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7話 護衛を譲らない

「引継ぎの三ヶ月、ループト公爵令嬢には護衛が必要かと」

「お待ち下さい。本来王太子妃の護衛がリーデンスカップ伯爵令息の仕事でしょう。エネフィ公爵令嬢の護衛をすべきです」


 久しぶりにヴォルムを畏まった呼び方したわね。

 両陛下はループト公爵家が私的に契約をとるなら止めはしない見解を出しつつも、私の言葉から臨んでいないことを察して今日のところは保留にするようヴォルムに伝えた。婚約破棄の受理が優先だという名目でだ。

 さすが両陛下、本当助かる。でも護衛がいなくなると聞いて父が慌てだした。


「ディーナちゃん、心配だよ」

「御父様、心配には及びません。ソフィーがいます。彼女は公爵家で護衛兼侍女として雇われています」


 これからは王都のタウンハウスから通うけど、馬車も使うし護衛はソフィーが務める。今までは王太子の婚約者というだけで護衛が多かっただけだ。ヴォルム以外も侍女オリゲ、侍従フォルスク、筆頭執事のルーレも護衛を兼任していた。多すぎでしょ。ぶっちゃけ私、自分でもそれなりに腕がたつって自負してるし。


「……分かった」


 渋々感が半端ない。ソフィー以外にもう一人ぐらい護衛兼侍女を連れてくればよかったかしら? でも私付きなのはソフィーぐらいだ。十年前にもう一人ぐらいいた気がしたんだけど……いやあれは母付きだったかな? どちらにしても今はいないから仕方ない。父にはソフィーだけで納得してもらおう。


「御父様、タウンハウスで泊まってから領地に戻られます?」

「そのつもりだよ」

「では私も後程そちらに」


 先に行く父を見送る。

 その間ずっと私の斜め後ろという護衛ポジションで立つ背の高い男に向かい合った。


「なんで今なの」

「俺はディーナ様の護衛です」

「ヴォルムには感謝してるのよ。私の剣の腕があがったのは貴方のおかげだしね」


 元々身体強化による拳での戦いを主にしているけど、それ以外の戦い方も必要だと考えて毎朝早朝、剣の稽古に付き合ってもらっていた。ヴォルムは教え方も上手で基礎からみっちり教えてもらえた。おかげさまで私の実力は王都騎士団の中で例えるなら上の中ぐらいはいけるらしい。

 そんな剣の稽古も殿下の帰国と共に中断している。


「身の回りのことも随分助けてもらったし」


 正直、あれ用意してこれ付き合ってみたいなことは、ほぼヴォルムにやってもらっていた。守るという仕事以外が多くて、護衛というよりは秘書みたいな存在だったと思う。


「これからも俺がディーナ様をお助けします」

「いやでも」

「たとえディーナ様が強くてもです」

「強さの面では全く問題なさそうなんだけどね」


 剣以外だと、魔法はテュラと妃教育で教わった。学院は基礎ってところね。

 この拳の使い方だって十年前ぐらいに同い年ぐらいの子から教わった。もう名前も顔も覚えてないけど。

 修練の積み重ねた年数的に強いって自負できるんじゃ? あ、だめだ。強いってだけだとヴォルムは引かない。


「俺は明日も明後日も朝お待ちしてます」

「いいって。折角だから自分の為に時間使えばいいのに」

「ディーナ様との時間が俺の為の時間です」

「ブッハ!」


 盛大に噴き出す声が聞こえて、二人でそちらを見やる。


「こんなとこで何言い合ってんだよ。口説いてんのか?」

「テュラ、ヴォルムどうにかして」

「無~理~」


 話を聞いていたテュラに改めて説明は必要なかった。

 挙げ句テュラから話を聞くに、ヴォルムは既に一度王太子殿下の護衛も断り、エネフィ公爵令嬢の護衛も断ったらしい。同期で仲がいいからできることだけど、殿下のお願いを断るのはどうかと思うわ。断った上で今さっき殿下に私の護衛を申し出るとかメンタル強すぎでしょ。


「食い気味にお断りでかなりウケたぜ!」

「意志強っ」

「ありがとうございます」


 褒めてないわ。


「お、そうだ。今暇だろ? 茶でも飲もうぜ」

「いいよ」


 少し落ち着いて考えてみようかな?

