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神童、やめられますか?  作者: 勝花
第二章
27/32

27 個人戦(1)

「『しゅは語る。魔とはせい。自らの生を尊び、愛しなさい』――今日もみなさまに神のご加護がありますように。対抗戦の二日目となりました。ユースディア最高の魔術師が今日で決まります!」


 シスター・フェリスの拡張された声が競技場に響く。今回は実況席からおりて、競技場の真ん中に立っていた。


 競技場は昨日とは打って変わって見晴らしが良くなっていた。巨大な土の壁がなくなり、中央に四角い石造りの舞台が設置されている。選手が戦う場所だ。


「個人戦のルールはとっても簡単! 相手を場外に押すか、ノックアウトで勝利です! 審判のわたくしが危険だと判断しても止めます! 安全第一で戦いましょう!」


「安全第一でどうやって勝てばいいんだよ?」


 観客席にいるレイの隣に座るマクスがつぶやいた。


「それでは、第一試合! リザ・ルィ・エイワズ王女、対、ララ・ブローゼン選手です!」


 リザとララが舞台に上がる。向き合う形となった。


 ……どうするのかな。


 レイは心配だった。二人は仲が良い。戦うのはいやなはずだ。


 ところが、二人の雰囲気は明るかった。


「リザと魔術でちゃんと競うのって、何年ぶりかな~」


「さあ。よければ降参してほしいのだけれど。ララは成績に興味ないでしょ?」


「ん~、対抗戦は六年間で一回しかないじゃん? あたし、パーティーは全力で楽しみたいからさ。ダンスしようよ」


「試合開始――!」


 シスター・フェリスの笛が鳴ると同時に、ララが動き出した。


「【強風が攫う(キャリヴェン)】」


「【鋼の盾で防ぐ(シーアダム)】」


 ララが風魔術を展開する。リザが素早く反応し、防御魔術を唱えた。


 魔術はどちらも中位に属する。半透明な盾が強風を防いだ。


 それから、二人の戦いはわかりやすい様相となった。


 ララが次々に展開する風魔術が吹き荒れるのを、リザが堅実に防ぐ。隙を見て放たれた魔術を、ララが軽い身のこなしで避ける。


 攻め続けるララと、守りつつ反撃を狙うリザの試合は一進一退の戦況だった。


「二人とも出力があるよな」


 隣の席にいるマクスが声を上げた。


「うん」


 レイは二人を見ながら魔力の動きを感じ取っていた。


 チーム戦の練習の時から、二人の魔力量が他の生徒よりも大きいのはわかっていた。


 けれど、魔力操作は苦手なようだ。魔力の効率を良くすれば出力も展開速度ももっとよくなる……。


 ――あと、リザはきっと……。


「「【強風が攫う(キャリヴェン)】――!」」


 二人の風魔術がぶつかり合う。力が拮抗し、やがて片方の魔術が相手にぶつかった。


 ララが場外まで飛ばされて舞台から落下した。


「いった~~。負けちゃったか」


 場外に落ちたララが起き上がった。


 ……やっぱり、大きい(・・・)


 レイはリザの魔力が高まる瞬間を正確に感知していた。


 防御魔術を多く使うからといって、他の魔術が苦手なわけじゃない。


 リザがあまり攻撃しないのは――自分の魔力が大きいせいで、相手を傷つけてしまうからだ。


「勝者。リザ・ルィ・エイワズ王女!」


 リザが微笑んで手を振った。



  ◇◇◇



 個人戦は一試合目から大盛り上がりだったが、その後の試合はやや冷めていた。


 魔力量の大きいリザとララの魔術は出力があり、展開も早くて派手だった。比べて他の試合は未熟な中位魔術を使ったごり押し――いわば隙の大きい戦い方ばかりで決め手に欠けていた。


