇




 放課後になって、レイは友達と街で遊んでから帰ろうとした。


「あれ?」


 帰り道で、フィルを見つけた。一人だった。広場にある椅子に座って、りんごをかじっている。


 近づくと、フィルが気づいた。途端に渋い顔になった。


「あっち行けよ」


 レイはさらに近づいた。もう夜が近い。なんとなく放っておけなかった。


「行けったら!」


 りんごを投げつけてくる。レイの横を通って地面に転がっていった。


「どうしたの?」


「…………」


 隣に座って聞くも、フィルは無視した。


 しかし、いつまで経っても居続けると、諦めたのか、フィルはぶすっと言った。


「……家出したんだ」


「え?」


「魔術がうまくいかなくて母さんに怒られたから、むかついて……」


 レイはフィルの母親を思い起こした。悪魔祓いにさせる、と言っていたような気がする。なんとなくキツそうな人だった。


「でも、どこに暮らすの?」


「ちゃんと帰るよ。これからおれは悪魔退治をするんだ」


「悪魔? いるの?」


「学校の近くにほったらかしの屋敷があるだろ。そこで出るんだってよ」


 レイも聞いたことがある話だった。野原の奥に大きな屋敷がある。ずいぶん前に誰も住まなくなったらしい。うわさでは、かつて住んでいた貴族が死んで屋敷をさまよっているのだとか。学校では幽霊屋敷と呼ばれている。


「悪魔を退治したら、母さんだっておれを見直してくれるだろ」


 屋敷にいるのが幽霊か悪魔かはともかく、好奇心で入っていい場所ではない。レイは反対した。


「ダメだって。悪魔を見つけたら逃げろって言われてるだろ」


「おれはもう戦える! 【星屑を飛ばす(ティンクル)】だって覚えたんだ!」


 フィルが杖を構えて魔術を放つ。杖先からひょろひょろとした光弾が出た。


 気まずい空気が流れる。がっくりとうなだれて、フィルは杖をおろした。


「おまえはいいよな。なんでもできて」


「おれも最近、うまくいかないよ」


「それでも、おれよりはできているだろ」


 急にフィルがにやりとした。


「おまえは【悪魔を祓う曙光(ラウフリード)】ができたのに退治に行かないんだな」


「だから、もうできないって」


「ふーん。できないからって逃げるのか。男のくせに腰抜けだな。帰ってママによしよしされてろよ」


 あからさまな挑発だった。レイはかちんときた。


「やれるさ。悪魔がいるとは思わない。でも、お化けは出るかもな。あんなダサい【星屑を飛ばす(ティンクル)】じゃ危ないから、おれがついていってやるよ(・・・・・・・・・)


 売り言葉に買い言葉で、フィルも顔を真っ赤にした。


「勝手にしろ! 逃げたら負けだからな!」


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