20 チーム結成
リザたちとのお茶会が終わると、レイはさっそくマクスに二人をチームに入れてもよいか確認した。王女と三大貴族から勧誘があったことを知り、マクスはとても驚いていた。言葉もなく首を高速で縦に振り続けていた。答えはイエスだった。
放課後になって、レイたちは競技場に集まった。
「あー、じゃあ、チームの初会議だな……」
マクスが第一声を上げる。気のせいか、声がかたい。緊張しているようだった。
不自然な様子を見て、ララが笑い出した。
「なんか声小さくない? マクスっていつもはもっとうるさいでしょ。そういえば、チームとかでいっしょになるの、はじめてじゃない?」
「よろしくね、リーダーさん」
リザも試すような軽い笑みを浮かべた。マクスが慌てて抗議する。
「おい、待てよ。普通は王女がリーダーじゃないのか?」
「あら、やだ。ユースディアで身分の違いなんて考えないでほしいわ」
「そうだけどよ……」
「リーダーも悪くないけど、今は引っ張ってほしいわね。そういう気分なの」
「……おおせのままに」
不服そうな口調になりながら、マクスがララに目を向けた。
「レイから二人とも防衛術の成績が良いって聞いたんだが……リザはともかく、ララは頭悪くなかったか?」
「はあ!? 実技は良いの! ていうか、マクスに頭悪いって言われたくないんだけど!」
「な、なんでだよ。おれの成績、知らないだろ」
「あなたの成績が実技にかたよっているのは六年の間で有名よ」
「バカだもんね~」
「うるせえ! 人のこと言えないだろ!」
マクスが恥ずかしそうにさけぶ。緊張がほぐれたようだった。せきをして場の空気を戻すと、再び話をはじめた。
「まだ試合をしていないけど、このチームはかなりイケると思ってる。おれは対人戦が得意だし、リザは頭が良い。ララは……よく知らないけど実技の成績は良いみたいだしな」
「吹き飛ばしてあげよっか?」
「おたわむれを、お嬢様」
マクスがすかさず両手を上げてララに降参の意を示すと、レイを見た。
「それに――期待の新人もいる。ジョイブルの反則行為を完封した英雄だ」
「ええ、急に抱き上げられてびっくりしたわ」
リザがレイに微笑みかける。レイはなんとなく気恥ずかしくなって目をそらした。
「まずはみんなの得意分野を知りたい。チームの役割をはっきりさせたいからな」
マクスが自分を指差した。
「おれは人の動きや体調を操る魔術が得意だ。転ばせたり、ゲロを吐かせたりとかな。問題は、魔術をかける相手の魔力がおれよりもよっぽど大きかったり、生まれつき抵抗力が強かったりすると効き目が悪くなる。まあ、同級生相手なら失敗はないだろうけどな」
「あ~、よくいたずらしてるよね」
「まさか、紳士たるわたくしめがいたずらなどするはずがございません」
ララに対して、マクスがわざとらしい口調でうそぶいた。
次に口を開いたのはリザだった。
「わたしは正直、座学のほうが得意。だけど、みんなの足を引っ張らない程度の防衛術は心得ているわ。攻撃よりも防御魔術のほうが得意ね」
「あたしは風を起こす魔術が好き! あと、ダンスが上手!」
ララが勢いよく手を上げる。ダンスはあまり役に立たなそうだった。
三人の視線がいっせいに集まると、レイは少し口ごもりながら話しはじめた。
「得意な魔術は……えーと、【星屑を飛ばす】をよく使う。あと、魔力探知で的の場所を探せる。人に魔術を当てるよりも、避けるほうがやりやすい、かな」
レイは習った魔術であれば覚えている。だいたいの魔術が使えるから得意分野なんて気にしたことがなかった。魔術で競い合う経験も最近までなかったため、試合で自分がどれだけ動けるかもよくわかっていなかった。とりあえず、防衛術で一番使っている魔術を口にした。
一番大きく反応したのは、マクスだった。心底感心したように息をついた。
「本当に魔力探知ができるんだな……前の試合で2点の的を見つけたのも探知したおかげだったのか」
「期待しているわ」
「レイはチームにいるだけでいいんだよ~。お姉ちゃんが守ってあげるからね」
