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神童、やめられますか?  作者: 勝花
第二章
23/32

23 開幕(2)

 空へ昇る一条の光弾が的を撃ち抜く。光弾は勢いをたもったまま彼方へ消えていった。壊れた的から煙が出て「1」の数字を描いた。


「ゴールドチームが1ポイント獲得! すごい! レイ選手、一歩も動かずにポイントをとりました! レイくんはユースディアで初めての飛び級。聖書の暗読で進んで手を上げてくれる、とってもかわいい男の子です!」


 シスター・フェリスの実況が響く。観客たちは歓声を上げる者、動揺する者、あぜんとする者、とさまざまな反応をみせていた。


 ゴールドチームはレイのチームの名前である。それぞれのチームが色別に割り振られていた。生徒間では、「王女の髪色で選んだのか」と冗談が交わされていた。が、あながち的外れでもなかった。なにせ、金色は王族の象徴たる色として扱われているからである。


 アランは驚きのあまり無防備に空を漂っていた。


「なんだ、今の魔術は……!?」


 的の高さは遥か遠く、浮遊魔術で距離を詰めなければ命中させるのは不可能であるはずだった。


 最も的に近かったアランでさえ、まだ射程圏内でなかった。先頭にいて安心さえしていたのに――。


 放たれた光弾は、アランが標的にされずとも恐ろしい圧力を感じた。知っている魔術のどれにも当てはまらなかった。


「ミシェルにもっと聞いておけばよかったな……いや、教えてくれないか」


 姉はがさつだ。魔術の練習台にされることはあっても、まともに教えてくれたためしがなかった。


 それでも、実力は本物である。


 悪魔祓い。王国が誇る最高戦力。


 レイは、隊員である姉の領域にいるのか?


「おもしろい……!」


 魔術師の名家に生まれ、相応の努力をしてきたつもりだった。


 ユースディアで悪魔祓いに一番近いのは自分だと自負していた。


 けれど、六年生になってはじめて揺らいでいる。


 今、最大の障壁が目の前にある。


 ――越えてみせる。


「いくぞ、レイ!」



  ◇◇◇



 貴賓席では貴族たちもどよめいていた。その周囲では警備の悪魔祓いたちが守りを固めている。


 最前列にいるスティーブは貴族たちの手前、顔色こそ変えなかったが内心では驚愕していた。


「スティーブ隊長っ。今のは……」


 隣から呼びかけられる。ミシェルだった。動揺が隠せていない。


 スティーブは目で落ち着くようにうながした。声量を極力おさえて応える。


「〝マジックオーバー〟だ。基礎魔術がベースではあるが成功している」


 極限まで魔力を凝縮することで出力の限界を超える、高度な戦闘技術である。


 魔力操作が非常に難しく、失敗すれば暴発する恐れがある。隙も大きいため、うかつには使えない。


 マジックオーバーは実戦のためにある特別な技だ。いわば奥の手。学校で習う知識ではなかった。


「……どんな訓練を受けているんだ?」


 術者の少年――レイが気になった。見るからに若い子供だ。しかし、マジックオーバーの瞬間に跳ね上がった魔力の大きさは尋常ではなかった。それも、ただ大きいだけではない。魔力操作も卓越している。


 横目で見ると、ミシェルの表情がくもっていた。


「家族が気になるか?」


 アラン・オータスとミシェルが姉弟であるのは知っている。弟についてはいささか冷めた言動を聞くが、仲が悪いわけではないのだろう。


「調子に乗っているのでいい気味です」


「手厳しいな」


 思わず苦笑いして、スティーブは視線を移した。


「どう見ていますか……ボイル隊長?」


 教員用の席で、ボイル教授がじっとたたずんでいた。



  ◇◇◇



 マクスも空を昇る光を見上げ、身動きを止めていた。試合中で致命的な隙を見せているが影響はなかった。他の選手も同じように呆然と空の光を見送っていた。


「すげえ……」


 作戦は、速攻で最初のポイントを奪って場をかき乱すことだった。


 試合開始と同時に、レイがまっさきに近場の的をとりに行く。例年、的は隠されている場合が多かった。魔力探知ができるレイなら、誰よりも早く的を見つけられる。素早く先制し、試合のリズムをつかもうとした。


 とはいえ、相手は優勝候補のアラン・オータスである。失敗を予想してカバーに回るつもりだった。


 ところが、レイは想定を超えてみせた。一歩も動かず、ポイントをとった。


 チーム戦ではあるが、アランから先制したのだ。どれだけ困難であるか、同級生のみんなが知っている。


 心強い味方がいる。興奮せずにいられなかった。


 ――個人戦はどうなる?


