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神童、やめられますか?  作者: 勝花
第二章
16/32

16 模擬戦(1)

 急な誘いに、レイは戸惑いながら返事をした。


「マクスのチームに?」


「おれはけっこうできるやつなんだ。どうだ? 悪魔祓いを目指しているなら組んでおいたほうがいいぜ」


 チームを組めそうな人なんて他にいない。レイが小さくうなずくと、マクスが勢いよく手を差し出して握手した。


「よし、決まりだ! よろしくな!」


「他に誰がチームにいるの?」


「今のところ、おれとレイだけだ。残りが苦労しそうでなぁ……」


「どうして?」


「チームは四人なんだけど、残りの二人は女子と組まなきゃいけないんだ。魔術師の実力は男だろうが女だろうが差なんてないのにやっかいな規則だよな」


「デートに誘うよりは楽勝だろ」


「そうだな、ダニエル。フラれても傷が浅い」


 全員の目が一瞬、ジャックに集まってすぐにそらされた。なにもなかったようにマクスが話を続けた。


「余ったやつらは対抗戦の当日に無差別で組まされる。失格にはならないけど事前に組んでおいたほうが連携がとれて有利だ。実技に強いやつと組めたら最高だな」


「マクスと組むのはやめといたほうがいいぞ。モテないからな」


「チェスター。おまえと当たったら髪をレインボーに染めてやるよ」


 マクスたちがふざけて言い争っている様子を見ながら、レイは不思議に思った――どうして、会ったばかりなのにチームにさそってくれたのだろう。


「バーナード! バカでマヌケなバーナードじゃないか!」


 横柄そうな連中がレイたちに向かって歩いてきた。ジョイブルと取り巻きだった。


「チームは決まったか? まさか、平民のガキにごまをすっていたんじゃないだろうな。いくら落ちぶれた家でもそこまで恥知らずじゃないよな」


「お気遣いありがとうよ、ジョイブル。そのまま回れ右して視界から消えてくれ」


 火花が見えそうなくらい二人の態度がぎすぎすしていた。レイはこっそりチェスターの服を引っ張った。


「仲が悪いの?」


「一年の時から最悪だよ。まあ、ジョイブルを好きなやつなんて性悪か金目当てだけどよ」


 目を戻すと、ジョイブルがちょうどレイを見たところだった。


「どんな手を使って飛び級なんて認められたかは知らないけどな。すぐに化けの皮がはがれることになるだろうさ」


「おれのチームメンバーにからむなよ。挑発しなくてもすぐに思い知らせてやるよ」


「正気か、バーナード? チビになにができるんだ? 荷物持ちか?」


 あからさまな侮辱に、レイは腹が立った。やっぱり、こいつは嫌いだ。


「いいかげんにしろよ。問題を起こしたら対抗戦に出られなくなるぞ」


「おまえと違って、おれの将来は決まってるんだよ」


 ふふん、とジョイブルが得意げに笑った。


「おれは悪魔祓いなんて目指してない。けど、そうだな。対抗戦には父上が見に来るし、主席はおれ以外にありえない。優勝したら研修の椅子だけはゆずってやるよ」


「おまえのケツであたためられた椅子になんか誰が座るかよ」


 マクスの返事に、ジョイブルが不快そうな顔をした。


「じゃあ今すぐに実力を見てやるよ。模擬戦だ。練習なら魔術をいくらでも使っていいだろう」


「くだらねえ。どうせ卑怯な手を使う気だろ」


「怖いなら逃げてもいいぞ。バカとチビじゃ勝てっこないのはわかっているからな」


「黙れよ。いいぜ、乗ってやる。レイもやるよな?」


「おれはチビじゃない!」


 レイも言い返した。


「そうだ、もっと言ってやれ。煽っちまえ」


「え? ええっと……口が臭い!」


 迷ったレイは、とっさにリザがジョイブルに言っていた悪口を口にした。


 マクスたちが笑い出す。いっぽうで、ジョイブルの顔は真っ赤になっていた。


「後悔させてやるぞ、チビ……!」



  ◇◇◇



「チーム戦はポイント比べだ」


 競技場のすみまで行くと、レイはマクスから対抗戦のルールを聞いた。


「フィールドに置かれたまとを魔術で壊すと、チームにポイントが入る。勝敗はポイントの合計で決まるんだ。的が全部なくなるか、ポイントの差が逆転できないくらい離れたら試合終了だ」


