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26話 嫉妬を知る

 ヴォルムと自然地帯ローントの小屋で一晩過ごした翌日早く、キルカス王国のヴィエレラシ騎士団長とソレペナ王国のアイサルガー騎士団長がそれぞれ直轄一部隊率いて到着した。あの拳によって飛ばされた賊の方向から来たあたり予想通りと言える。

 ちなみにそれは一昨日の話、つまり今は南端ラヤラ領へ向かった日から三日経った。


「防災用のカレーを普段食べられるように広めたいわね」

「お気に召しましたか」

「朝カレーが特によかった」

「確かに甘味が増していましたね」


 ヴォルムと作ったカレーは本当美味しかった。防災用じゃなくて普段使いしたい。


「ラヤラ領の監禁場所も見られたし収穫大きいわ」

「魔法陣が刻まれた建物ですね」


 ヘイアストイン女史が気づいていたけど、魔法に詳しい人間がキルカス王国にはいないため、王女監禁事件の資料には載っていなかった。王女誘拐で魔法が使われていること、今回の布告文に潜ませていた転移の魔法陣、そして魔力暴走による体調不良。魔法がそこかしこに絡んでいる。


「テュラに魔法陣のことで手紙出したけど大丈夫かな?」

「問題ないでしょう」

「海賊と魔法とルーラ、ねえ」


 海賊が末端で動き、その裏シャーリーの義妹ルーラが絡みつつ、さらにその先になにかがある。

 一連の乙女ゲームにおける悪役令嬢シャーリーの断罪を跳ね返すだけでは終わらない正ヒロインってなんなの?


「一先ず約束を果たすことにしますか」

「ええ」

「じゃ、いってくるね」

「はい」


 というわけで、無事キルカス王国・ソレペナ王国との衝突を話し合いで済ませ、王都へ帰還後最初にしたのは一睡もしていないヴォルムを寝かしつけることだった。私が単独行動しようものなら起きていると言うからもれなく私も睡眠摂取だ。

 そしてさらに翌日、騎士団の鍛練場へ赴き、キルカス王国騎士団の指導をすることになった。それが今ここ。向かってくる騎士をちぎっては投げちぎっては投げな感じだ。勿論、改善点も伝える。


「次!」

「よろしくお願いします!」


 左ストレートを右手で受け止める。力は並ね。次に左足を私の腰めがけて蹴りあげてくるのを左手で止め、同時に右手を半回転させて最初の拳を僅かな時間無効化。受け止めた左手で相手の左足を下に押しつつ私自身の右足を少し下げて力をこめる。これだけで相手はバランスを崩した。下半身は割としっかりしてるけど上半身が弱くて振られてしまっている。


「脇が甘い!」


 みぞおちに右拳で一発打ち込む。吹っ飛んだ騎士は後方に控えている待機の騎士たちが受け止めた。


「上半身、脇と腹斜筋鍛えてください」

「ありがとうございます!」


 ローント自然地帯にいた賊はソレペナ王国が引き取った。二国間の危うい空気は解消、さっきまで私が仲介役の上で関係強化、海賊対策の協力関係樹立での話が纏まり、やっとここに来れた。


「次!」

「はい!」


 鍛練場の端でヴォルムが待機している。そこにヴィエレラシ騎士団長とヘイアストイン女史が合流した。キラッキラの顔をしてこちらを見ている女史に手を振る。あ、女史がわいたわ。


「隙ありです!」


 死角から蹴りが横に回されるのを片手でキャッチ。


「大振りな技は止められた時のカウンターによるダメージが大きい」


 同じく足でみぞおちを叩く。おや、思ってたほど筋肉がついてないわね。


「基礎体力、基礎筋肉をつけてください」

「はいぃ!」

「次!」

「はい!」


 再び視線をヴォルムに戻すとヴィエレラシ騎士団長とヘイアストイン女史が談笑する姿が見えた。女史が変わらずキラッキラの瞳をヴォルムに向けている。騎士団長が諌め、ヴォルムが微笑んで対応していた。

 外交時、私に付き添い周囲と軽く会話を交わす時のヴォルムの顔、いつもの光景だ。なのについ視線を向けてしまう。

 そりゃ小屋で一晩過ごした時のような密着が私以外であるとは思えないけどね……あれ?


「ん?」

「武人様、お覚悟!」


 いけないいけない、指導に集中しないとね。

 今度の騎士の速いジャブを全て手で受け、疎かになった足元を掬うとあっさりバランスを崩した。

 そこにかかと落としだ。首の付け根に入って一瞬意識を飛ばしている。他の騎士がサポートに入って回収した。


「ジャブはあくまで目眩ましに使うのがいいかな? もう一つ強みを持つのと、足元に注力。足首を柔らかくするといいです」

「ありがとうございます!」


 気になってヴォルムの方をまた見てしまう。

 おかしいわね?

 ヴォルムが物腰柔らかく他国の要人に対応するなんて日常茶飯事なのに妙に気になった。

 しかも今回はキルカス王国、ヴィエレラシ騎士団長がいる。彼とヴォルムは騎士として個人的に仲が良いのもあるから親しげに話すことはおかしくない。


「んんん?」


 最後の騎士を殴り飛ばして騎士の指導が終了した。騎士たちに挨拶してヴォルムの方へ足を運ぶ。ヘイアストイン女史がヴォルムに笑顔で近づく。手を上げているのはヴォルムの筋肉を触ろうとしているのかな。

 その瞬間、お腹の奥が重くなった。ずくりと音を立てる。なにこれ。


「ヘイアストイン女史」

「あ、すいません団長」


 女史の手が引っ込まれてほっとしてしまった。お腹の重みがなくなり不快感が去る。


「……なにこれ」


 初めて経験した。殴り合う中の痛みとは全然違う。長く続いたら耐えられないような苦痛。

 気にしないようにと止まりそうになる足を動かす。もういっそ強化使って一瞬で間を詰めようかと思った時、ヴォルムが私に気づいた。視線が交わり、最初に顔が向けられ次に身体がこちらに向く。瞳の輝きがくるりと一周し、次に目を細めて……嬉しそうに微笑んだ。


「っ!」

「ディーナ様」

「!」


 違った違和感が巡った。なにこれ?

 心臓の血が一気に胸から上に駆け上がった。息が一瞬詰まる。顔から熱くなり、次に身体に熱が駆け巡った。

 変だ。おかしい。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。

無意識下ではぶっちゃけ好きなんやろって言えるディーナの心内が初めて自覚を持ちましたねー!ひゃっはー!安心して下さい、ヘイアストイン女史 (ミナ)とヴィエレラシ騎士団長 (オレン)が次作品のカップルなので他に色目使うなんてありえませんぞ!

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