「第七試合! レイ選手、対、マリアンヌ・アージュ選手!」


 とうとう、レイの順番が回ってきた。


 舞台に上がると、ふと不自然な空気に気づいた……静かだ。みんな、さっきまで賑やかだったはずなのに、しんとしている。


 妙な注目を受けている気がして、そわそわした。


「平民。テオに恥をかかせたわね」


 前から声がして、レイは観客席に向けていた気持ちを切り替えた。


 マリアンヌ・アージュは目立つ風貌の、気の強そうな目をした女子だ。少人数で行動するリザと違って、いつも大勢の女子に囲まれている。レイは彼女と話したことがなかった。


「注目されているようだけど、わたしは認めないわ。立場を思い出させてあげる」


 直後に試合開始を告げる笛が鳴った。マリアンヌが杖を構えた。


「【火炎で(カルディ)】――」


「【星屑を飛ばす(ティンクル)】」


「あっ――!」


 レイの放った光弾がマリアンヌの手に当たり、杖を飛ばした。


 すかさず接近しながらさらに魔術を展開した。


「【頑丈な縄で縛りつける(ストルバイン)】」


 魔力でできた縄が、あっという間にマリアンヌを簀巻きにする。全身を縛られて体勢を崩し、転んだ。


「降参して」


 レイは手前にいるマリアンヌに杖を向けて冷静に告げた。


 杖がなければ魔力操作が不安定になる。浮遊魔術のような特定の魔術を除けば、まともに展開するのさえ難しい。


 今のマリアンヌに縄を解く手段はなかった。


 ……よかった。すぐに終わった。


 レイは内心でほっとしていた。


 攻撃する魔術はなるべく使いたくなかった。だから杖を狙った。


 レイの【星屑を飛ばす(ティンクル)】は初見で誰からも防がれたことがなかった。ジョイブルだって反応できなかった。他の生徒にも通用すると考えていた。


 一発で終わりにできるなら、それがいい。


 決着がついたと判断したのか、シスター・フェリスが声を上げた。


「勝者、レ――」


「――()が高いわよっ!」


 マリアンヌの魔力が高まる――展開の予感に、レイは驚いた。


「アージュは火の一族! 生まれた時から火と共にある!」


「危ないっ!」


「【業火で焼き尽くす(ガルディオルノ)】――!」


 荒れ狂う炎が蛇のようにのたくり、上空へ昇った。


 放たれた魔術は、本来の高位火魔術には程遠かった。出力が低く、動きがみるからに不安定だ。暴走している。明らかな失敗だ。


 それでも、人を傷つけるには余りあった。暴走している分、むしろやっかいだった。


 炎は巨大な火球となり、空中でみるみるうちに膨らんで破裂した。拡散した火があたりに飛び散った。


 レイは空に広がる魔力を感じながら、状況を分析していた。


 防御魔術を使えば防げる。けれど、シスター・フェリスが巻き込まれかねない。観客席にいる人たちだって怪我をするかもしれなかった。


 ――全部、打ち消す。


「【追いかける光群(エクスワイズ)】」


 レイの周囲に複数の光弾が浮かび上がった。


 この魔術は明かりとは違う、立派な防衛術だ。【星屑を飛ばす(ティンクル)】よりも出力が高く、術者の意思で動かすことができる。


「行け!」


 光弾が、散らばる炎に向かって殺到した。


 魔力探知によって正確な位置に導かれた光弾は、ひとつとして外れず炎に直撃した。相殺する形で観客席に落ちる前に鎮火していった。


 しかし、光弾の数よりも多かった残り火が、まさにレイたちの頭上まで迫っていた。


 レイに焦りはなかった。


「【噴水で満たす(ブロークア)】」


 杖から勢いよく放たれた水流が空に昇り、残りの炎をかき消した。水流は空高く上がったのち、水滴になって舞台に降り注いだ。レイは防御魔術を傘のように真上に展開し、水滴を防いだ。


 足下を見下ろすと、マリアンヌが呆然とレイを見上げていた。


「どうして、わたしを守って……」


「? マリアンヌが怪我をしそうだったから」


 さっきの状況は試合どころではなかった。同級生が大怪我をしそうになって守らないはずがない。不可解そうにしている意味が、レイにはさっぱりわからなかった。


「……わたしの負けよ」


 マリアンヌがうなだれて降参した。


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