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神童、やめられますか?  作者: 勝花
第一章
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4 アンリ先生の憂い

 入学式の前日になった。


 アンリはレイに魔術を教えながら、その成長の早さに驚いていた。


 初心者向けの魔術をいくつも教えたが、レイはあっという間に習得してみせた。


 さらに自分で考え、応用まで実践できた。時にアンリさえ思いつかなかった手法で魔術を操ることさえあった。


 豊かなイメージ力と、繊細な魔力操作ができる証明だ。


 基礎においては教えられることがなくなっていた。


「お見事!」


 レイの周囲に光球が浮かんでいた。入学式の課題にしていた【あたたかな光群(ホワイズ)】を成功したところだった。


 アンリは拍手しながら、改めて感心していた。


 疑う余地はなかった。


 レイは天才だ。


 今までに教えた子供の誰よりも魔術の才能に恵まれている。


「これで合ってる? どこか変じゃない?」


「良すぎるくらいですよ。本番ではたくさんの人の前でするので、緊張しないようにしましょうね」


「うえ~~」


 不安そうな顔をするレイに、アンリはくすりと笑った。


「ところで、後ろに隠している物はなんですか?」


「え! な、なにもない」


 急に、レイが慌てた様子で首を掻く仕草をした。


 うそが下手な子だ。


「レイ」


「…………これ」


 観念した様子で、レイが木陰から小さな物を持ってきた。


 花束だった。赤、白、黄、紫など、色とりどりの花が集められている。


 レイが顔を真っ赤にして花束を差し出した。


「杖の、あと、いつも教えてくれるから、そのお礼」


「まあ。ありがとうございます」


「まだだよ」


 レイは軽く杖を振った。


 花束が浮かび上がる。空中でバラバラに解けると、ゆっくりとまとまり、繋ぎ合わさって花輪になった。


「魔術の花だと消えちゃうけど、本物ならずっと残るから」


 見ると、レイの手は少し汚れていた。


「フリージア、だよね。先生、この花好きでしょ」


「よく覚えていますね」


 アンリは完成した花輪を受け取って、よく観察した。


 花輪は精巧に編まれていた。ほつれの一切がない。より細やかなイメージができなければ不可能な芸当であった。


 子供は柔軟な思考ができるためか、時に驚くべき現象を起こすことがある。しかし、再現性がなく、細部のイメージになると雑になりがちだ。


 レイは子供の欠点と呼ぶべき特徴がなかった。


 一度覚えた魔術を継続して行える。


 正確に構成を把握し、応用できる。


 十歳にして初心者の次元を越えていた。


「レイ。かぶせてくれますか?」


「う、うん」


 レイが恥ずかしそうに、アンリの頭に花輪をかぶせた。


「嬉しいです。先生は幸せ者ですね」


「……へへ」


 我慢しきれずに笑う教え子に愛おしさが込み上げてくる。


 かわいい子だ。


 優しくて、無邪気で、かしこくて、さみしがり屋で。


 商家の三男として生まれたレイは、母親を早くに亡くしている。父親は跡継ぎの育成で忙しいらしく、教育の大半をアンリに任せていた。


 きっと家族に甘えられる機会が少なかったのだろう。アンリを母親のように見ているふしがある。


 魔術学校は村から離れた街にあるため、在学中の間はアンリの家にレイを住ませることになっていた。入学式でも同行するように頼まれている。


「レイはどんな魔術師になりたいですか?」


「んー? 悪魔祓いはいやだ」


「魔術師の仕事は悪魔を祓うだけではありません。研究の分野だってあります。学校の教師だってできるでしょう。気ままに魔術の探求をする旅人もいますが、先生としてはあまりなってほしくないですね。彼らの多くは変わり者で、行方知れずになることが多いですから」


「やっぱり、アンリ先生みたいな魔術師になりたい。おれ、将来は先生になるよ」


 変わらないでいてほしい。けれども気づくだろう。


 アンリは大した魔術師ではなかった。


 悪魔祓いを目指したが挫折し、魔術学校の教師になった。今は独立して家庭教師をしている。


 尊敬されるような人間ではない。


 レイは将来、優秀な魔術師になる。


 国中に名を残すほどの偉業を成し遂げるかもしれない。


 夢物語を予感させるまでに才能に満ちていた。


 もうすぐ魔術学校に通いはじめる。


 広い世界を知った時、レイは失望するだろうか。


 アンリを避けるどころか、見下すようにさえなるかもしれない。


 でも、今ではない。


「先生。入学式、ちゃんと見ていてよ」


「もちろんです」


 いつか離れる時まで見守ろう。


 優しくてさみしがり屋なこの子が、良い魔術師になれるように。


 来たる別れを思い浮かべ、アンリは少しさみしく思った。


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