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15話 ざまあ(殴打)、壁ドン、お姫様抱っこ

「アウト」


 剣が殴られたことで王子の身体が外側に振られる。バランスを崩したところをさらに距離を詰め、左拳を下から上へ垂直に振り上げた。


「ぁがっ」


 風が舞い王子が消える。すぐドゴッといい音を立てた後、城が少し揺れた。頭上からパラパラ砂が落ちてくる。

 テュラが大笑いして、側の義妹が青褪め震えながら視線を上に寄越す。

 私も同じように見上げれば綺麗に頭だけ抜けた王子の身体がブランブランと揺れていた。


「あれ? 城の天井貫通できなかったか~」

「ディーナ様、そこじゃありません」


 すぐに王子が引き上げられる。できた穴から覗く三人を見て軽く手を上げれば頷かれた。

 執事筆頭ルーレ、侍従フォルスク、侍女オリゲだ。私付から殿下付に戻ってもまだ面倒見てくれるなんて優しいわね。


「では我が国の法に則りソッケ王国からお越しの方々は一時的に牢に入ってもらいますか。その後ソッケ王国に正式に引き取ってもらう為に使者を要求します。迎えが来たら帰国して下さい」

「え、どうして? 牢だなんて」

「次期王太子妃拉致未遂、内政干渉、不敬罪、そしてさっき私に剣を振り下ろしたことで宣戦布告ととれます」


 いいですね、殿下と念の為きくとしっかり頷かれた。そして周囲の騎士に指示を出し、腰を抜かした外交担当と割と冷静そうな義妹は謁見の間から離れていく。と、最後の最後で義妹が騎士の制止を振り切った。


「おねえさま、話を」

「はい、待った」


 そうなると思って騎士の側に控えていた私さすが。

 再び彼女の肩を手に置き、トン、と壁際に追い詰める。もう片方の手を優しく壁に添えて囁いた。


「大人しくここを出て頂けます?」

「あたしはおねえさまと話をしたいだけです。おねえさまだって同じだわ」


 まあ主張はそれぞれだから仕方ない。でも今は残念ながらこちらが有利だ。


「正式な謁見の申請をして下さい。御姉様も貴方と話したいなら許可がでますよ」

「あたしとおねえさまの間にそんなもの必要ありません」

「我が国ドゥエツでは必要です」

「あなたはおねえさまとあたしの再会を邪魔するの?」


 なかなか粘るなあ。感情論は謁見の間に必要ないんだよ?


「貴方もカレシと一緒で天井越えてみたい?」

「ひっ」


 にこやかな笑顔で対応しているのに顔青褪めちゃった。おかしいな? これ壁ドンって言って女性はもれなくときめくものだってテュラから聞いていたんだけど、全然違うじゃん。


「今回は牢に入る程度で済みましたけど、次回正式な手続きなくいらしたら今度は城どころか山越えますよ?」

「?!」

「お帰り頂けますね?」


 こくこくと頷かれる。

 テュラの言うゲームヒロインにありがちな平凡仕様の茶色の髪と目に既視感を覚えた。


「ん? 前にどこかで会いました?」


 怯え青褪めていた義妹の顔色が違った様相を示した気がした。


「……いいえ」

「そうですか。これは失礼」


 素性調査で会っていた記録なかったしね。

 壁ドンを解除してあげれば、ふらふらしながら自ら扉をくぐる。扉の先のルーレ達と目が合い、最後までお見送りをお願いした。後々殿下に帰国するまで詳細に報告が上がるだろう。


「ん? ルーレ?」

「ディーナ様?」


 そういえばシャーリーの義妹の名はルーラだったっけ。似た名前だけど見た目全然似てないし兄妹ではなさそうね。なんだか立て続けに引っかかったけど、今はそんなところを言及している場合じゃない。


