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神童、やめられますか?  作者: 勝花
第二章
24/32

24 開幕(3)


 2点の的をとられて、アランはいよいよ平静ではいられなくなった。


 ――負けるのか? こんなにあっけなく。


 3点を先取された。残りの的は三つ。もう、ほとんどあとがない。


「ゴールドチームが1ポイント追加! 合計4ポイント! 」


 シスター・フェリスの実況が響く。1ポイントの煙が上がっていた。


「リザはレイを守るんじゃなかったっけ?」


「速すぎてついていけないのよ……」


 ララとリザが協力してポイントを獲得したようだ。


 これで、レイのチームが4点。あと1点でもとられたら終わる。


 残りのポイントは2と3ポイントの的が一つずつ。アランのチームが逆転するには両方とらなければならなかった。


「【硝子の盾で防ぐ(シーラス)】――!」


 呆然としていたアランは、不意に透明な盾が出現してはっとした。アランに向かってきた魔術を、キーラが防御魔術で防いでいた。


「余裕がなさそうだな、アラン!」


 浮いたマクスが杖を構えている。さらに魔術を放ってきたが、アランは空中で避けて反撃の魔術を展開した。


「【強風が攫う(キャリヴェン)】」


「うおおおおおおおお!?」


 強力な風が衝撃波のごとくマクスを押し、遠くに吹き飛ばしていった。


 ――しまった。あせって手加減ができなかった。怪我をさせてしまったかもしれない。いや、敵チームを心配している場合では――。


「アラン! すまん、ポイントをとられた! どうする?」


「どうすればいい?」


 マルオとエノメが浮遊魔術を使って近くに寄ってきた。


 ――落ち着け。リーダーが動揺してどうする。


 今までずっと周りの期待に応えてきた。みんなが求めるアラン・オータスとして振る舞わなければいけない。


 チーム全体が押し負けている。早くポイントを取り返さないと。


 最大の問題は言うまでもなく、レイだ。彼よりも早く的を見つけるのは難しい。かといって後追いではポイントを奪われる。


 認めなければならなかった。


 レイの才能は、アランよりも上だった。


「みんなでレイを止める。それしかない」


 的が減った以上、もうすぐ3点の的が出てくるはずだ。それまでに2点をとる。アランがポイントを、残りのメンバーでレイを妨害する。


「〝全力で〟ってことだよな?」


 マルオの確認に、アランはうなずいた。


 強い魔術でレイを怪我させることになってしまったとしても、逆転するには試合から離脱させるしかない。


 ――甘えを捨てろ。


 見ると、レイが再び浮遊魔術を使って移動をはじめた。


「止めろおおおお!」


 マルオが先頭になって突っ込む。エノメとキーラも続いて、レイの前に立ちはだかった。


 アランはレイが進もうとした方向に向かって、全力で飛ぼうとした。


 ――たとえ個人で劣っているとしても。


「勝つのは、おれたちだ!」


 マルオたちがいっせいに杖を構えた。


「「「【火炎で燃やす(カルディオ)】――!」」」


 三方向からレイに向かって、巨大な炎弾が飛んだ。


 ――今のうちに的を見つけてみせる!


 地上に移動しようとしたアランの意識は――。


「【風が吹く(ヴェン)】」


 レイの動きによって途切れた。


 マルオが展開した炎弾が風によって揺れ、方向がわずかにそれた。別の炎弾にぶつかって弾ける。三つ目の炎弾を巻き込んで爆発を起こした。


 ――魔術を……いなした(・・・・)


