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神童、やめられますか?  作者: 勝花
第一章
3/32

3 思い描けているなら

 レイは、アンリ先生が出した課題を難なくこなしてみせた。


 一回だけと言われた防衛術の練習は、あまりに成果が良かったため続けられた。【星屑を飛ばす(ティンクル)】を使った的当ては必中だった。光弾の速度を調整し、より速く射出するのもあっさり成功した。連射だってできた。


 アンリ先生は驚きながら、とても喜んでいた。レイの撃った光弾がどれだけまっすぐで狙いが正確か、はじめてで応用することがいかに難しいかを褒め、とびきりの笑顔をみせた。


 レイはすっかり魔術に夢中になっていた。


 頭の中で思ったことが現実になる。どんなことだってできる気がした。世界の王様になれた気分だった。


「魔力を使って疲れたでしょう。一休みしましょうか」


 疲れ知らずで魔術の練習をするレイを見かねて、アンリ先生が休息を提案した。


「ぜんぜん平気だよ。まだやりたい」


「元気が余っているようですね。お勉強の復習でもしましょうか」


「ええ~。全部、覚えたよ」


 不満を口にしながらも、レイは大人しく座った。


「では、問題です。人は魔術をどうして扱えるのでしょう?」


「神様が力をくれたからでしょ」


「正解です」


 アンリ先生が微笑んでうなずいた。


「魔術は神がもたらした大いなる力です。魔力を操る術を与えてくれたからこそ、わたしたちは魔術師として生まれることができました。ただ、良いことばかりではありません。祝福と同時に、神は試練ももたらしました」


「悪魔!」


「はい。魔術師の使命の一つは、悪魔の脅威から人々を守ることです」


 魔力の働きは、魔術を起こすための燃料だけではない。


 大量の魔力が一か所に蓄積すると、まれに新たな生命が誕生する。


 悪魔。


 長い年月をかけて魔力が実体をもった、異質の生命体。


 姿かたちはさまざまだが、生態は共通している。


 悪魔は魔力を養分にして生きながらえる。


 そのため、魔力を体内に宿す他の生物を食らおうとする。中でも、魔力の豊富な人間は好んで狙う。


 捕食者と獲物。つまりは人類の敵。


 決して人とあいいれぬ生物である。


「自然豊かな場所は魔力が多いので、悪魔が生まれやすいです。住み心地が良いのか、生まれてからも住処にしていますね。ただ、悪魔の好物は人間です。ときどき人里に入ってくるので、魔術師が退治しています」


「悪魔には魔術しか効かないんだっけ?」


「正確には、他の手段だとあまり傷がつけられない、ですね。悪魔を祓うには魔術が有効なので魔術師が対応しているんです」


 悪魔には魔術がよく効く。そのため、魔術師が悪魔を祓う。


 レイの住むエイワズ王国では魔術師の部隊があり、所属している人間の多くが悪魔と戦うため『悪魔祓い』とも呼ばれていた。


「レイも将来は悪魔祓いになるかもしれませんね」


「えー、やだよ。おれ、戦いたくない」


「安心しました。悪魔を見つけても決して戦おうとしてはいけませんよ」


「またその話? 先生、いつも言ってるじゃん」


 ふと、レイは疑問を覚えた。


「あのさ、先生」


「どうしました?」


「魔術で生み出したものはすぐに消えるよね? 悪魔も消えるんじゃないの?」


「良い質問ですね。魔術で生み出した物は時間が経つと消えてしまいます。悪魔も同様ですが、魔力の密度が濃いため寿命が長いんです。犬や猫、人くらい長く生きる個体もいるそうですよ」


 通常、魔術で創造した物体は時間の経過とともに消滅する。悪魔もその法則からは逃れられない。


 しかし、悪魔は長い年月をかけ、魔力そのものが肉体となった生命である。蓄積した魔力量が大きいため、消滅までの時間が長かった。


「そういえば、本でこんな魔術があったんだけど」


 レイが本をめくってページを見せる。巨大な光柱が醜い化物を浄化している絵だった。


「防衛術の中でも特に名高い魔術ですね。悪魔を祓う手段でもっとも有効だといわれています」


「さいきょーなの?」


「たしかに強力ですが、わたしはこの魔術の本当に良いところは別にあると考えています。悪魔だけを傷つける魔術なんです」


「悪魔だけ?」


「人には無害な、優しい魔術なんですよ」


「先生はできる?」


「まさか。とても難しい魔術です。わたしも一度しか見たことがありません」


「ふーん」


 レイは絵をじっと見つめた。アンリ先生の言った、優しい魔術、という響きがなんとなくよかった。


「入学式では、自己紹介で魔術を披露することになっています。辞退もできますけど、レイなら必ず成功するでしょう。みんなを驚かせてみましょうか」


 アンリ先生が冗談をまじえて笑う。レイもつられて、いたずら心が湧いた。


「やりたい!」


「良い返事です。使う魔術ですが……【あたたかな光群(ホワイズ)】はどうでしょう。少し難しいかもしれませんが、きれいな魔術ですよ」


 アンリ先生が杖を宙に浮ける。杖先を中心に、手のひらほどの大きさの光球があたりにぽつぽつと浮かんだ。


「すげえー! おれにもできる!?」


「ええ。頑張りましょうね」


 レイは勢いよくうなずいた。やる気いっぱいだった。


 魔術は楽しい。学校にも早く行きたい。


 ただ――。


「レイ?」


 急にレイが静かになって、アンリ先生が心配そうに声をかけた。


「……おれ、ちゃんと友達できるかな」


 不安だった。


 ずっと変人と言われてきた。


 学校でも仲間外れにされないか。


 アンリ先生がかがんで、レイと目をあわせた。


「魔術を成功させる上で一番大切なことはなんですか?」


「イメージをはっきりとさせること。〝できる〟って信じること」


「そう。強く願うことで魔術は成功します。いわば、魔術とは夢を現実にする力です」


 アンリ先生がレイの頭をなでる。優しく微笑んでいた。


「レイがお友達と仲良くしている姿を思い描けているのなら、きっと叶いますよ」


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