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24話 罠に嵌る

「武人様に続け!」

「武人様!」

「武人さまああ!」

「いや、騎士団長に続いてくださいね?」


 世紀の決戦みたいな雰囲気だよ。


「はは、さすがループト公爵令嬢ですね」

「笑いごとではありませんよ」

「いいえ、あまり緊張せずに済んで助かってます」


 馬に乗り、騎士団長率いる精鋭部隊に囲まれながら進む。王都からは近く、ソレペナ王国の軍勢は上陸せず海上で待機していた。

 交渉願いの文書を届けると小さな船に乗って来るソレペナ王国の使者と護衛二名。一番偉い人と話せるなんて効率が良い。


「ループト公爵令嬢?」

「お久しぶりですね。アイサルガー騎士団長」


 私に驚きつつも瞳が冷える。ここからは私が仲介しつつ、ヴィエレラシ騎士団長との交渉開始だ。


「此度はソレペナ王国、キルカス王国両国がより良い話し合いができるよう助力させて頂ければと存じます」

「話し合い?」

「ええ。キルカス王国は対話を望んでいます。ソレペナ王国につきましては、どうか剣を交える前に言葉での交わりを許して頂けないでしょうか」

「否としたら?」

「キルカス王国の前に、私と個人的に拳での話し合いですかね~」


 しばし沈黙。


「プハッ! ループト公爵令嬢、貴方は変わりませんな!」

「そうでしょうか?」

「しかも脅すつもりで言っているわけでもないのが不思議だ。ソレペナ王国としても貴方の拳があったから国交を開いた。あの日が思い出されます」


 ソレペナ王国でも王陛下と殴り合いしたしね。アイサルガー騎士団長はその現場見てたから良く知っている。真っ青な顔してたわね。


「いいでしょう。ソレペナは話し合いに応じます。我々とて無駄に血を流したくない」

「ありがとうございます」


 ソレペナ王国としても争いたくないようで簡単に対話に入った。王女の件も解決している。今後の協力関係を維持しつつ、魔法大国ネカルタス王女とソレペナ王国王太子の婚姻が落ち着いた頃に更なる対話と連携強化がはかれればと主張した。


「ただ、これが我が国に届いた。真偽を問いたい」


 広げられた書面はキルカス王国からソレペナ王国に対する宣戦布告だった。


「待ってください」

「ループト公爵令嬢?」

「キルカス王国からのものではありません」


 紙質がキルカス王家で使うものでないし、サインも王印も違う。何度も見てきたから確かだ。ヴィエレラシ騎士団長も頷き「キルカス王国のものではない」と否定し、アイサルガー騎士団長は「今回確かめに来たのだ」と言う。

 ソレペナ王国が軍勢を率いてきたのは、その布告文にキルカス王国が既に騎士一個師団を動かしていると明記されていたからだ。キルカス王国がソレペナ王国へ攻め入る場合、この南端ラヤラ領から船を出すしか選択肢がない。迎え撃つ可能性を考えてソレペナ王国は軍を出した。けど海上で様子を見てもキルカス王国は攻めてこない。


「偽物だとして誰がこのようなことを?」


 二国が争って利益になるのを望むのは海賊の類いが真っ先に浮かぶ。けどこんな地味なことするとも思えない。頭の片隅にシャーリーの義妹ルーラの姿が浮かんだ。まさかね。

 と、紙質にじんわり何か滲むのが見えた。


「いけない!」

「っ!」

「罠です!」


 乱暴に布告状を奪う。すると書面は魔法陣を描き輝いた。恐らくキルカス王国に入り、複数の人間が手に触れたら発動する条件の罠だろう。


「この場で絶対争わないでください!」

「ディーナ様!」


 ヴォルムが私の腕を掴んだ途端、大きな力に引き寄せられ視界が白く染まった。


* * *


「おっと」

「っ」


 転移の魔法陣だ。

 到着した場所は高い木々が生い茂る場所。この魔法陣の力程度ならせいぜいキルカス王国内しか転移できない。となると群生した木々のある自然地帯は南端ラヤラから北西に位置するローント自然地帯一つだけ。


「さて、これはどういうことかな?」

「ディーナ様」


 私とヴォルムを囲う屈強な男どもよ。おっと言葉遣いがよくない、屈強な男性たちよ、ね。


「あれが騎士団長?」

「いや違うな。女の方も」

「!」


 大陸の言語だ。魔法大国ネカルタスでもなくソレペナ王国でもない。ネカルタスの西の隣国ファンティヴェウメシィに近い言語だ。けど、微妙に違う。より内陸で使われているものに近い。


「貴方方がこれを仕込みました?」

「お前こっちの言葉が話せるのか」

「北側よりであればほぼ話せます。で、これは?」


 警戒の色を見せた賊は「仕込んだのは別の人間だけど実行というなら自分たちだ」と素直に話した。

 組織ぐるみで偽物の布告を送る。戦争が起きてもいい。成程ね。


「ここに連れてきたい人物がいた……一番は王、時点で二国どちらかの騎士団長。殺害目的ですか?」

「そうだ」

「貴方方、海賊ですか?」

「まあそうだとも言えるし、そうでもないと言えるな」

「では略奪が目的ではない?」

「いやそれも含まれる。俺らは国を奪いに来た」


 正直に応えてくれてありがとう。これでやれることができた。


「ディーナ様」

「ヴォルム、やれるね?」

「……はい」


 穏便にはいきませんね、と剣を構えた。


「この人数相手で勝てると思ってるのか?」

「ええ」


 折角なので自己紹介しますね、と笑顔を向けた。


「私、ドゥエツ王国のディーナ・フォーレスネ・ループトと申します。外交特使をしております」

「ドゥエツ?」


 なぜここに? という疑問と同時に要人なら殺っていいだろという声があがる。話に応じていた男がなにかを考えるのを尻目に隣の男が刃物を雑に振り回しながら迫ってきた。

 なんとか私のことを思い出したようで叫び止めようとするけど刃物は既に私の目の前だ。


「手を出すな!」

「ざ~んね~ん! 遅いよ!」


 真上から振り下ろされた剣を左に少しずれて避け、振り下ろしてがら空きのお腹に一発拳をいれる。吹っ飛んだ男は大木に体を打ち付け倒れた。ついでに大木も割れて倒れる。


「よかった。手加減したからそんなに飛ばなかったね?」


 大木が倒れる重低音の中、満面の笑みだ。


「先に手を出したのそっちだから正当防衛で通すね! よろしく!」

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。

キルカス・ソレペナ間が穏便にいったのに、結局賊と戦うことになって穏便にはいかずしょんぼりするヴォルム。万が一はないと思っていてもディーナが心配な過保護なヴォルムなのです。そしてこの流れから明日いちゃつきます(どこにその兆候があった)。

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