 驚きのあまり、アランは一瞬、動きを止めていた。


 下位の風魔術を当てるだけで中位の火魔術を動かすなんて、普通はできない。それも、ちょうど別の魔術に当たって……狙ったかのように……。


「どうやって」


「感じるんだ」


 アランの背後が光った。


「【光線で撃ち抜く(ベネートレイ)】」


 上空から降った光線が地上の的を一撃で貫く。「2」ポイントの煙が昇った。


 アランの後ろにレイがいた。いつの間に移動したのか、魔術が展開される直前まで気配がなかった。


「試合終了! ゴールドチーム、6ポイント獲得で初戦を見事勝ち抜きました!」


 シスター・フェリスの実況が響く。アランは失意のまま地上に降りた。


 ――完敗だった。


 レイが展開した最後の魔術は【光線で撃ち抜く(ベネートレイ)】だった。はっきりとは見られなかったが洗練されていた――アランよりも。


 それでも、真に驚くべきは難しい魔術を使えることではなかった。


 三人分の中位魔術に狙われながら無傷でやりすごし、的を奪い取る一連の動き。どうすればそんな芸当ができるのか、もはや理解できなかった。


「なんなんだよ……」


 目の先で着地するレイが、得体の知れない生き物に見えた。



  ◇◇◇



「やった!」


 レイは着地すると、喜びを声に出した。


 試合に勝てた。しかも圧勝だ。マクスたちも喜んでくれるだろう。


 最後の的をとる直前に受けた妨害はちょっと悩んだけど、失敗しなくてよかった。


 下位の風魔術で中位の火魔術をいなせたのは、火魔術の不安定な部分を見抜いたからだった。


 三つの火魔術は出力にばらつきがあり、どれも魔力操作が甘かった。レイは風魔術によって魔力が特に乱れている一点を突き、別の魔術に衝突するように動かした。


 爆発が起こる瞬間に全力の浮遊魔術でその場から離脱。上空からアランを追い抜き、彼の背後から的を射貫いた。


「熱っ」


 不意に感じた痛みに、レイは顔をしかめた。左手の甲をわずかに火傷していた。


 防御魔術で炎を防げば無傷だった。けれど、防御をしている間にポイントをとられる恐れがあった。素早くかつ相手の意表を突くために、あえて変わった手段で妨害をやり過ごした。


 マクスたちが喜色満面な様子で駆け寄ってくる。みんなからもみくちゃにされて、レイはしばらくなすがままになった。


 やっと解放されると、アランが近づいてきた。


「負けたよ。なにもできなった」


「そんなことない!」


 レイは慌てて言った。


「最初の【星屑を飛ばす(ティンクル)】は当てないようにしてくれたんでしょ? それに的を狙った魔術、あれって【光線で撃ち抜く(ベネートレイ)】だよね。制御がちょっと難しいから遅れていたけど、【星屑を飛ばす(ティンクル)】を撃たれていたらどうなっていたかわからなかった。最後の妨害だって、アランが【光線で撃ち抜く(ベネートレイ)】を使ってきていたら防御魔術を使わなきゃいけなかっただろうし、そうだったら、ポイントをとるチャンスがなくなっていたかもしれない――ぎりぎりなところがたくさんあったよ」


 途端に、アランが表情を変える。とても驚いた様子だった。やがて小さく笑うと、片手を差し出してきた。レイは応じて握手した。


 競技場から出ようとして、ふと、レイは気になる光景を目にした。


 アランのチームの女子が泣いていた。仲間たちからなぐさめられながら退場していった。


 ――わかっているつもりだった。


 負けたら悔しいに決まっている。


 競技なのだからしかたがない。マクスたちを勝たせたかったのだから、どうしようもない……でも、泣くほどだなんて……。


「まさか、オータスが一試合目で負けるなんてなー」


「10歳に完封かよ。よわっ」


「でも、相手強くなかった? すごい魔術使ってたし……」


「王女がいたからやりづらかったのかもな~」


「持ち上げ過ぎなだけ。実力はこんなものだよ」


 観客の声が聞こえる。レイはあぜんとした。


 ――どうして、アランがバカにされているの?


 浮遊魔術がうまかった。【星屑を飛ばす(ティンクル)】だって当たらないように制御していただろう。【光線で撃ち抜く(ベネートレイ)】なんて、まだ授業で習っていない。


 アランがすごかったなんて、試合を見ていればわかるはずなのに……。


『対抗戦で優勝するってことは、ユースディアで一番の魔術師だって証明になる。おおげさに言えば、全部の魔術学校で一番だ。同世代のトップ――大人たちはみんな注目するだろうさ』


 今さらになって、マクスの言葉が重く感じられた。


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