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27話 嫌な予感

「終わりましたか」

「うん。お待たせ」


 よし、いつも通り喋れる。さっきまでおかしかった自分が不思議なぐらい。


「ループト公爵令嬢、ソレペナ王国との事に加え、騎士達の指導までして頂きありがとうございます」

「いえいえ、楽しかったです」

「はああ……ループト公爵令嬢、相変わらずいい筋肉ですね!」

「ふふ、ありがとう」


 そういえば! と女史が手にしていた本を一つ掲げてきた。


「お二人の筋肉についてです!」

「?」

「ヘイアストイン女史、唐突すぎる。丁寧に説明を」

「あ、そうですね」


 曰く、筋肉が密集し内包している人間はそういない。常人の倍以上の力になるからだ。ただ稀に魔物の血を引いていれば出現率は上がるという。女史の持つ本は大昔の伝承で、その中の救世主は常人の倍以上の力の持ち主だった。その救世主は魔物の血を引いていた。


「あ、そういうこと」

「ディーナ様、心当たりが?」

「ループト公爵家の家紋」

「家紋……龍ですか?」


 しっかり頷いて応える。


「祖父が“うちはドラゴンの加護がある”って言ってた気がする」


 小さい頃だからうろ覚えだけど。その加護がドラゴンの血筋であることを示していて、伝承のように筋肉に現れているのが証拠、とか?


「推測でしかないけどね」

「いいえ! 素敵です! あああ、ずっと見ていたいです」

「やめなさい」


 騎士団長が注意を促す。見るぐらいなら構わないけど、と言おうとしたところで騎士団長が話を続けた。


「お二人にお伝えしたい事がまだあります」


 それはキルカス王国、王城内で起きた魔法薬の事件だった。

 南端ラヤラ領で王女監禁事件が起きる前、紅茶の香料もしくは気付け薬、栄養補填薬として得体の知れない魔法薬が出回り、複数の体調不良者を出したと言う。


「出所が掴めませんでした。ヘイアストイン女史は侍女から譲り受けたらしいのですが、その侍女も侍従から、侍従もまた他の侍女からと人を介していて最初の人間に辿り着けなかったのです」


 加えてキルカス王国では魔法薬の分析ができなかった。へたに魔法に頼らず筋肉一筋だとこういうこともあるだろう。ドゥエツ王国のテュラみたく魔法大国ネカルタスの人間がいれば魔法薬の分析も早かっただろうに。


「その魔法薬、ドゥエツ王国が預かっても問題ありませんか? 分析をネカルタス王国から来ている魔法使いに一任したいと思います」

「ええ、是非お願い致します」


 王城に蔓延していた魔法薬を片っ端から集めて数十本に及んだらしい。数本ドゥエツ王国に送り、一本個人的に頂いた。


「にしても、よく見分けがつきましたね」

「ヘイアストイン女史のおかげです」


 女史は魔法薬の香料を垂らした紅茶を騎士団長と一緒に飲む時、一口で違いに気づいた。団長は飲まずに済んだものの、一口飲んだ女史は体調不良に見舞われる代わりに目と味覚に影響が出ている。

 その影響故に魔法薬を少し舐めれば判別でき、魔法薬は目で見ても違和感を感じるらしい。


「この薬を解明できれば女史の症状も治るのかと思いまして」

「そうですね。早急に対応しましょう」


 私は別にこのままでもいいんですけど、と女史が苦笑した。今は見分けがつく便利な能力として残っているけど、これがいつどう転ぶか分からない以上早くに治した方がいい。それを伝えるとそうですよねと少ししゅんとした。落ち込んでるように見えるけど……そんなにその能力が必要なのだろうか。


「現在、キルカス王国内で魔法薬は見られません。流布した人間ももう国内にいないと踏んでいます」


 行動が早いわね。こうなると分かっていたかのような動きだ。


「それでも体調不良者がたくさんいるんです! 次またあるかもしれないから私、この力で少しでも止めたいんです」


 成程。女史が治したくないのはそこか。仲間を守るため、未然に防ぐ武器にしたいってことね。


「ヘイアストイン女史の心配がなくなるよう、根本から一気に片づけましょう」

「ディーナ様?」


 ここまできたらやることは一つ。


「ヴォルム、答え合わせに行くよ」

「どちらへ?」

「ネカルタス王国」


 その言葉に騎士団長と女史が驚く。無理もない。あの引き籠り魔法大国がそう入国を許すわけないからだ。


「こんな時のためにテュラから入国許可の書状をもらってる」

「成程」


 というか、ソッケ王国に行く時にテュラがこれを渡したあたり、遅かれ早かれ私が魔法大国ネカルタスへ行くことを分かっていたということだ。これだから魔法使いってやつは、よ。分かってるなら先に言ってくれてもいいのに。


「テュラに魔法陣のことも魔法薬のことも頼むけど、私は私で先に動くわ」


 テュラがドゥエツ王国で解析することで我が国が主体となって国同士、国ごと動かすことができる。その間に私は個人で動いて真相解明する算段だ。


「何もおもてなしできず申し訳ない」

「いいえ、こちらでは実りがありましたし、御二人には助けられました。きっとまたすぐにお会いすることになりますよ」

「嬉しいです!」


 女史が大喜びする。


「御二人の結婚式には是非参列させてください!」

「ん?」

「え、ループト公爵令嬢とリーデンスカップ伯爵令息は婚約されているんでしょう?」


 ヴォルム話してたの、と問うとにっこり営業スマイルが返ってきた。話したのね。


「ヘイアストイン女史は騎士団で仕事をされていますので、騎士の皆さんにも満遍なく伝わるでしょう」

「そして周知の事実へ」

「そうですね」

「護衛と令嬢の恋は王道です!」


 ヘイアストイン女史が楽しそうだ。こうなるともうキルカス王国内で私とヴォルムの婚約の話が行き渡る。

 けど考えてみれば私とヴォルムが婚約してて、シャーリーと王太子殿下が結婚したことが伝わればソッケ王国とドゥエツ王国の関係は良好であるとキルカス王国に伝わり、三国同士のへたな緊張なく今まで通り協力関係を維持しようという着地点に収まるだろう。

 となると、これでよかったのかな? 


「キルカス王国騎士団の中に本気の男が何人いるか分かりませんが、これで安心です」

「ヴォルム?」

「独り言です。ディーナ様、ネカルタス王国へ向かいましょう」


 機嫌がいいわね。

 さっきまでの妙な不快感と安心感がなくなり、私もいつも通りヴォルムと一緒にいられる。これなら問題なく魔法大国ネカルタスへ行けそうだ。まあ体調悪くなったとしてもネカルタスへ入れば魔法一発で治してくれるし。


「久しぶりにリッケリにも行けるしいいわね」

「はい」


 大陸と三国を挟む海に存在する七つの島が連なった諸島領地リッケリ。

 ここを経由して魔法大国ネカルタスへ向かう。


「とはいえ、ここまで体調不良が広まっていると嫌な予感しかしないわね」

「ディーナ様?」

「ううん、独り言よ」


* * *


 そして私の予感は諸島リッケリで的中することになる。


「随分騒がしいね?」

「諸島西端の島エンが海賊に襲われまして」

「海賊以外になにがあるの?」

「ここにきて件の体調不良者が急激に増えました」

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。

嫉妬に自覚しつつも!自覚しつつも!

ヴォルムはヴォルムでライバルが多そうなキルカス騎士団を一気に片づけようとするし(笑)。はよくっつけ、と思いますね~!

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