「的に魔術を当てるだけ? なら、すぐに終わりそうだね」


「単純な的だけなら早く終わるだろうけどな。本番は障害物があるし、的の種類もいろいろある。勝手に動いたり、逆に攻撃してきたりするやつとかな。ゴーレムが的の時だってあったんだぜ。的はただ当てるんじゃなくて、壊さないとポイントが入らない。早撃ちだけじゃ勝負は決まらないんだ」


「的によってポイントが違う?」


「そのとおりだ。狙うのが難しい的ほどポイントが高い」


 レイは転入試験のゴーレムを思い出した――あれくらいすごいのも的になるのかな?


「気をつけるのは、妨害が許されているところだ。試合中は敵チームに魔術を当ててもいい……ジョイブルの野郎のことだ。絶対に狙ってくるぜ」


 マクスがしかめ面になった。


「レイは魔術、どれくらいできるんだ? 防衛術が上手いと助かるんだが……」


「だいたいはできるよ」


「だいたいか……信じてるぞ、相棒。危なかったら無理せず退けよ」


 レイたちは競技場の中央に立った。


「みんな集まっているな……リザもいるのかよ」


 マクスが周りを見回してつぶやいた。競技場の観客席に多くの人が集まっていた。レイが同じ方向に目をやると、最前列の席でリザとララが並んで座っていた。


 さらに目をあちこちに移して的を探す。遠くで魔道具のボールが浮いているのを見つけた。どうやら、あれが的のひとつらしい。


「無意味な作戦会議は終わったか?」


 ジョイブルがチームメンバーを連れてせせら笑った。彼のペアは、リガロ・ゴートという目つきの悪い男子だった。


「的は四つ。1ポイントが三つに、2ポイントが一つだ。これは模擬戦だ。シンプルな得点でいいだろ」


 ポイントの合計は5点。つまり先に3点をとったほうが勝つ。


 マクスが疑わしそうに目を細めた。


「おまえらだけ的の位置を知っているなんてことはないだろうな」


「負けた時の言い訳にするつもりか?」


「言ってろ」


 ジョイブルがにやりと笑った。


「景品がないとやる気が出ないな。なにか賭けようじゃないか。負けたチームはみじめったらしく相手のチームにひざまずいてみせるのはどうだい?」


「おまえ……ふざけてんのか」


「怖いのか? 今なら降参してもいいぞ」


「やろうよ、マクス。勝とう」


 レイが言うと、マクスが力強くうなずいた。


「よく言ったぞ。おい、ジョイブル。五歳も年下相手に不正なんてしないよな」


「もちろん。フェアにいこうじゃないか」


 四人が位置につくと、審判に選ばれた生徒が試合開始を宣言した。


 ――同時に、観客の方向からレイに向かって多数の魔術が飛んできた。衝撃で強風が起こり、激しい砂埃があたりに舞い上がった。


「レイ!? 汚いぞ、ジョイブル!」


「文句を言うヒマがあるなんて余裕だな、バーナード!」


 ジョイブルが一直線に走ると、杖を近場の壁際に向けた。


「【火炎で燃やす(カルディオ)】――!」


 炎の波が芝生にまぎれていた的をのみこんだ。もくもくと煙が昇り、生きているかのようにまとまって数字を描く――「1」ポイントだった。


「くそっ! やっぱり的の位置を知ってやがったな!」


 マクスがごちている間に歓声が上がる。リガロがもう一つの的を壊していた。これも1ポイントだった。


 不正行為があったにもかかわらず、試合が止められる様子はなかった。審判もジョイブルの味方だった。


 早くもジョイブルのチームが2ポイントをとり、さらに上空を飛ぶボールを全員が見つけていた。


 たとえ1ポイントだろうと、的をとられた時点でレイたちの負けになる。


「もらった!」


 ジョイブルが得意げにボールへと向かって走り――。


「【空に浮かぶ(フーラ)】」


 その後ろから、レイが浮遊魔術で勢いよく追い抜いた。


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