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神童、やめられますか?  作者: 勝花
第一章
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5 その少年はのちに神童と呼ばれる

 魔術学校に入学する日がやってきた。


 レイは朝早くから身支度して、二人の兄と別れをすませた。しばらくの間、家族とは離れ離れになる。亡くなった母親にも心の中で挨拶したところでアンリ先生がたずねてきた。


 父親の馬車で街まで送ってもらうと、入学式の時間が迫っていた。レイたちは手を繋ぎ、大急ぎで学校に向かった。


 スターレット魔術学校は街の外れにある、緑豊かな野原の先に建っていた。校舎は教会でもあり、休日では一般の人が参拝にくるらしい。魔術は神によってもたらされたと信じられているため、教会の神父が魔術を教えることはよくある、とレイはアンリ先生に教えてもらっていた。


 屋外に新入生が集められると、校長先生の挨拶もそこそこに、魔術のお披露目会がはじまった。子供たちの多くが目立ちたがって、我先にと前に出た。多くは【空に浮かぶ(フーラ)】で物を浮かばせようとして失敗していた。途中、男の子が使った魔術が暴走して、年配の教師の髪を焦がすハプニングが起こった。


 騒ぎがひと段落する。自己主張の強い子供たちの番が終わると、ようやくレイは生徒たちの前に立てた。


「レイ、です。サラン村から来ました。みんなと仲良くなりたいです」


 かちこちになりながら自己紹介を終えると、杖を構えた。


 心臓がうるさいくらい鳴っている。杖を握る手に汗をかいていた。


 大丈夫。


 成功する。


 みんなに認めてもらえる。


『――魔術とは夢を現実にする力です』


 先生が笑っている顔をイメージできている。


 レイは杖を上空に向けた。



「【悪魔を祓う曙光(ラウフリード)】」



 生徒たちから離れた野原に、線が刻まれる。幾筋もの曲線が結びつき、複雑な紋様となった。巨大な魔術陣だった。


 瞬間、まばゆく発光した。


 魔術陣から花開くように。


 光柱が天を昇る。雲を貫き、彼方へ消えていった。


「すげー!」「やばー」「なにあれー」


 子供たちが空を見上げて、口々に声を上げる。全員が興奮しているようだった。


 ――やった!


 魔術が成功して、レイは嬉しい気持ちでいっぱいだった。


 最初は【あたたかな光群(ホワイズ)】を見せるつもりだった。でも、どうせなら生徒たちだけじゃなくて、アンリ先生も驚かせたかった。


 そこで思いついたのが、本に描かれていた、光の柱を出す魔術だった。


悪魔を祓う曙光(ラウフリード)】は難しい魔術だと、先生は言っていた。先生でも一度しか見たことがないらしい。


 だからきっと、成功すれば喜んでくれるだろう。みんなだって、すごいって認めてくれる。


 本当に難しくて、ようやく覚えたばかりだけど、うまくいってよかった。


 ほら、みんな驚いている。空を指差して笑っている。


「先生っ!」


 レイは首を横に向けて、大人たちの並びにいるアンリ先生を見た。


「――――――」


 しん、としていた。


 アンリ先生はかたまっていた。レイと目が合っているのに無視していた。まるで、それどころではないかのように。


 なんで?


 よく見ると、他の大人たちも似た様子だった。はしゃぐ子供たちとは真逆に、全員が黙り込んでいた。


 なんで? おれ、まずいことした?


 魔術はうまくいったのに。もしかして、誰か怪我した? でも、魔術は成功したんだ。みんなから離れた場所で使ったし、誰も巻き込まなかったのは見ている。そもそも【悪魔を祓う曙光(ラウフリード)】は悪魔しか傷つけないって先生が――。


「レイ君、だったね」


 レイはビクリとした。校長先生が目の前に立っていた。他の大人たちも後ろに集まっていた。


「今のは【悪魔を祓う曙光(ラウフリード)】かね? 正直に言いなさい」


 問い詰めるような声音に、レイはおずおずとうなずいた。怒られているのだろうか。わからない。


「ふむ……どうやって覚えたのかな」


「本を読んで、いっぱい練習して……」


 大人たちがざわざわした。全員がレイを見つめている。珍しい動物でも観察しているかのようだった。


 なんで、そんな目で見るのだろう。


 やめてよ。


「レイ!」


 再び名前を呼ばれる。アンリ先生が駆け寄ってきた。


「アンリ先生!」


 レイはほっとして、すぐに激しい罪悪感におそわれた。慌てふためくアンリ先生の様子に、なにか大きな間違いをしたと悟った。


 そんなつもりじゃなかった。


 ただ、喜んでほしくて――。


「先生っ、ごめんなさい。おれ、びっくりさせたくて、それで、こっそり練習してたんですけど、悪いことだなんて思わなくて、あの、もうしないから嫌わないで――」


「レイ」


 レイは思わず口を閉じた。アンリ先生に両肩をつかまれていた。


「大丈夫ですよ」


 強い力だった。


 アンリ先生は笑っていた。


 けれども、レイの想像とは違った。


「先生がレイを嫌いになるはずがありません」


 一度も見たことがない顔をしていた。


 ぞくりと、背筋が寒くなった。




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