 ふと、頭が冷めた。


 幸先の良すぎる流れが未来を幻視させた。


 マクスは首を振った。今、考えることではない。レイに言っておいて、自分が浮かれてどうする。


 相手チームが動き出している。マクスは妨害しようと杖を構えた。



  ◇◇◇



 アランは下降して、競技場を見下ろした。土の壁が迷路のようになっていて場が把握しづらい。が、地上を走るよりもよっぽど的を見つけやすい。長時間の浮遊は疲れるが、魔力を消費してでも次の的を見つけたかった。


 とられた的は1ポイントだ。まだまだ挽回できる。リードを広げさせるわけにはいかない。


「アラン! あれって」


 チームメンバーのキーラが近くに飛んでくる。アランを敵チームの妨害から守る役目を引き受けていた。


 キーラが指を差したのは、ちょうどある人物が地上から飛んだ瞬間だった。


「【空に浮かぶ(フーラ)】」


 レイが浮遊魔術を使い、土の壁を越える。他には目もくれず、一直線に飛んでいた。


 ――嫌な予感がする。


 レイは魔力探知ができるかもしれない。


 模擬戦で見せた驚異の動き。背後を見もせずに魔術を避けていた。ミシェルも似た動きをしたことがある。


 的は魔道具がほとんどだ。その魔力をレイが探知できるのだとしたら――。


「させない!」


 すかさず追いかけて、アランは杖を構えた。


「【星屑を飛ばす(ティンクル)】――!」


 光弾を連射する。本気で当てるつもりはない。牽制けんせいでレイの動きを止める。防御魔術を使うか、応戦してくるだろう。


「――――!?」


 ところが、レイの動きは防御でも応戦でもなかった。


 無視――まっすぐに飛び続けている。光弾が向かってきているのに防御魔術を展開する素振りすら見せなかった。


 アランの攻撃はあくまで牽制だ。全弾が外れた。


 ――読まれた! やっぱり魔力探知ができる! でも……。


 一発ならまだしも、大量の弾丸が一息に向かってきて、すべて外れると瞬時に判断できるだろうか? 魔力探知が高等技術とはいえ、そこまで万能とは思えなかった。


 ミシェルなら……たぶん、できない。


 レイの目指す先の地上で、木板のような魔道具がふわふわと浮いていた――的だ。


 ――止められないなら、先にポイントをとるしかない!


 的はボールとは違う魔道具だった。2点かもしれない。


 勝敗を分けかねない状況が、とっておきを使う決断にいたった。


 アランは魔力を集中し、杖を構えた。


「【光線で撃ち抜く(ベネートレイ)】――!」


 杖先から光線が放たれる。


 中位魔術でも習得が難しい、悪魔祓いでも主力になる攻撃魔術だ。


 習得が不完全なため展開が遅く、消耗が激しい。一発撃てば、再び展開するのに時間がかかる。


 しかし、威力は余りある。的が頑丈であろうと一発で壊せるだろう。


「【星屑を飛ばす(ティンクル)】」


 レイが数発、魔術を撃っていた。


 光弾がわずかに早く的に着弾する。的は破壊されなかったものの跳ね、あらぬ方向に飛んでいった。位置がずれたことで、アランの光線がすれすれで外れた。


「的を動かした……!? おれの魔術のほうが遅いと読んで!?」


星屑を飛ばす(ティンクル)】は簡単な分、展開が早くできる。威力は弱いが、速度が速い。


 もしもレイが威力重視の魔術を放っていたとすれば、際どいタイミングになっただろう。アランの魔術が早く命中したかもしれない。


 追撃の光弾が連射で的に命中する。大量の弾丸に耐えられず、ついに的が壊れた。「2」ポイントの煙が昇った。


 ――負ける?


 ひやりとした心地が、アランの背中をなでた。


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