「ひとまずやれやれかな?」

「ディーナ様、相変わらずですね」


 せめて相手の了承を得てからやって下さいと苦笑される。ソッケ王国の両陛下には了承の上タイマンはったけど、あの王子はいいでしょ。皆殴りたかったでしょ。


「スカっとしなかった?」

「しましたが」

「ならいいじゃん」


 天井を見ればテュラがもう魔法で天井を修復していた。仕事早い。


「相変わらず壮観だな、ディーナ」

「殿下、後のことお願いしても大丈夫ですか?」

「ああ」


 王太子殿下の元へゆっくり戻ると、シャーリーが涙をためて震えていた。そうだよね、トラウマと相対するなんて中々できるものじゃない。

 最初殿下だけ出てきたということは彼女は元々ここにいるはずのなかったはず。


「ディーナ様、お怪我は?」

「ないない。魔法で身体強化してるから」


 わざと当てられに行った最初の手を叩かれたのと、剣の腹を叩いたのは打ち身になってるけど、そこは言わない。シャーリーのことだから自分のせいでとか言いそうだし。


「ディーナ様……」


 ついにシャーリーの瞳から涙が流れた。トラウマ相対は酷だったかなあ。


「あ、ありがとう、ございます」


 雰囲気から察するに私が怖くて泣いている様子ではない。近づいて同じ目線に立っても感謝の言葉が続いた。


「頑張ったね」

「っ……」


 指の腹で涙を拭う。うっわ、すごい肌つるんつるんでつやつやなんだけど……すごい。


「こら、ディーナ」


 きょとんとしたシャーリーと何故か私を嗜める殿下に、はっと気づいた。


「ごめん。はい、ハンカチ」

「あ、ありがとうございます」

「ディーナ様、違います」

「え?」


 後ろのヴォルムに指摘され振り向いても呆れた顔をされるだけだった。指で涙拭くのだめってやつじゃないの? だからハンカチ出したんだけど?


「ヴォルム、いい。ディーナはいつもこうだ」

「はい」


 頷き合う男性陣。

 考えろ。一体何が間違っていた? 私の拳外交 (他称)のせい? 私を怖がってないけど、殴り合いはだめって? 


「怖かった? 話聞いてても生で見ると拳の迫力違うもんね」

「ディーナ様」

「これも違うの?」


 王太子殿下がやれやれと首を浅く横に振った。

 そして泣いて顔を赤くしたシャーリーを連れて行く。最後までシャーリーは私に感謝をしていた。


「私たちも出よう」


 謁見の間を出る。回廊は何事もなかったかのように静かだった。


「結局正解って何? トラウマじゃないの?」

「はい、見当違いです」

「ええ?」


 ソフィーと三人になって回廊を進む。拳をぐっと握り熱めに主張した。


「立ち去るエネフィ公爵令嬢を拝謁しました。明らかに恋する乙女の顔でした!」

「恋?!」

「救世主が目の前に、みたいな!」

「ええ?」


 ヴォルムもソフィーの主張に頷いている。

 つまりシャーリーはトラウマであるあの二人を懲らしめた私がヒーローのように見え、感動に打ち震えて泣いた、と。


「そうなんだ?」

「ソッケ王国では王子だからって誰も彼を咎めなかったのでしょう。そこを打ち破って殴るディーナ様はシャーリー様にとって英雄以外の何者でもありません。通常王子という身分の方は城の天井を突き破って飛んでいきませんからね!」

「救世主に英雄……」


 でもさすがに恋はないと思うよ。シャーリーは殿下と結婚する身だし。


「相変わらず罪深いお人です」

「ですね」


 この二人が意気投合すると私の居場所なくてつらい。

 そういえばテュラにも「男だったらラノベハーレムいけたな」って笑われた記憶があるわね。それのこと?


「ディーナ様」

「ん?」

「手をわざと打たれましたね。剣の時も敢えて痛めていたかと」

「ああ、まあね」


 ヴォルムが気づいた。打ち身になって手の甲が赤くなっている。最初の一発をわざと打たれるため、次に王子の時も敢えて強化を緩めたから赤くなった。この程度なら寝れば治るからいいでしょ。


「……ソフィー嬢」

「畏まりました。リーデンスカップ伯爵令息」


 まずい。

 と思ったら遅かった。


「ヴォルム!」


 ヴォルムに横抱きで抱え上げられた。二人が互いを畏まって言い合う時は碌なことがない。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。

タイトルがひどい(笑)。でも全部入ってますからね~、王子を殴って天井突き破らせざまあを果たし、義妹ルーラに壁ドンして、ヴォルムにお姫様抱っこされる。私の話で良く出てくる壁ドン(相手違う)と姫抱っこできたのでよしです(´ρ`)



記録1/14

義妹ルーラの外見表記

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