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神童、やめられますか?  作者: 勝花
第一章
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2 はじめての魔術

「いいですか? 空中に浮いているイメージですよ」


 レイは集中して杖を構えた。


「【空に浮かぶ(フーラ)】」


 地面に転がっていた小石がゆっくりと浮上した。


「やった! 先生、見て! できたよ!」


「お見事です」


 先生が拍手して微笑む。レイは嬉しくなった。


「次はちょっと難しいですが、石をもっと高く浮かせてみましょう。魔力がきちんと込められていないとできませんよ」


 小石が動きはじめる。レイの頭を越え、見上げる高さまで上がっていった。魔術を解くとぽとりと地面に落ちた。


「簡単だよ! 次は!?」


「……驚きました。はじめてとは思えません」


 魔術は、力の源である魔力が必要となる。


 魔力は、生物の体内や、自然豊かな場所の大気に多く含まれている。魔術師は自分の魔力を消費し、想像(イメージ)を具現化する形で魔術を行使している。


 初心者は、イメージがあいまいで魔術が失敗、もしくは不安定な結果になるのが普通である。仮にイメージができていても、魔力の操作に失敗すれば出力の強弱が極端になってしまう。


 詳細なイメージと魔力操作は、魔術の大事な要素である。アンリ先生が課題を出したのは、基礎を鍛えるためであった。成功するのは難しいと想定していた。


 ところが、レイは一度目で成功させてしまった。初心者の芸当ではなかった。


「おれ、たくさん本を読んだから。宿題だってきちんとやってるでしょ」


「偉いですね。レイは頑張り屋さんです」


「おれ、先生みたいになりたい。なれるかな?」


「もちろんです。ひょっとしたら、すぐに抜かれてしまうかもしれません」


「ははは! そんなわけないじゃん!」


 レイは嬉しかった。アンリ先生に褒められると、いつも心があたたかくなる。


 先生を喜ばせたい。


 良い結果を出せば、もっと喜んでくれるだろう。


 早く上達したかった。


「ねえ、先生! あれやりたい! 前に見せてくれた的当てのやつ!」


「【星屑を飛ばす(ティンクル)】ですか? 基礎ではありますけど、悪魔から身を守るための防衛術なんですよ。レイにはまだ早いです」


「一回だけでいいから! ね、お願い!」


 必死にレイが頼み込むと、アンリ先生が弱った顔をした。


「しょうがないですね。一回だけですよ」


「やった! 先生、大好き!」


「はいはい。わたしも大好きですよ」


 苦笑いして、アンリ先生は近くの木に向かって杖を向けた。


「【星屑を飛ばす(ティンクル)】」


 杖先が輝くと、小さな光弾が発射された。直線の軌道を描いて木に命中した。


「すげー!」


「この魔術は光に見えますが本物とは異なります。実体を持った光は普通ではありえないことなんです。物を浮かばせるよりもイメージが難しくなるでしょう」


「先生はどうやっているの?」


「同じくらいの大きさの物を遠くに投げるイメージをしています。簡単なイメージは小さな石ですね。魔術師の多くが参考にしています」


 レイは杖を構えた。


 アンリ先生の手本を真似て姿勢を整える。


 イメージと魔力の操作……小石を遠くに……。


「【星屑を飛ばす(ティンクル)】」


 魔術を放つ。杖先から勢いよく射出された光弾は木の真横を通り過ぎた。


「外れましたけど、良いイメージ――」


 ――ドン。


 失敗をなぐさめようとしたアンリ先生は言葉をなくした。


 視線の先は、光弾の軌道の果てだった。


 的に選んだ木のずっと遠くに、別の木がある。


 レイの放った光弾は、遠くの木の中心に当たっていた。


「できた! できたよ!」


「……あそこの木を狙いました?」


「いけそうだったから! すごいでしょ!」


 魔術は、イメージがあいまいであれば不安定に、魔力の操作に失敗すれば出力が極端になる。


 レイの魔術は、イメージと魔力操作の双方において、十分すぎるほどに洗練されていた。


 はじめての実践だった。


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