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神童、やめられますか?  作者: 勝花
第二章
15/32

15 マクス・バーナード


 時間は数日前にさかのぼる。


 レイが転入試験を終えた翌日だった。


 ボイルは校舎の廊下を足早に進むと、エイブラム教授をつかまえた。


「……どういうおつもりですか」


「正当な評価をしたまでだ。わたしに抗議しても無駄だぞ。すでに承認されている」


 エイブラム教授がにやりと笑った。


「レイは〝六年生〟として入学させる。ユースディアで初の特例措置だ」


「彼はまだ十歳です。いくら技能が優れていようと心は未熟でしょう」


「心? 魔術学校は名の通り、魔術を学ばせるための教育機関だ。レイが一年の授業を受けて得るものがあると思うか? 筆記試験は全学年の問題を混ぜたが満点だぞ」


「内面の成長をうながすのも教育です」


「そんなものは自然と身についていく。おまえも知っているだろう? 王都では残忍な事件が増え、前線に立つ魔術師の数は減る一方だ。世界は一人でも多くの優秀な魔術師を求めている。元悪魔祓いの部隊長であったなら学校の判断を歓迎するかと思ったのだがな」


「レイの進路が悪魔祓いとはかぎりません」


「まさか! あれだけの才能があって他の道を選ぶなどありえん! 見ただろう! 完璧な高位火魔術を扱える学生がいたか? 賭けてもいい! レイはユースディア開校以来の天才児として名を残す! 主席どころではない! 最年少の悪魔祓い筆頭だって夢ではない!」


「優秀な生徒なのは認めます。だからこそ慎重になるべきです。せめて、三年……いや、四年生からでも遅くはない。魔術以外でも学べることはあります」


「魔術師として優れているだけでは出世できん。有象無象うぞうむぞうに足を引っ張られて破滅する恐れだってある。名声を勝ち得るために必要なのはコネクションだ」


「……王女と三大貴族ですか」


「六年生には王国有数の貴族の子供が何人も集まっている。繋がりをつくるのにこれほどうまい環境はあるまい」


「あなたは生徒の家柄を利用させようとしている。感心しないやり方だ」


「利用しろ、などとは言っていない。同学年の仲間として仲良くすればいい」


 エイブラム教授が口角を上げた。


「ユースディアは王国で一番の魔術学校だ。積み重ねなければならぬ実績の壁は年々高くなっている。レイが最年少で悪魔祓い筆頭になれば、ユースディアの名声も高まる。わたしたちが天才の恩師となるのだ。教育者としてこれほどの名誉はあるまい」


