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32話 ヴォルムだけが、特別

「ディーナ、うちと結婚する気あるか?」


 ヴォルムとのことを散々訊いといてなに言ってるの?


「うちって?」

「そのままだよ。ネカルタス王国とドゥエツ王国で結婚ってことだ」


 政治的な話か。


「誰と?」

「んー、まあ手っ取り早いのはドゥエツ王国にいるテュラだな。こっちにも有力な魔法使いはいるけど」

「テュラは良き友人でそれ以上でも以下でもないわ」

「良き友人のまま結婚して、そのままの関係で暮らせばいいじゃねーか」


 結構ぐいぐいくるのね。私が仕事辞めてスローライフ送りたいってのもみえてるのに。

 というか、さっきヴォルムへの気持ちを訊いてきたくせに、今他の相手で結婚の話持ち出すってなんなの?


「他の国とのバランスがあるでしょ」

「残念、ドゥエツ王国が最適なんだよ」


 魔法大国ネカルタスの隣国、ファンティヴェウメシイ王国とソレペナ王国とはそれぞれネカルタスの王族を排出して婚姻関係を結んだ。そうなると海を渡った三国が対象になる。


「キルカス王国は王女の拉致監禁があったからなしだ。ソッケ王国は悪役令嬢諸々の件で国内が整ってないしスパイが幅利かせてるからこれまたなし。ドゥエツ王国はテュラという前例もあって関係良好。な?」


 確かにキルカス王国と今婚姻関係を結ぶのは難しい。もう少し時間をかけないと王女の嫁ぎ先であるソレペナ王国が黙っていないだろう。

 そしてソッケ王国については、私の考え通りシャーリーの義妹であるルーラが悪意と絡んでいる場合、魔法大国ネカルタスは関わろうとしない。精々セモツ国とこの六ヶ国の件が解決してから婚姻の話を持っていくだろう。

 となると、テュラという魔法使いが要職として派遣され協力関係を維持しているドゥエツ王国が適当であるのは言うまでもない。王太子殿下はシャーリーと婚姻しているし、他の有力な人間を考えるなら私は候補にあがる。


「俺とでもいいぜ?」

「最強の魔法使いの札をここで出すの?」


 それこそパワーバランス的によくない。


「んー……その辺の媚びる令嬢と比べてディーナは気兼ねないからな」


 ヴェルディスはヴェルディスで大変そうね。


「他がいいってんなら、俺以外でも有力で高爵位な男共はいくらでもいるな?」

「爵位は求めてないし」


 政治的な結婚なら高爵位同士の方がいいのだろうけど、私個人としては貴族さまさまな生活を望んでいるわけじゃない。


「まー、今うちの社交界出てもそんな状態じゃ声かかんねーだろーけど」

「どういうこと?」

「魔力」


 直近ヴォルムの魔力を分けてもらったのが原因で、私から感じる匂いがヴォルムであるらしい。


「マーキングされてんな」

「魔力の匂いなんてネカルタス王国だけでしか通用しない話でしょ」

「しかもそれ」


 指をさされた先にはヴォルムから預かったネックレスだ。


「ああ、GPS搭載の」

「俺のものですって主張しやがって」

「そうなの?」

「ディーナだって察してんだろ。それが何を証明しているか」

「重要アイテムってことぐらいだけね」


 お家柄は最低限知っている程度だ。深い話は知らないし、ヴォルムから聞いていない。


「つーか、敢えて話振っても全部断るんだからよ。ディーナもあいつがいいんだろ? いねえと淋しいつーたしな?」

「それは……」

「なんだよ。さっきあんな顔しといて今更じゃねーか」


 確かにそう。さっきまざまざと突き付けられた。ヴェルディスにはばっちり見られている。


「どんな顔してたのよ」

「あ?」


 訊くのかよと嘲笑う。ここまできたらいっそ全部晒してやるってことでしっかり頷いた。ヴェルディスの機嫌がよくなる。


「捨てられた犬だな」

「……恥ずかしいわね」


 それもいいじゃねーかと笑う。機嫌がよくなった彼は「じゃーもう一つ気づかせてやる」と立ち上がった。


「おい、立て」

「ん?」


 素直に立ち上がるとヴェルディスが隣に立って手を出した。


「婚約者候補だと思って手を取ってみろ」

「どういう?」

「これから恋愛をする相手だと思って手に触れてみろ」

「……」


 ただのエスコートなら誰の手でも触れられる。

 なのにヴェルディスと恋人的なお付き合いをするために手を取れるかと言うとすごく抵抗感があった。私ってこんな潔癖じゃなかったはずなのに。一刻も早く手を離したくなる。


「その感情が答えだ」

「うん、そっか」

「あいつの手を同じ気持ちでとってみろ」


 それってもうゴール見えてるわね。


「とらなくても分かるよ」

「はっ! 六年もかけてお前ら何してんだかな」

「そうだね」


 社交界で王太子殿下の代わりにファーストダンスの相手をしてもらっても、怪我をして抱きかかえられても、魔力を分けてもらう時に手をとられても……どれをとっても不快感なんてどこにもなかった。

 ヴォルムだけは大丈夫。


「テュラはいい仕事したな」

「え?」

「本当は三人入国できたんだが、事前にテュラから手紙が来てた」

「内容は?」

「ディーナだけ入国を許可しろって」

効果覿面こうかてきめんだよ」


 ヴォルムだけが、特別。

 この瞬間、はっきりと決定づけられた。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。

ある種のエンダアアアイヤアアアアが達成されたわけで(笑)。14話でルーラのボディタッチを避けるヴォルムを見て潔癖とか言ってたディーナですが、ディーナ自身が割と潔癖じゃんって話。14話ボディタッチの件でディーナが実は安心しているので、ここでヴォルム好き自覚あってもよかったかなと思わなくもなかったですが、やっぱりここで自覚で正解でしたね。

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