三者三様の感想が出たあと、少しの間、マクスが考え込む。やがて考えがまとまったのか、口を開いた。
「レイはポイントゲッターだな。的を見つけてどんどん落としてくれ」
「マクスは?」
「おれは敵を妨害する係をやる。的を壊すよりも人の邪魔をするほうが向いてるからな」
「それなら、わたしがあなたたちを守るわ。盾にでもなりましょうか」
「王女様に言われると、心臓が縮むな……防御を任せてもいいのか?」
「長所を生かしてこそのチームでしょう? 助け合いよ」
「あたしもレイを守る!」
「ララは動くほうが得意でしょう。自分で的を落としてもいいし、相手を妨害してもいいから試合をかき回してちょうだい」
「ん~、いいけど……レイは大丈夫? 役割は合っていそうだけどさ。レイってまだ十歳でしょ。的を探す役なんて、一番狙われるじゃん」
心配そうなララの目に、レイは首をかしげて応えた。
「おれはいいよ。前の試合だって、みんな、出力を調整していたからそんなに危なくなかったよね? あれくらいなら平気だよ」
ジョイブルたちの不意打ちもレイにとっては遊びの範囲であり、危険だとは思っていなかった。
マクスが満足したようにうなずいた。
「レイなら集中砲火を食らってもどうにかできる。もちろん、今日だけで役割が決まったわけじゃない。練習でもっと良さそうな案が出たら変えるつもりだ」
それからもチームの方針などについて話し合ってから解散になった。
女子が先に立ち去ると、マクスがどっと疲れたようにうなだれた。
「疲れた……」
レイは明るいマクスがリザたちと話すだけで疲れている様子が意外だった。
「リザとララが苦手なの?」
「別に仲が悪いわけじゃねえよ。同じ学年でもそんなに話したことがなかったからな……ほら、あの二人って近寄りづらいだろ。美人すぎると男が寄らないってやつだよ」
「? よくわからない」
「恋を知らないお年頃か……あと二年もすればわかるようになるさ」
マクスがやけに優しい目になってレイの肩をたたいた。
大貴族のジョイブルに物怖じしないマクスでも、王女には強く出られないらしい。レイはそう解釈した。
◇◇◇
王都。悪魔祓い本部。
スティーブは女の部下から報告を受けていた。
「スティーブ隊長。行方不明だった6番隊の調査員が発見されました。その……」
「続けてくれ」
「四名全員の死亡を確認……全滅です」
想定しながらも否定してほしかった報告を突きつけられ、スティーブは動揺を押し殺した。
「…………悪魔か?」
「生存者がいないため、詳細は不明です。ただ、死体の損傷が激しくなかったことから、人の犯行の可能性があるとみられています」
「悪魔祓いに匹敵する魔術師だと? 最悪だ」
スティーブの表情が一気に険しくなった。
悪魔は魔力を摂取するために人間を食らいたがる。そのため犠牲者は原型をとどめていない場合が多い。
例外こそあるが、悪魔祓いをおびやかす魔術師がいると考えたほうがいい。そして、敵が人間であるほうが頭が回る分、余計にやっかいだった。
スティーブは一度気持ちを落ち着けてから口を開いた。
「だが、これで魔石が製造されている拠点がはっきりした――東だな」
以前、ボイルによってもたらされた情報をもとに魔石が売買されたルートをたどった結果、とある街の周辺で不審な人の動きが確認されていた。
「悪魔が出た街ですね。ボイル教授が視察におもむいたと聞き及んでいます」
慕う元上官の名前が出て、スティーブは軽く笑った。
「そろそろ、ユースディアで対抗戦が行われる。7番隊は警備に駆り出されるだろうな」
「懐かしいですね。決勝の前日に眠れなかった夜を今でも覚えています」
「ミシェル。きみは優勝者だったな。警備で試合を見ていたが、見事な戦いだった」
「光栄です――ボイル教授に今回の件を相談しては?」
「反応に困るジョークはやめてくれ。隊長を思い出す。我々はあくまでも貴賓の安全を守るために配備されるだけだ」
「大貴族たちのお守りですか……悪魔を相手にするほうがよほど楽ですね」
「だといいな……」
軽い口調で返すも、スティーブは不穏な予感を抱かずにいられなかった。