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神童、やめられますか?  作者: 勝花
第二章
18/32

18 それでいい

 地上に降りて競技場から出ると、レイは大歓声でむかえられた。


「飛び級様が空から帰還だ!」


「クールだったぜ!」


「すっげえな!」


「十歳とか冗談だろ!」


 バンバンと背中をたたかれる。興奮した様子の男子生徒が次々とレイをほめていた。


「レイ! おまえってやつは最高だな! いいところ全部持っていかれちまった!」


 マクスが来る。両手を上げてハイタッチした。


 ふと、集団の目がいっかしょに集まる。見ると、悔しそうな顔をしたジョイブルがいた。


「ひざまずくって約束だったよな。反則までしたんだ。レイに謝るくらいしろよ」


「……ち」


 レイは試合が楽しくて賭けのことをすっかり忘れていた。いたたまれない空気を感じてマクスに言った。


「あの……やっぱり賭けはなしにできないかな?」


「レイ?」


「試合には勝ったんだし、無理にやらせなくても……」


「――平民がおれをあわれむな!」


 さけんだのはジョイブルだった。レイを親の仇のようににらみつけると、歯をぐっと噛んでひざまずいてみせた。すぐに立ち上がって去っていった。


「なにを群れている! 練習の許可は出ても通行の邪魔は許されておらんぞ!」


 エイブラム教授がやって来て怒鳴り散らす。レイを見つけると、急ににっこりと笑った。


「おっと、レイか。ユースディアはすばらしいだろう」


「は、はい」


「困ったらわたしを頼るがいい。わたしは教師の中でも古参だからな。力になってやれるぞ」


 転入試験の時とは打って変わって、気味が悪いくらい親し気だった。戸惑ったレイは、あいまいに礼を言って返事を濁した。


 人が減った道の先をながめる。試合の興奮が冷めてくると、今度は不安がよぎった。


 楽しかった。けれど、良いことばかりではなかった。


 ジョイブルは嫌いだ。けれど、嫌いなままで終わりたくはなかった。できれば仲良くなりたかった。


 フィルとも仲直りできた。試合が終わればわかりあえると期待していたかもしれない。


 けれども、レイにひざまずく直前に見せた顔を思い出すと、仲直りすることはとても難しく思えた。



  ◇◇◇



「レイ。学校はどうでしたか? 大変ではなかったですか?」


 アンリは、レイが帰ってくるとさっそく感想を聞いた。


 ユースディアから転入試験の結果を知らせる手紙を見た時は驚いた。


 名門校で五年分の飛び級――信じられなかった。あのユースディアがレイを高く評価したのだ。自分のことのように誇らしかった。


 レイの成績なら六年生の授業内容でもついていけるだろう。実技においては大人すら凌駕している。


 とはいえ、懸念はあった。新しい環境になじめるか、年の離れた生徒たちと交流できるか心配だった。


「楽しかった! みんな、すごいんだよ! 放課後に魔術の試合をしたんだけど――」


 様子を見るかぎり、レイはとても嬉しそうだった。学校であった話を聞きながらほっとする。スターレットの友人とわかれてからしばらく落ち込んでいたが、これなら立ち直れそうだ。


「良いお友達ができたのですね」


 レイが無邪気に笑ってうなずく。アンリは微笑みながら、聞いた話を頭でまとめていた。


 ジョイブル家にブローゼン家、そして、第四王女……。


 王国を代表する名家ばかりだ。魔術師として地位を築いた貴族は生まれつき魔力の大きな子供が多い。子供を魔術学校に通わせるのだから、ユースディアには多額の寄付がされているだろう。


 大貴族の子供と肩を並べてレイが学校に通っている。アンリには喜ばしい知らせだった。


 しかし、問題が起こりそうなことには注意しておかなければいけない。


「レイ。練習はいいですが、けんかはいけませんよ。みんなと仲良くしたいでしょう?」


「……うん」


 ジョイブル家を敵に回すのは危険だ。下手に刺激すれば、レイの将来に悪影響をおよぼしかねない。


 仲良くなってほしかったが、話を聞くかぎり今は難しいだろう。


「バーナード、ですか……」


 アンリは誰にも聞き取れないほど小さくつぶやいた。レイと仲良くなったという子供――聞き覚えがある。それなりに有名な家柄であったはずだ。


 レイと長いつきあいになりそうな子供だ。問題がないか調べておいたほうがいいだろう。


「先生。おれの魔術、見て。対抗戦で使えるかもしれないんだ」


「いつも以上に勉強熱心ですね。お部屋を壊さなければいいですよ」


「暴発なんて一回もしてないじゃん!」


 対抗戦のことは知っている。ユースディアで行われる大規模な行事だ。外部からも多くの人が見学に来る。


 魔術が好きなレイなら興味を持つと思っていた。友達といっしょに取り組めるならなおさら熱心になるとも。


 現実には、対抗戦は楽しいだけの行事ではない。


 生徒の将来を左右しかねない大事な試験だ。教師はもちろん、外部の有力者からも審査される。生徒たちの多くが自分を売り込むために必死になるはずだ。


「また試合がしたいな。あと二人、チームメンバーは誰が入ってくれるかな……」


 ユースディアの生徒が輝かしい将来を勝ち取るために争う対抗戦も、レイにとっては新しい遊びくらいにしか思っていないのだろう。


 ――それでいい。


「先生? 前に練習した魔力を一点に集めるやつだけど、近くにしか集められないんだ。遠隔の魔術でするのは無理なのかな?」


「もうできるようになったのですか? それも難しい技術なのですが……」


「魔術の動きを変えられるかためしてみようかな……凝縮の性質と【星屑を飛ばす(ティンクル)】のイメージを利用すればいけると思うんだけど……」


 レイの杖先が光り、その輝きが稲妻のごとく絶えず折れ曲がって杖にまとわりついている。緻密な魔力操作のたまものであった。


 ――レイが全力を出しさえすれば優勝できる。


 学生の次元を越えた練習成果に、アンリは確信していた。


 名門のユースディアであろうと、六年生が競争相手であろうと、障害にならない。


 レイは、対等になり得る仲間を得てさらに成長しようとしている。余計な口出しをすべきではない。


 今は見守るだけでいい。


 対抗戦は、レイのたいくつをまぎらわす格好の娯楽になる。


「頑張ってくださいね。応援していますよ」


 王都に来た選択は正しかった。


 心からの本心を告げて、アンリは微笑んだ。


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