 テュラの提案を受け、場所を移す為に中庭に歩みを進めた。


「私、割と自分で自分を守れるって言うんだけど全然だめ。きかないのよ」

「確かにそのへんの騎士より強えもんな。てかお前チートでも目指してんのかよ」

「それもありね」

「まあお前の前世の前世はチートだったからな」


 テュラは魔法の力が強い故に他人の前世が見えるらしい。ちなみに私の前世の前世はやり直す前の世界のチート令嬢だったとか。世界設定の説明からお願いしたいわ。やり直す前の世界ってなによ。


「で? ヴォルム、お前ディーナ口説くにしても分かりにくくね?」


 ソフィーを呼んでお茶を出してもらった。

 どんなに忙しくてもお茶の時間は必須にしてたなあ。ヴォルムも頼めば同じテーブルで飲んでくれてた。


「ディーナ様には引き続き護衛が必要で、その役割が俺だと自負しています」

「護衛中毒」

「ディーナ様、俺は真剣に話しています」


 今も護衛してるつもりなのだろうか。一向に言葉遣いが真面目なままね。

 もうここまで堅苦しくなくていいと思う。


「気兼ねなく話してくれていいよ?」

「いえ、それは……」

「なんだよ、お前今更照れてんのか?」

「そんなわけないだろう!」


 図星じゃん。

 今更照れる要素ある?


「ディーナ様、こいつはいいんですか」

「こいつって……テュラは引継ぎがあるから会う頻度は増えるよ。それにいつもこんなでしょ?」

「やはり引継ぎの三ヶ月は俺が護衛します」

「なんでやねん」


 テュラが大笑いする。


「ヴォルム、お前見苦しいな」

「……黙れテュラ。昔のよしみでも許さん」

「何をだよ」


 本当にね。

 言葉が足りなさすぎ。


「ヴォルム、これからの護衛はエネフィ公爵令嬢がいいと思うよ」

「嫌です。俺はディーナ様だから護衛の仕事を受けていたんです」

「そうじゃないだろ。本音は別にあるくせに」

「テュラ!」

「おお、こわ」


 おどけて肩をすくめるテュラを見て、次にヴォルムを見る。


「本音あるの?」

「いえ、それは……」

「あ、別に言いたくないなら言わなくていいよ」


 でも護衛は本当に大丈夫だと伝えた。

 エネフィ公爵令嬢の周囲を手厚くしたい。殿下付きだった四人が加わるとそれが叶う。プランBとしては望ましい姿だ。それができないなら、殿下とエネフィ公爵令嬢との結婚するまでヴォルムには大人しくて貰う方がいいだろう。


「ディーナ様」


 何かを言おうと思ったのか、口を開くもテュラに視線を寄越して真一文字に唇を結んでしまう。


「分かりました……なら俺もなりふり構わずいきます」

「なりふり構わず?」

「使えるものは全部使います」

「それはいいことだね」


 ぶふっと笑うテュラを横目にヴォルムの決意を褒め称える。何事も全力で取り組める姿勢は素晴らしいことだと思うし、そもそもテュラが笑う程面白いことを言ったとは思えないんだけどな。


「マジうけるわ」

「なに? テュラってばさっきから笑ってばっかね」

「お前、明日あたりこいつ面白い事すんぞ」

「そうなの?」

「俺は真面目です」


 テュラが変わらず笑う。

 彼の言う通り、翌日私は衝撃に震えることになった。


* * *


 翌日朝。

 手紙を持った父がテンション高めに報告してきた。


「ディーナちゃん。リーデンスカップ伯爵令息から婚姻の申出があったよ!」

「はい?」

「ヴォルム・ローグル・リーデンスカップはディーナ・フォーレスネ・ループト公爵令嬢に結婚を申し込みたいと存じます、だって」

「け、結婚?!」

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。

翌日に婚姻の申し出ができるなんて、あきらかにあらかじめ用意してたでしょとしか思えない(笑)。まあ見苦しくもなりふり構わない護衛をお楽しみください。



記録

ディーナの強さレベルと強さ歴史について言及

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