17 模擬戦(2)
――ちょっとびっくりした。
浮遊魔術でジョイブルを追い抜くと、レイは高度を上げた。試合開始と同時に多数の魔術を受けたが無傷である。周囲の魔力の高まりを察知した時点で防御魔術を展開し防いでいた。
魔力探知によって不意打ちをまぬがれたが、予想外ではあった。まさか観客から攻撃されるとは思っていなかった。
ジョイブルがズルをしたらしい。ルール違反で試合が止まってもおかしくなさそうだけれど、審判はなにも言っていないようだ。
困惑も若干の怒りもありながら、レイはうっすらと笑っていた。
「……そういうやり方もあるんだ」
ルール違反はダメだけれど、場外を利用した方法は参考になるかもしれない。
対抗戦は的を狙う勝負だ。早いもの勝ちになる。すぐに的を見つけられればいいけど、先に相手が見つけたら邪魔しないととられてしまう。
不意を突かれるのは危ない――悪魔に襲われた時の経験から、レイは意識の外から来る攻撃の危険性を肌で覚えていた。今の妨害も魔力探知ができなければ直撃していたかもしれない。
逆に言えば、相手の不意を突ければ有利になる。
どうすれば相手を驚かせられるか。もっと広いイメージができるようになれば魔術の幅も広がる。
――魔術で競い合うなんてはじめてだ。
「楽しいな……」
レイは杖を構えた。
「【星屑を飛ばす】」
光弾を放つ。空中を漂っていたボールを正確に撃ち落とした。
煙が浮かんで数字の形になった――1ポイントだ。
これで残りの的は一つだけになった。ポイントでは負けているけれど、2ポイントの的をとれば逆転できる。
着地して、レイは周りの気配を探った。
試合がはじまってからわかったことがある。
ジョイブルたちがとった二つの的と、今、撃ち落とした的は同じ魔力を帯びていた。小さな魔力だから見つけにくいけれど、無理ではない。
レイは目を閉じて集中した。しかし、残りの的の魔力はなかなか感じとれなかった。
近くにはない? それなら――。
レイは走り出して、競技場の壁際からぐるりと回ろうとした。
観客席のほうから魔力の高まりを感じる――左から三つ。
浮遊魔術で再び飛びあがる。寸前までいた場所に魔術が降ってきた。
「後ろに目でもついてるのかよ!?」
驚く声を背に受けながら移動を続ける。目で見なくても、迫ってくる魔力だけわかればよかった。
「的がないぞ! ここに置けと言っただろう!?」
大きな声が聞こえた。なにやらジョイブルが慌てている。アクシデントがあったらしい。チャンスだ。
壁際に沿って走り続ける。その間も魔術が飛んできた。
「【火を起こす】」
火の魔術を置き去りに。
「【土を盛り上げる】」
土の魔術は飛び越え。
「【風が吹く】」
風の魔術は利用して加速に使う。
やっぱり、みんなすごい。魔術のイメージがしっかりできているし、出力だって調整されている。
浮遊魔術で速く飛んでいたのについてこられている。
杖だけを後ろに向けて、レイは魔術を展開した。
「【頑丈な縄で縛りつける】」
「うわぁ!?」
まもなく悲鳴が上がった。リガロが追ってきているのを魔力探知で把握していた。
「――見つけた」
レイは奥の壁に向かって走り出した。
「来いよ、チビ! 相手をしてやる」
ジョイブルが前に立ちはだかってきた。
「【火炎で――】」
「【星屑を飛ばす】」
すかさず光弾を放つ。ジョイブルの杖を弾き飛ばした。
「痛いっ!?」
「【大きな物でも回転させる】」
横から飛んできた魔術がジョイブルに当たる。するとジョイブルがその場でぐるぐる回り出して転倒した。
「行け、レイ!」
マクスだった。レイは浮遊魔術を使って観客席まで飛び上がった。
「きゃあ!?」
最前列に座っていたリザを抱くようにして浮遊魔術をかける。彼女ごと空中に移動した。
「……なんのつもり?」
「的を持っているよね」
リザが手を広げる。「2」と書かれたボールがあった。
「ジョイブルのお友達が持っていたから預かったの。公平なタイミングで競技場に飛ばそうと思って……どうやって、わたしが持っているとわかったの?」
「ほんの少しだけど、的の魔力を感じたから。リザの魔力が大きくて気づけなかったけど、近くに行ったらわかったよ」
リザが驚いた顔をした。
「できるのね……魔力探知」
最後の的を壊す。ポイントを示す煙が上がると大きな歓声が上がった。レイたちの勝利が決まった。
レイは地上に降りようとした。
「待って」
突然、リザがレイの首に両腕を回した。
「もう少しこのままでいましょうよ。もっと上まで飛んでちょうだい」
誰もが見惚れるような魅力的な笑みに、レイは困りながら答えた。
「え、やだよ。人を浮かせるのって疲れるんだ」
この返事はリザを大いに不機嫌にさせたようだった。が、レイには彼女をそこまで怒らせた理由がよくわからなかった。




