34話 「あら、わんちゃん」「私の護衛です」
「ようこそ、ファンティヴェウメシイ王国へ」
「急な申し出にお応え頂きありがとうございます」
ファンティヴェウメシイ王国には魔法大国ネカルタスの王子が嫁いでいたので同じく魔法で移動できた。
次期王である現王女は強めの感じはあるけど明るく気さくな女性ですぐに意気投合した。お相手のネカルタスの王子は穏やかな男性で、すぐに手はずを整えて件の戦争の英雄の元へ転移してくれた。
「ウェズブラネイ・メシュ・ポインフォモルヴァチと申します。こちらが妻のウツィア」
「ドゥエツ王国外交を担っております。ディーナ・フォーレスネ・ループトと申します」
背の高い赤髪の男性と小さく可愛い金の髪を持つ女性。年の差があるとは聞いていたけどそこまでにも見えない。にしても二人してすごく綺麗ね。
「話は伺っています。セモツ国のことであれば全てお話ししましょう」
「ありがとうございます」
王族分家のポインフォモルヴァチ公爵は不愛想な表情の割に丁寧に対応してくれた。なにより夫人が大好きな様子で、彼女を見つめる時だけ目元が緩んでいる。戦争の英雄とは思えない甘い雰囲気まで纏わせて可愛いものだ。
「我が国の国境線ギリギリを通って迂回していると考えられます。ここから馬を走らせ見に行かれますか」
「お願いします」
室内でセモツ国の情報をたんまり聞いた。ポインフォモルヴァチ公爵がセモツ国で潜入捜査をした時に多くのセモツのスパイを教育している現場があったこと、陸も海も制覇できるよう武力強化に余念がなかったこと、ファンティヴェウメシイ王国を攻略しその先の魔法大国ネカルタスへ侵略をしたかったことを教えてくれた。正確にはネカルタスを滅ぼすことなのだろうけど。
「国境線を通っているとして、頻度は分かりますか?」
「最近は動きが活発ですので三日に一度ぐらいかと。少ない時は一週間から十日に一度と把握しています」
多い方かもしれないけど、そうなるとファンティヴェウメシイ王国に滞在して動向を見る時間が増える。ヴェルディスにはスパイのこともどうにかしてほしいと言われているけど、どうしたものかしら。
「?」
ふと握っていた掌に違和感を感じて開く。
小さな紙切れが出てきた。
「ヴェルディス……」
「ループト公爵令嬢?」
マジックをここで披露する気? 魔法で私の掌に手紙を添えてきたわ。
中身は暫くファンティヴェウメシイ王国に滞在してろという内容だった。
六ヶ国協定は書状を送ったから各国検討中、スパイ問題は後でもいいという意味ね。ここにきてまた最適な未来がみえたのだろう。
ということなら、私はやりたいようにやるしかない。
「セモツ国の動きを知るために暫くこちらに滞在したいのですが、よろしいでしょうか?」
「構いません。公爵邸に賓客用の部屋がいくらかありますのでそちらを」
けど、この公爵邸から国境線まで馬を走らせないと厳しい距離だ。
できればつぶさに確認するっていうので国境線ギリギリのところを拠点にしたい。
「国境線付近で拠点にできる宿泊施設はありますか」
「いえ。小さな村があり、侵略の可能性を考え対応できる人間を置いていますが……ループト公爵令嬢、まさか」
「ええ、その村に滞在したいですね」
二十四時間といかなくとも監視時間が長い方がいい。毎日馬を走らせてたらセモツ国に感づかれる可能性もあるから、村の人数が一人増えたぐらいに思われる滞在の仕方がいいだろう。
「……農業を行っていた老夫婦の家があいたとは聞いてはいますが」
「あ、それならそこで充分です」
老夫婦は王都の息子夫妻の元へ移住したらしい。最近の話だから家もまだ綺麗なままだとか。ちょうどいい。
「しかし他国の要職に就く未婚の令嬢を御一人で滞在させるには適切ではありません」
「お気になさらず」
「……村長に交渉します。本日は我が公爵邸でお過ごし下さい」
「分かりました」
スローライフができそうで逆にいいんだけど、なんて思ったのは別の話。迎え入れる公爵の立場もあるだろうから、今日の一晩はお言葉に甘えることにした。
その後はさらにもう少しセモツの話を聞き、夫人も連れて三人で公爵邸の敷地外へ出る。村長と空き家の話をするのもあるけど、まずは一目国境線を見ておきたい私の要望を汲んでくれて、馬に乗って現場に向かうことになった。
「では馬をいくらか連れて来ましょう。相性の良い馬がいればいいのですが」
公爵が馬舎に行こうとした時、一つ吠え声が響き三人して声の主へ顔を向ける。
黒よりの灰色の毛並みをした大きな犬が走ってきた。
毎月満月の夜にしか会えないあの子、ブランだ。今日はタイミングよろしく満月だけど、まさか現れるなんて。
「あら、わんちゃん」
公爵夫人が和んでいる。動物好きなのかな?
「待てウツィア」
近づいて撫でようとした夫人を公爵が止めた。
「大丈夫ですよ。悪い子じゃなさそうです」
「……中身をみるんだ」
「え?」
おや、その言葉を使うってことは夫人もヴェルディスと同じ力の持ち主なの。そういえば、真の聖女は彼女だと言っていたわね。でも何故公爵は分かったのかしら?
「可能性を王女殿下から伺っておりますので」
「そうなんですか」
この人もエスパーかなにか? 私、声に出してないんだけど? それとも男性には割と標準装備の能力とかじゃないよね?
と、みたのか夫人が嬉しそうに声を上げた。
「まあ! 私ったらなんて失礼を」
「いやまああの姿で来たら誰でも勘違いすると思いますよ」
「ループト公爵令嬢の知り合いか?」
「ええ」
目の前で大きな犬が姿を変える。
今はあまり会いたくなかったなあ。
でもなりふり構わず来るってヴェルディスの言った通りになった。
「私の護衛です」
「ディーナ様!」
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。
タイトルバレがひどいですね~!(笑) そして前作のヒーロー&ヒロインであるウェズとウツィアの登場です!二人にはもう少し出演してもらいます。そしてもふもふの出番はもう一回あるかな?って感じです。