46話 正ヒロインとディーナの関係
「ウケる」
「やめてよ……」
結局抱きしめられた姿をテュラに見られ恥ずかしい思いをした。ヴォルムは満足そうで、顔には出さないまでも明らかに機嫌がいい。
「俺の出番ねえし」
「来てくれてありがと」
テュラはヴォルムのことを聞いて転移で駆けつけてくれた。
ついでに私とヴォルムを回収してドゥエツ王国本土に戻る算段だったらしい。
「てか俺が治癒するとか言ってもお前断ってるだろ?」
「当たり前だ」
「なんで断るのよ」
前もヴェルディスに言われた纏う魔力の問題らしい。さっきの魔力譲渡によって、ヴォルムの魔力に私の魔力が混じりあっていると言う。
「分け与えたのかよ」
「うん」
諸島での治癒した人々とは違う。
ヴォルムの希望と、ヴォルムとの約束にそってしただけだ。
「お前らは年齢指定、他は全年齢、だな」
「全然分からないよ?」
「今のこいつは「俺はディーナのものです」って主張してるってこった」
「ふむ?」
まあいいやスルーしよ。ヴォルムも満足してるしね。
「で、戦えるな?」
「当然だ」
「じゃあ行くか」
一旦引いたと思われたセモツ国の海賊が再び現れた。
場所はドゥエツ王国西側の海上。
もう一つ、東側にも出たけど、キルカス・ソレペナ二ヶ国で対応してくれる。
「諸島の配置は揃えた。ネカルタス王国からも出てる」
「安心して戻れるわね」
「そいや、シャーリーの義妹は消えたぞ」
セモツ国のスパイと分かった以上ソッケ王国に戻るはずもない。
「あの義妹どうすんだ?」
「普通に殴るわよ」
私の前を阻むなら、他の皆と同じだ。
「いいな。お前のそういうとこ好きだぜ」
「ありがと」
ヴォルムが嫌な顔をしたので、友人としてよとフォローしといた。明らか本気でないのにだめなの? テュラがいつも通り笑う。
「いくぞ」
「ええ」
領主のバーツのところに顔を出した。ここから先は彼を筆頭にした諸島の騎士たちで凌いでもらうしかない。
「よろしくね、バーツ」
「ええ……その、ループト公爵令嬢」
「なに?」
「このような時に言うものではありませんが、お願いがございます」
「いいよ」
「ソッケ王国に暫く滞在したいのです」
内容としてはバーツがやってる伝統工芸の材料の良質な素材がソッケの南、災害で流れた場所から出てきたらしい。
「戦いの最中言うことではありません。それに戦いが終わったとて領地管理がありますし、その、」
「いいよ」
「え?」
「好きなだけ行ってきて。いいもの作る方が大事だし」
「しかし領地は」
「んー、じゃあバーツ不在の間は私がみるよ」
「はい?」
セモツのことが片付いたら六ヶ国協定の強化に入るだろう。会談を諸島の一つトゥですればいいし、戦争さえなければ貿易の中継地点なだけだ。それにセモツに勝ったとして残党は少なからず残る。その対応に諸島には抑止力が必要だ。私なんてうってつけ。
「じゃ、決定で。書状だしとく」
「そんなあっさり?」
「うん。エーヴァ連れてってね」
「そ、れは勿論です」
おや反応が以前と違うな? もしかしたらもしかするのかしら?
「ふふふ、いい報告期待してるわ」
「……はい」
相変わらずだなとテュラに笑われながらバーツの元を去る。
「自分でフラグたてるとか笑える」
「人間国宝は守るべきよ。私はこれから時間あるだろうし臨時領主余裕でしょ?」
テュラが呆れてヴォルムに話を振った。
「難儀な奴を好きになったな?」
「魅力的だと言え」
「ウケる」
* * *
開戦は早かった。ドゥエツ王国に転移してすぐ、セモツ国が動き出した。
「出よう」
「はい」
セモツが用意した魔法陣をテュラが全て無効化してくれて戦いがすごく楽になった。後は魔法薬の散布も魔道具効果で相殺すれば純粋な力での戦いになる。ほぼ殲滅戦に近い。
「よっと」
骨がない。軽々しく倒せる。
仮面の人間もいたけどルーレたちほどじゃない。他の海賊よりは強いけど、洗練された感じはなかった。
「ディーナ様、ドゥエツ王国が強いだけです」
「そっか」
ルーレたちもドゥエツ生活が長かったから強くなったのかな?