「生徒をトロフィーにするつもりか? あまりに身勝手だ」


「途中で教師となったおまえに理解されるとは思っておらん」


 一瞬、重苦しい沈黙がおりた。


「繰り返しますが、まだ十歳です。魔力で上回っていても肉体の差があります。レイが再起不能にでもなれば、魔術界にとって大きな損失になりかねない」


「ふん。失敗を恐れるだけでは大成せん」


 エイブラム教授がつまらなそうに鼻を鳴らした。


「宝石はみがかれてはじめて価値が生まれる――わたしが美しくしてやろう」



  ◇◇◇



 レイはユースディアの初日の授業を終えた。


 授業はどれも楽しそうだった。けれど、同学年の人とろくに話せていない。


 リザとララは優しそうだけど、女子だ。仲間に入れてもらうなんてできっこない――王女様に「おれもまぜて」なんて言えるはずがないじゃないか。


 そうでなくても同学年には年上しかいないのに。友達なんてできる気がしなかった。


 レイは一人で下校しようとして、ふと魔力の大きな動きを察知した。今日も生徒がいっかしょに集まっている。競技場のほうだ。


 気になって、レイは足の向きを変えて歩き出した。


 競技場では生徒が集まり、それぞれ魔術を展開していた。見覚えのある人ばかりだった。みんな、六年生だ。


 しばらくながめていると、一人の生徒が声を上げた。


「おーい! 見てないでこっちに来いよ!」


 背の高い、赤髪の男子だった。長い杖を振ってレイに呼びかけている。魔力が近くの生徒たちよりも大きい。


 レイは思い出した。ボイル教授の授業で遅れてきた人だ。


 おそるおそる近づいていく。赤髪の男子はレイよりもずっと背が高かった。


「レイだろ? 飛び級の」


「うん……あの、遅刻してた人ですよね?」


「お~いおい。遅刻とはあんまりだな。心優しきボイル教授が許してくれたじゃあないか」


 演技ぶった口調で肩をすくめると、不意に、男子の赤髪がピンと逆立ち、色がショッキングピンクになった。


「なんで!?」


 レイは思わず吹き出した。


「マクス! 転入生をからかうなよ」


 周りにいた男子たちが集まってくる。奇抜な髪型のまま背の高い男子がにやりと笑った。


「おれは、マクス・バーナード。夢は『笑わせる魔術師』になることだ」


「バカがなんか言ってるぞ」


「留年して笑わせてくれるんだよな?」


「するかぁ! なめんな!」


 周りの冷やかしにマクスがさけぶと、どっと笑い声が上がった。


 場の空気がゆるんだところで他の同級生たちも次々に自己紹介していく。ジャック・リー。チェスター・スミス。ダニエル・アルダーソン……レイはひとり一人の名前を覚えながらあいさつした。


「レイ、です。よろしくお願いします」


「レ~イ閣下。わたくしめのような下賤の者におきれいなお言葉などもったいのうございます――もっとくだけろよ。同じ学年だろ」


 みんなが笑って同意する。年齢の差を感じさせない気安い態度に、レイはうまくやっていけそうな気がした。


「しっかし、すごいよな。いきなり六年からスタートのやつなんてはじめてじゃないか? ユースディアで飛び級なんて聞いたことないぞ」


「特例だって言ってた……」


 ほーっとみんなが感心したように息を吐いた。ジャックが声を上げる。


「リザ王女に話しかけられてたよな? 知り合いだったのか?」


「転入試験の時に道を教えてくれたんだ」


「王女から目をかけられるなんてついてるな。アプローチしたやつは山ほどいるけど全滅だぜ」


「ジャック! デートを断られた時のこと、まだ引きずってるのか?」


「違う! あれは本気じゃなかったって言ってるだろ!」


「王女ってなに考えてるのかよくわからないんだよな。急に話しかけてきたかと思ったらそっけなくなったりするしよ」


「年下趣味……?」


 妙な話でみんなが考えこんでいた。マクスが別の話題を振った。


「そういえば、ジョイブルにからまれたんだって? あいつになんかやられたら言えよ。生まれつきでいじめ根性が染みついているようなやつだからな」


「マクスも貴族?」


「ユースディアにいる生徒は大なり小なり貴族だよ。ここのいいところはな、三大貴族だろうがぶんなぐってもいいことだ。魔術もいいがおすすめはしない。けんかで使ったのがバレたらおも~い罰則だ。エイブラムなんかに見つかったら吊るされるぞ」


「はは……」


 冗談か本気かわからないマクスのアドバイスに、レイは苦笑いした。


「さっきはなにをしていたの?」


「そりゃ、対抗戦にむけて練習だよ」


「対抗戦?」


「転入したばかりじゃ知らないか。六年のカリキュラムは見たよな? 三か月後に実習があるんだよ」


 レイは頭の中でカリキュラムの内容を思い起こした。


「『実地研修』ってあったけど……」


「そいつだ。短期間、魔術師の仕事に研修で働かされるんだよ。成績によってどこに研修に行くかが決まるんだ」


 マクスが楽しそうに笑った。


「目玉はもちろん『悪魔祓い』。悪魔討伐に参加できるんだぜ。そこで目をかけてもらえば卒業の進路は安泰だ」


 そこでふと、声の調子を落とした。


「けど、定員は毎年二人だけだ。サポートでも悪魔を相手にするんだから実力がなきゃ大怪我するだろ? 悪魔祓いの研修に行けるのは六年の中でも強いやつだけなんだよ」


「どうすれば選ばれるの?」


「授業の成績や普段の態度もあるけど、悪魔祓いの選抜方法は簡単だ」


 マクスが一呼吸置いた。


「〝対抗戦〟に勝つ。六年で競い合うんだ。チームを組んでな。優勝したやつは必ず悪魔祓いのチケットが手に入る」


「おれたちはみんな、ライバルってわけだ」


 レイは話を聞きながらわくわくしていた。対抗戦――どんなことをするのだろう。悪魔祓いの研修には行けなくてもいいけど、みんなと魔術で遊べるのは楽しみだった。


「まだチームが決まってないだろ?」


 レイがうなずくと、マクスが笑った。


「なら、おれのチームに入れよ。優勝しようぜ」


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