「ディーナ様の元にいるだけで強くなれます」
「そうなの?」
「はい」
そういえば一緒に訓練参加お願いしてたかも。そこかな?
「あ、ルーラ嬢」
「やはり出たか」
「あら、死んでなかったの」
がっかりねとなんてことないふうに言ってのける。
相対する間もなく乱戦に突入した。ヴォルムに使われた致死量を超える魔法薬は持っていない。
ひとまず周囲を減らしてからルーラ嬢に向き合うとしよう。
『まーまー。六ヶ国とセモツの皆さん、いやこれはセモツ宛のメッセージだな』
再びヴェルディスが広域放送かけてきた。戦い続ける場に緊張が走る。
『俺が! ヴェルディス・グラティコスが出てきてやったぞ! どうだセモツ? 俺をどうしたい?』
「え、ここにきて煽るわけ?」
『まーどっちでもいいが、最強の魔法使いを奪いにきてみろ。出来るものならな』
自分で最強と言うあたりさすがと言うべきね。自分を囮にするなんて格好良いわ。
『ちなみに船に乗って諸島を越えたな? ドゥエツ王国に向かってるぜ』
これで諸島に影響はでない。生かすか殺すかはさておきとして、セモツ国は総力をあげてヴェルディスを取りにくる。
「にしても、身バレしたから突撃というのも違和感があるわね」
余裕がないのは事実だろう。六ヶ国協定が成立した手前、今後協定の内容が強化されていけば今のように動くのは難しくなる。そうなるとやはり今やるしかなかった、というところかな。
「ディーナ様!」
背後からの気配にヴォルムが対応した。
「ルーラ嬢」
加えて仮面の人間が十人程加わる。
「狙われてるわね」
「ディーナ様!」
「大丈夫、油断しないわ」
互いに背中を預ける形で戦い始める。中々骨のある人間を集めたようで速さも強さも上がっていた。
さて戦いながら訊いてみようか。
「ルーラ嬢、伺っても?」
「……」
「なんでわざわざ大規模な行動に出ました?」
「……」
応えないかあ。
「もしかして各国のお偉いさんの一部分を排除または拉致しにきたんじゃなくて?」
「あなたって感がいいのね」
正直に応えてくれて助かる。
「あのうざい魔法使いも連れてほしいみたいだけど、それは無理。だから各国でそこそこの人間を連れてくるか殺すかってなってるわ」
「それ話していいんですか?」
「気づかれてるならいいんじゃない?」
この子はセモツ一筋感はない。海賊の方が余程口が堅かった。
「昔からあなたのとこは狙われるわね。あなたもターゲットになったのは可哀想」
「昔から?」
嫌な予感がした。あなたもって?
「あたしたちは魔法薬の致死量をずっと調べてきた」
ぞわりと不快感が足先から登ってくる。
「あなたの母親はしぶとかったからあまりいい結果はとれなかったわ」
「待った」
まさかね、なんてことはなかった?
「お転婆なあなたの面倒みる仕事まで追加されて辛かったのよ。あたしの目的はあなたの母親で致死量を調べるだけだったのに、あなた付になるんですもの」
呆れて困った顔をして「お嬢様、だめですよ」と言ってた可愛い侍従がいたわね。母も気に入っていた。
「あの栗毛の侍従はルーラ嬢?」
「あら、覚えててくれたの?」
嬉しそうに綻ばせるルーラに怒りの沸点を超えた。
ぶわりと魔力が溢れる。
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。
7話で”私付きなのはソフィーぐらいだ。十年前にもう一人ぐらいいた気がしたけど……”と描かれたいたのは、この瞬間の為です。思っていた以上に出張るゲーム正ヒロイン。ディーナのトラウマを的確に抉ってきますね!大丈夫、乗り越えている案件ですので!




